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2021年6月29日火曜日

VonoprazanとPPIの副作用の比較

 Vonoprazan: タケキャブ®

2015年2月に販売開始された比較的新しい制酸薬. 最近よく処方されているのを見る様になった.

PPIとは異なる機序であり, 副作用も気になるところ. 新しいため, また情報の蓄積は少なく, わからないことも多い.

(Pharmazie. 2020 Oct 1;75(10):527-530. doi: 10.1691/ph.2020.0604.)

日本国内のJADER(Japanese Adverse Drug Event Report) 
医薬品副作用データベースを用いて,
VonoprazanとPPIの副作用を比較した報告

・2004-2017年に報告された副作用を解析

・この間に報告された副作用はPPIで11433例, 

 Vonoprazanで636例 (
Vonoprazanの販売は2015年2月〜)


PPIで報告された副作用 Top 10

・肝障害, 間質性肺炎, 顕微鏡的大腸炎

・血球減少: 顆粒球減少, 血小板減少, 汎血球減少

・薬剤性皮疹: TEN, 薬疹, 多型滲出性紅斑

・特に顕微鏡的大腸炎のRORが高い. 薬剤別ではランソプラゾール, ラベプラゾールで多い


Vonoprazanで報告された副作用 Top 10

・肝障害

・出血性腸炎

・発熱

・血球減少: 血小板減少, 汎血球減少

・薬剤性皮疹: 薬疹, Rash, 多型浸出性紅斑, TEN

出血性腸炎のRORが86.5と非常に高い.

 PPIと異なり, 顕微鏡的大腸炎の報告は多くない


Vonoprazanと出血性腸炎の報告は,
症例報告を調べる限りは見つからず.

ピロリ菌除菌において, AMPC, MNZ, クラリスロマイシンなどに加えてVonoprazanを併用し, 出血性大腸炎を生じた症例報告は散見(この場合, 抗菌薬によるものと判断されていることが多い)

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PPIとVonoprazanで共通する多い副作用は肝障害, 血球減少, 薬疹

腸炎については, PPIでは顕微鏡的大腸炎が多く, Vonoprazanでは出血性腸炎が多い.

しかしながら, Vonoprazanと出血性腸炎で検索しても, その症例報告は見つからない.

判断が難しい.


代替薬がある新薬はひとまず処方は避けて様子見, が自分のスタイルではある

2021年6月28日月曜日

本の感想: フレームワークで考える内科診断

 献本御礼


米国で集中治療医をしてらっしゃる, 田中竜馬先生が訳された本です。

フレームワーク法というのは (自分はそんな詳しくないですが),
各主訴, 症候ごとに, 機序や解剖を基本に分類し, そこから鑑別疾患を挙げる方法です


この本では, まずは主訴ごとに症例提示があり,
その後Q and A方式で, その主訴の総論的な説明, そしてフレームワークで分類した鑑別疾患と, その大まかな概要が記載されています.

その記載内容が, とても簡潔, なのに情報量が十分あり, 満足感が高いです.


このフレームワーク法の鑑別疾患の挙げ方としては, 私個人としては「VINDICATE」で鑑別する[Differential Diagnosis in Primary Care]が思い出されます.


現在は日本語訳もあるようです


私が医学生〜初期研修医の時分には, この本を使って, VINDICATEで考えながら鑑別疾患を勉強していました.
*VINDICATEは
 V – Vascular
 I – Inflammatory
 N – Neoplastic
 D – Degenerative / Deficiency
 I – Idiopathic, Intoxication
 C – Congenital
 A – Autoimmune / Allergic
 T – Traumatic
 E –  Endocrine

今もその習慣は抜けておらず, 考え方の根幹となっています.

経験を経ると, そのVINDICATEから, 主訴に応じて無駄を削ぎ落とし, 簡略化し, 日常診療で使用しやすいように落とし込むのですが,
この「フレームワークで考える内科診断」には, はじめから削ぎ落とされた完成形がそこにありました.

まずはこのフレームワークを頭に入れて診療し, さらに経験に応じて肉付してゆくと, より臨床力のUPにつながると思います.

外来診療や, 診断学でまずなにをしてよいか/どう考えて良いかわからない初学者(医学生〜)はこの本から勉強すると良いでしょう.





回帰性リウマチ

 疾患例: 30歳台女性. 5-6年前より間欠的な関節炎症状が認められた.

・月に1-2回, 急性経過で関節痛を生じ, 1日〜数日で改善する.

・関節は通常1箇所程度で, 多くても2-3箇所.

・部位は手関節, MP, PIP, DIP, 膝など様々. 部位は一定ではない.

・指ではPIP-DIPの間の腫脹など, 関節のみではないようなエピソードもあった.

・間欠期では症状は認めない.

・近医にて関節リウマチを疑われ, RF, ACPAなど評価されるもいずれも陰性.

 XPでも骨びらんや変形は認められなかった.


来院時, 右示指PIP関節の腫脹, 疼痛が認められた.

関節エコーでは滑膜肥厚や血流増加は認められず, 関節周囲の浮腫, 血流の軽度増加を認めた.

NSAIDによる治療にて速やかに改善.

尿酸値は正常. 関節石灰化も明らかではなく, 結晶性関節炎のような印象も乏しかった.

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みたいな症例.

回帰性リウマチについてまとめます.


回帰性リウマチ Palindromic Rheumatism

・急性の関節炎, 関節周囲炎を生じるが,
 数時間から数日で改善し, 再発を繰り返す.
 

 後遺症は通常残さない.

・発熱は通常認めず, Labでも炎症反応以外は特に問題無し.


 RAとは異なり, RFは通常陰性となる.

・有病率は一般人口の5%とも言われており, 比較的多い疾患.


 男女比は1:1, 平均発症年齢は45y, 範囲は20-80台まで様々.

・予後は様々. 1/3は改善, 1/3は再発を繰り返し, 半数はRAへ進展する.

(Southern Medical Journal 2011;104:147-9)


回帰性リウマチで侵されやすい関節;

・肩, 膝, 手首, 足首, 小関節, 手関節が多い.


 股関節, 肘はやや少ないが, どの関節に生じても良い.

・脊椎や胸鎖関節は少ない; <5%

・単関節炎が多く, 非対称的, 遊走する.

・関節炎は2-3hrで増悪し, 48hr以内に消退する.

 
発熱は認めない.


 一部で一過性の皮内, 皮下結節を生じる例がある.

(Southern Medical Journal 2011;104:147-9)


PRの鑑別となる, 再発-寛解を繰り返す関節炎

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology Vol. 18, No. 5, pp. 647–661, 2004 )

・Whipple病には注意したいところ(個人的に

回帰性リウマチの診断Criteria
・以下の5項目を満たすことが必要.

 1) 再発性の単, 多関節炎を6ヶ月以上認めている
 
2) 医師により関節炎が確認されている
 
3) 合計3箇所以上の関節で炎症が起ったことがある
 
4) XPでErosionを認めない

 5) RA, SLE, 結晶性関節炎など他の疾患が除外されている.
(Clin Rheumatol (2010) 29:83–86)


RPとRAの関係

(Nat Rev Rheumatol. 2019 Nov;15(11):687-695.)

・Cohortによると, 10年程度のフォローにおいて,
およそ4割~6割がRAとなる.

・20年以上フォローしたCohortでは2/3がRAを発症.
 

 移行は多くは10年以内に認められる.

・RAとPR双方とも, リスク因子は類似しており,
 PRの多くがRA関連抗体(ACPA)やRFが陽性となることから, 
PRはRAの前疾患として考えられていた.

・しかしながら, 2018年に発表されたPR症例のUS所見を評価した報告では, PRは滑膜炎ではなく関節周囲の炎症が主でることが示された.


 RAでは滑膜炎を伴わない関節周囲炎は少なく,
 RAとPRが同一の病態とすると矛盾する.


・また, PRはRA以外にも血管炎や他のCTDへ移行するとする報告もあり,

 一概に前駆病変とするのは難しい.


未治療のPR症例において, 炎症期と間欠期における
関節エコー所見を評価した報告

(Ann Rheum Dis. 2019 Jan;78(1):43-50.)

・PR患者は79例. 炎症期に受診できたのは31例の所見を評価.


 このうち持続性の関節炎(RA)に移行したのは7例

・PR群では, 炎症期では1-3箇所の関節で症状あり.


 関節は手指が8割, 足が3割程度, 大関節も5割


エコー所見

・炎症期の所見として, 滑膜炎を認めるのは23%のみ.

 
61%は関節外の炎症所見が認められる.

 
関節外のみが39%, 滑膜炎+関節外炎症所見が23%

ACPA別, 新規発症RA症例との比較

・PR症例では, ACPAの有無にかかわらず, 関節外炎症が主なのは同様.

 新規発症RAでは滑膜炎の頻度が7割と高い
関節外炎症単独は4%と非常に少ない.


RAへの移行リスク
・Cohortでは, 小関節炎の存在, PR診断時にACPA陽性は, その後のRA移行リスク因子となる
(Southern Medical Journal 2011;104:147-9)(Scand J Rheumatol 2010;39:287–291)


回帰性リウマチの治療

(Semin Arthritis Rheum. 2021 Feb;51(1):266-277.)

・PRの治療はRCTはなく, 経験的に行われている.

・炎症期の治療はNSAIDやPSL 10mg/dが用いられることが多い

・増悪の予防としては

 コルヒチン,  HCQ, 金製剤, MTX, AZA, SSZなどが用いられている

 
RTXの報告もある.


2021年6月24日木曜日

ステロイドによる耐糖能障害は食後血糖の上昇が基本

 同じようなものは以前にも書いていた

参考: ステロイドユーザーの耐糖能障害の評価、介入

参考: ステロイド長期使用におけるメトフォルミンの併用

教育によく使えそうな報告が発表されたので紹介

(Rheumatology (Oxford). 2021 Jun 18;60(6):2842-2851)

元々糖尿病, 前糖尿病の既往がない,
炎症性リウマチ疾患でPSLを3ヶ月を超えて投与された150例において, OGTTを施行した前向き報告

・150例中, 女性は125例. 平均年齢は59.5歳.

 88%がPSL≤10mg/dの投与量で, 投与期間の中央値は81.2ヶ月

 調査時のステロイド投与量は5mg/d[2.5-7.5]であり, 少量の維持期間における調査といえるか

アウトカム

・OGTTの検査にて, 耐糖能正常だったのが102例(68%)

 空腹時耐糖能障害(IFT)単独 4.67% (食前 ≥100mg/dL, OGTT 2h <140mg/dL)


 食後耐糖能障害(IGT)単独 19.33% (食前 <100mg/dL, OGTT 2h 140-199mg/dL)


 IFT+IGT 4.67%


 糖尿病の診断 3.33% (OGTT 2h ≥200mg/dL), 5名. このうちIFT(-)は1例.


食後耐糖能障害単独, 糖尿病(空腹時正常)のリスク因子

・体脂肪率と50歳以上がリスク因子となる


TFP: 体脂肪率 

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長期間の少量ステロイドを使用している患者のおよそ25%(19.33+4.67)で食後耐糖能障害が認められる. 2割は食後耐糖能障害のみ.

空腹時血糖のみをフォローしても, それが異常となるのはおよそ10%弱(4.67+4.67).

糖尿病と診断された症例は5名(3.33%)で, このうちIFT(-)なのが1例.

IGT, DMのリスクとなるのは高齢者と体脂肪率

長期間ステロイドを使用しているリスク因子+患者ではたまに食後血糖の評価やOGTTも検討すべきかもしれない.

ステロイド長期使用におけるメトフォルミンの併用 では, メトフォルミンの併用により皮下脂肪量の減少効果もあり, IGTの予防にもなるのかも?

新規の経口血糖降下薬: Imeglimin

 新しい経口血糖降下薬が国内で承認されたとの話を聞いて, 調べてみました.

Imeglimin: イメグリミン.(ツイミーグ®)

Imegliminは新しいクラスの経口糖尿病薬(2021年)

・ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを部分的に阻害し, ミトコンドリア機能を改善させるとともに, 活性酸素の発生を抑制する.

・膵臓β細胞のグルコースへの感受性を改善させ, インスリン分泌を増大させる作用がある

・また, 肝臓における糖新生の抑制, 筋骨格系での耐糖能障害を改善させる

・メトホルミンと構造が類似しており, メトホルミンもミトコンドリア呼吸鎖複合体Iを軽度抑制する作用があるが, 双方はメカニズムが異なる.


 メトホルミンやシタグリプチンへの追加投与を行っても, イメグリミンは有効且つ安全であることが示されている. また, 乳酸アシドーシスリスクも少ないらしい

(Diabetes Obes Metab. 2021;23:800–810.)


日本人の2型DMを対象としたPhase 2b trial(DB-RCT)

(Diabetes Obes Metab. 2021;23:800–810)

・20-75歳, BMI ≥18.5, 生活/栄養指導は行われ, 


 DM薬物治療が未(12wk以上使用されていない)群と


 1種類のみ使用されている症例(12wk以上投与量一定)で,
 

 HbA1c 7.0-10.0%である患者群を対象.

・除外項目は注射投与のDM薬剤の使用, CKD(3b,4,5), 心不全(NYHA III-IV), 6ヶ月以内のACS, CVD.

上記患者群を
Imeglimin 500, 1000, 1500mgを1日2回内服 vs Placeboの4群に割り付け, 24wk継続. 血糖コントロールを比較.

母集団


アウトカム

・24wkにおけるHbA1cは 1000-1500mg bid投与群で
Placeboと比較して -1%程度

・主に耐糖能障害の改善が良好

副作用

・1500mg bidの使用では薬剤由来副作用が24%と多いが重大な副作用は少ない


 1000-1500mg bid群では副作用による治療中断が7%弱

・消化管副作用が多い

副作用の観点からは日本人には1000mgがBetterか


TIMES 1: Imegliminの国内のPhase 3 trial

(Diabetes Care 2021;44:952–959)

・国内の30施設におけるDB-RCT.

・対象は≥20歳の2型DMで, 栄養指導のみ, 

 または経口血糖降下薬1剤のみを12wk以上一定の量で使用し, 

 HbA1c 7.0-10.0%を満たす群を対象

・除外項目は注射投与のDM薬剤の使用(30日以内), CKD(eGFR <45mL/min/1.73m2), 心不全(NYHA III-IV), 24wk以内のACS, CVD.

(ほぼPhase 2bと同じ)

・上記を満たす患者群を
Imeglimin 1000mg bid vs Placebo群に割り付け, 24wk継続
血糖コントロールを比較.

母集団


アウトカム

・24wkにおけるHbA1cは, Imeglimin群でPlaceboと比較して-0.87%

・未治療患者群では, 
Imeglimin群で-0.81%[-0.96~-0.67], AD -0.87%[-1.07~-0.67]

・既治療患者群では, Imeglimin群で-0.51%[-0.73~-0.29], AD -0.84%[-1.16~-0.52]

・低血糖エピソードは, Imeglimin群で2.8%(3名), Placebo群で0.9%(1名)
, 重症例は無し


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新薬なので, 今後の蓄積データによる副作用や問題点の懸念はありますが,
経口薬剤の選択肢が増えるのはありがたい.


2021年6月20日日曜日

本の感想: 診察室の陰性感情

 献本御礼



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診察室の陰性感情 [ 加藤温 ]
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「診察室の陰性感情」というタイトルから, どのようなことがテーマか, というのは丸わかりでしょう. 
 そして, だれしも「あるある」と頷くのではないしょうか?

確かにERや一般外来で, 腹を立てずに穏やかに診療できている先生はおります(内心は知りませんが). 少なくとも自分には無理でした.

年数が経つと, 余裕ができてきて, イライラの理由もある程度固定化されるため, 徐々に対処することが可能となり, 現在は以前よりはイライラ, 陰性感情がでてくることはずいぶん減ったかと思います. 


この本では, どういった要素が陰性感情の原因となるか,
そして 「そういった要素」が最も多いであろう, 精神科診療において, どのように対応しているかを総論的, ケース毎に解説しています. 


第7章では, 医師-患者間ではなく, チーム医療における陰性感情も扱っており, かなり心に刺さる内容が多い(反省という意味で・・・).




個人的な印象として, 最も診察室で粋る(イキる) 後期研修医の後半〜専門取得後数年(大体〜10年?)がイライラの極期ではないかと思われる(個人差はあり).

この時期は下っ端で, 雑務も多く, 周りの扱いも雑で, 当直も多くて・・・

そしてさらに周りに気を遣え, 優しくジェントルにだとぉ? という無茶振りを要求される. 

そういった中でこの本の内容は, 理解可能だとは思うが, それで解決するかというと, やはりなかなか難しいように思う. 
しかしながら, それでもこの内容に目を通しておくと, 徐々に自分の診療の問題点, もっとよくできる点が気づけるようになると思う.
すぐに変えてゆくのは難しいし、それもストレスとなるため, 早めに一回読んでおいて, ゆっくりと改善させてゆくのが良いと思う.

自分もこれからより良くして行こうと思いました.

2021年6月17日木曜日

院外CPA蘇生後の低体温療法 vs 正常体温維持療法(TTM-2)

 こちらも参照 

CPA蘇生後の低体温の体温目標値は36度でOK


心停止蘇生後では低体温を維持する治療が以前は行われていた.
(現在も? 自分の周りではもうすでに行われることは少なくなりました.)

その後, 2016年に低体温療法群と正常体温維持群(高体温を予防する)に割り付け比較したRCTがいくつか発表され, 低体温にするのではなく, 正常体温を維持すれば良いのだ, という知見が広まった.

しばらく空いて, その時のStudyの追試: TTM-2 trial

TTM2: 院外CPAで蘇生した成人症例1900例を対象としたopen-label with blinded assessment of outcomes RCT. 

(N Engl J Med 2021;384:2283-94.)
・対象患者: 18歳以上の成人で, 心臓性 or 原因不明と推定される院外心停止後に入院した患者を, 初期リズム波形に関係なく導入.
 
 蘇生後20分以上循環が維持できている患者で, さらに意識がなく, 言葉による指示に従わず, 痛みに対しても言葉の反応がない患者を対象とした.
・除外基準: 心拍動が戻ってから, スクリーニングまで180分以上経過した症例, 目撃者のいない心停止で初期波形がAsystoleの患者, 治療が制限されている患者.

・これら患者群を以下の2群に割り付け
 低体温群: 33度で28時間維持し, その後3時間に1度の速度で37度まで復温する.
 正常体温群: 37.5度を超えないように維持する
 対症療法や薬剤で37.8度以上となってしまう場合は, Cooling deviceを使用して対応する.

・アウトカムは死亡リスクと神経予後

母集団
・除細動適応となるリズムは7割強含まれる
・ROSCまでの時間は25分

アウトカム

・6ヶ月の死亡リスク, mRS 4-6は両者で有意差なし
・合併症は低体温群で多い結果

臨床的に除外 が可能な肺血栓塞栓症 Pretest probability score: 4PEPS

 肺血栓塞栓症の予測スコアはさまざまなものが発表されている.

有名なのはWell's criteriaやRivised Geneva score

この2つの評価では, 可能性が高い場合は造影CTなど画像検査を, 可能性が低いならばD-dimerを評価し, 低値ならば除外, というステップを踏む.

それ以外のScoreも多くが臨床所見+D-dimerで判断する.

PERC strategyは8項目をチェックし, いずれも満たさない場合はPEを否定. CT血管造影など検査を行わない方法であり, 以下の項目をチェックする方法:

PERC(Pulmonary embolism rule-out criteria):
(JAMA. 2018;319(6):559-566.)

・SpO2≤94%
  ・HR≥100bpm


・年齢≥50歳
  ・片側下肢の浮腫

・血痰
  ・最近の外傷歴や手術歴

・肺血栓塞栓症やDVTの既往
  ・エストロゲン製剤の使用


そこで今回「臨床的に検査なしで除外可能」な群を含むPretest probability scoreの作成をおこんった.

4PEPS 
(4-level PE clinical Probability Score)

(JAMA Cardiol. 2021;6(6):669-677.)

・患者をリスクに応じて以下の4つに分類するように, USと西欧のERにおいて, PEを疑われた患者群を対象とし, PEの予測スコアを作成.

リスク


想定%

Very low

臨床基準のみで除外可能

<2%

Low

D-dimer <1.0µg/mLで除外可能

2-20%

Moderate

D-dimer<0.5µg/mLまたは年齢x0.01(>50)で除外可能

20-65%

High

D-dimerで除外不可画像検査必要

>65%

・N=11114, PE率11%の患者群でDerivation, Internal validationを行い, 


 2つの他のStudyデータよりExternal validationを行った;
 

 N=1548, PE率21.5%のPE高確率群と
 

 N=1669, PE率11.7%のPE中確率群.

母集団データ


Derivation cohortより
PEの可能性に関連する
要素とそのスコア化
(4PEPS)

・PEの可能性を下げる因子

 年齢(若年), 慢性肺疾患, 頻脈なし, 

・PEの可能性を上げる因子

 胸痛+急性呼吸苦, 男性, ホルモン療法, VTE既往, 失神, 4wk以内の体動困難, SpO2 <95%

 男性, 下腿の疼痛 and/or 片側浮腫, PEが最も考えやすい

スコアとPEの可能性

・Very Low <0点: そのまま除外

・Low 0-5点: D-dimer <1.0µg/mLで除外, それ以外は画像検査

・Moderate 6-12点: D-dimer <0.5 or 年齢x0.01(>50歳)で除外, それ以外は画像検査

・High ≥13点: D-dimer関係なく画像検査.


Validation cohortにおける各指標の評価

・画像検査を行う症例は4PEPSで最も少ない(46%, 32%)

・偽陰性は他の指標と大きくは変わらない.

・4PEPSは画像検査の施行症例を少なくすることが可能

 
Standard(Revised Geneva, Well’s)と比較して
-22%[-26~-19], -19%[-22~-16]と2割程度画像検査が減らせる

2021年6月12日土曜日

Abdominal migraine: 腹部ミグレン

繰り返す強い腹痛だが, 検査を繰り返してもなにも異常がない. といった紹介はコンスタントにある.

繰り返す = Episodic, 発作性の腹痛, というと, 家族性地中海熱のような自己炎症性疾患や, 急性間欠性ポルフィリアなども連想するが, ここでAbdominal migraineという病態も押さえておきたい.

類似した病態に周期性嘔吐症もある(両者のオーバーラップもあり). 

こちらを参照 中年女性: 繰り返す嘔吐


Abdominal migraine
・典型的には, 小児期に生じる原因不明の反復する腹痛であり,
 小児の慢性, 特発性,
 再発性の腹痛の4-15%が
AMとされている(Headache 2011;51:707-712)

特徴は,
・多くは上腹部痛が1時間を超えて出現する
・腹痛消失時は全く症状がない
・腹痛発作は以下の症状のいずれかを伴う
 顔面蒼白, 食欲低下, 嘔吐, 羞明, 頭痛
 または, 他のEpisodicな症状を伴う(周期性嘔吐や四肢の疼痛)
・発作は日常生活を妨げるレベル
・精神, 身体の発達障害がない
(BMJ 2018;360:k179)

診断基準にはICHD, Rome IIIがある:
(The American Journal of Medicine (2012) 125, 1135-1139)

英国のCohortでは, 6-12歳の学童で多く,
12歳でピークを迎え, 14歳では低下する.
・男女比は1:1.6と女性に多い
・小児の繰り返す腹痛, 消化管症状で,
 他に器質的疾患を認めない場合に考慮する.
 片頭痛や片頭痛の前兆を伴う事も多い
・ストレスや疲労, 環境の変化が腹痛発作のトリガーとなる
・腹痛の寛解因子は安静, 睡眠, 鎮痛剤の使用
(BMJ 2018;360:k179)

AMと片頭痛のトリガー頻度
(Cephalalgia. 2016 Sep;36(10):980-6.)
・ストレスや疲労は多いトリガー

成人例のAbdominal migraine 10例の解析では,
(The American Journal of Medicine (2012) 125, 1135-1139)
・発症年齢は30.6y ± 17歳.
18歳以降の発症が7/10と, 成人発症もある.
・また, 家族内に片頭痛をもつ割合が90%.
・症状; 腹痛は心窩部が
50%を占める.


他の成人例のAMの症例報告:
(Intern Med 55: 2793-2798, 2016)

Abdominal migraineの対応
・誘因がある場合は生活指導
・薬剤を使用する場合は, 
 急性期では鎮痛剤やトリプタン製剤, 報告によってはプリンペラン®の使用
・発作予防では, プロプラノロール, ベラパミル, シクロヘプタジン(ペリアクチン®, H1阻害), 
 バルプロ酸, トピラマートなどが使用されている
(BMJ 2018;360:k179)(Ann Pharmacother. 2013 Jun;47(6):e27.)

・Medication Overuseにより
腹痛頻度が増悪した症例もあり(Headache 2008;48:959-971)



AMは片頭痛患者で認められたり, 
片頭痛自体が腹痛や消化管症状(機能性胃腸症)との関連があるとする報告が多い

片頭痛における説明困難な上腹部痛の頻度
・片頭痛(-)の献血者488名と, 片頭痛患者99名において,

 腹部, 消化管症状についてアンケートを施行.
・腹痛, 上腹部痛の頻度は有意に片頭痛患者で多く,
 周期性の繰り返す疼痛が多い.
 夜間の疼痛は片頭痛患者ではむしろ少ない.
(Cephalalgia. 2006 May;26(5):506-10.)

フランスとイタリアの4カ所のERを片頭痛 or 緊張型頭痛で受診した6-17歳の小児患者を対象とし, 機能性胃腸症と頭痛の関連を評価.
(Lancet Gastroenterol Hepatol  2016; 1: 114–21)
・頭痛の診断は小児神経内科医にて行われた(ICHD-3).
・また, 軽症外傷で頭痛既往のない小児患者をControlとして評価
 機能性胃腸症はRome III基準を用いて評価

・2014年11月〜2015年1月末までに受診した患者は,
Control群で648例, 頭痛群で424例(片頭痛257例, 緊張型 167例)

機能性胃腸症の頻度

・緊張型頭痛では機能性胃腸症リスクの
上昇は認められない一方で,

 片頭痛ではFunctional dyspepsiaやIBD
Abdominal migraineのリスクが上昇
・便秘は片頭痛患者では少ない

前兆の有無や年齢群とリスク

・前兆の有無に関わらず, これらリスクは上昇する.
・Abdominal migraineはより若年例で関連. 
IBDやFDは関係なくリスク上昇

イランにおけるPopulation-based cohort
イラン南部の村 Baladeha villageにおける調査.
人口1848名で, >15歳の1118名を対象.
(Middle East J Dig Dis 2017;9:139-145.)
・1038例(92.8%)で問診が行われ, 片頭痛の有無, 機能性胃腸症(Rome III)の有無を評価.
・糖尿病や高血圧, 心血管疾患, OA, 神経疾患, 器質的消化管疾患, すでに片頭痛の治療を受けている患者は除外された.
・患者群を以下の4群に分類し, 各群よりランダムに40例ずつ抽出し
ブラインドされた医師により上部内視鏡検査, 生検を施行された.
 
1) 片頭痛+, 機能性胃腸症+
 
2) 片頭痛+, 消化管症状-

 3) 片頭痛-, 消化管症状+
 
4) 片頭痛-, 消化管症状-

片頭痛の有無とIBS, 逆流症状, Dyspepsiaの関係
・どの症状も片頭痛+群でよりリスクが上昇する
・病理所見は, 片頭痛の有無と消化管病理に関連性はない

ピロリ菌陰性のFD患者60例を対象とし, 片頭痛の有病率, 症状の重症度を評価した報告.
38例がPostprandial distress syndrome, 22例がepigastric pain syndrome.
(Cephalalgia. 2019 Oct;39(12):1560-1568.)
・前兆を伴わない片頭痛は41例(68%)で診断(ICHD-3)

・EPSでは54%(12例), 食事に関連して生じる頭痛はないが, 6例は頭痛とともにDyspeptic symptom(特に悪心)が生じた.
・
PDSでは76%(29例)で, さらにその89%(26例)で食後に片頭痛が出現し, 頭痛とDyspeptic symptomに関連性が認められた.

片頭痛の重症度と消化管症状の程度の関連

・PDSでは腹満感や早期の満腹感が片頭痛の重症度と関連
・EPSでは上腹部の胸焼け感や鼓腸が関連しているが, 
片頭痛が重度なほど軽い.

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繰り返す腹痛発作の鑑別としてAbdominal migraineを考慮する
小児で多い疾患であるが, 成人例もある.

片頭痛と合併することもあれば, 腹痛のみのことも.
そもそも片頭痛では原因不明の腹痛や機能性胃腸症との合併が多く, 
これら片頭痛, AM, 機能性胃腸症, 周期性嘔吐症といった病態はオーバーラップしあっている可能性がある.

2021年6月10日木曜日

鉛中毒

 慢性/急性の鉛暴露による中毒症状.

・現在は主に職業での暴露が多い: バッテリー, ガラス,
塗装, 鉛加工など.

 海外では銃弾も原因の一つ.

・非職業暴露ではハーブや
サプリメントなどで報告

 古い鉛製の水道管に溶出した
鉛を摂取して生じた事例もある

(Toxicol Ind Health. 2020 May;36(5):346-355.)

鉛の摂取は経消化管, 経呼吸器的に行われる

・消化管からの吸収率は年齢や背景により様々


 鉄剤やCa製剤, Mg, P, アルコール, 脂質の摂取は
鉛の吸収率を低下させる報告がある.


 新生児の吸収率は50%, 成人では10-15%程度

・吸入した鉛の30-40%が吸収される.

・経皮吸収は有機鉛で多い: Tetraethyl, alkyl-leadで, 有鉛ガソリンに含まれるが, 現在のガソリンは無鉛ガソリン
 

 航空機や船舶, 農業機械, 旧車では用いられており, 有鉛化添加剤が販売されている.

(Altern Med Rev 2006;11(1):2-22)


吸収された鉛の99%が30-35日間 赤血球に結合する.
残りの1%は血液中に存在し, 各組織に拡散する(肝臓, 腎皮質, 大動脈, 脳神経. 肺, 脾臓, 歯, 骨)

・赤血球に結合する期間は30-35日,
各軟部組織に分布する期間は4-6週間と長い.

・血液中の鉛の半減期は35日間であり, 6週間以上前の暴露の場合, 血液中鉛濃度は診断に有用ではない.

・軟部組織に分布した鉛は, 成人では80-95%が骨に, 小児では70%が骨に分布しており, 小児例では他臓器への分布が多い.


 また骨に分布した鉛の半減期は20-30年と長期間保持される
 

 高齢者では骨の鉛濃度が高い特徴がある.

・排泄は無機鉛はそのままの形で尿, 胆汁, 唾液に分泌される.


 有機鉛は酸化的脱アルキル化が生じ, 代謝産物は強い神経毒性を有する

(Altern Med Rev 2006;11(1):2-22)


鉛中毒の診断

・血液中鉛濃度: 正常値は≤5µg/dL
 

 鉛作業に従事する場合, 厚生労働省の通達では,
 

 分布1: ≤20µg/dL, 分布2: 20-40µg/dL, 分布3: >40µg/dL, 尿中鉛 20µg/L以下との通達があるが, 中毒の鑑別に用いる指標ではない.

・δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)

 δ-アミノレブリン酸(ALA):
 鉛中毒では, ALADが低下し, ALAの血中濃度, 尿中濃度が上昇する

・赤血球では,
好塩基斑点が認められ,
正球性~小球性貧血となる
また, 網状赤血球は上昇する

補足: 好塩基斑点とは?

・赤血球系幼弱細胞の異常型で認められる好塩基性の斑点

・古典的に鉛中毒で認められる所見で有名ではあるが,
 その特異性は低く, 様々な疾患で認められるため注意 (Am J Ind Med. 1984;5(4):327-34.)


鉛縁: Burton’s line

・歯肉の青みがかった
 または灰色の色素沈着

 鉛が口腔内細菌の代謝物と反応
することで生じる兆候


鉛中毒の濃度と症状 (Occupational Medicine 2015;65:348–356)

血球障害

・前述の通り, 正球性〜小球性の貧血を生じる. 

 好塩基斑点と伴う赤血球, 網赤血球の増加を伴う.

鉛疝痛

・間欠的な上腹部痛と消化器症状

神経障害

・末梢神経障害や脳症による意識変容やイライラ, 認知機能低下

鉛中毒による腎障害

・近位尿細管障害, 糸球体硬化, 間質線維化を生じ
蛋白尿やGFRの低下を引き起こす.

・貧血や鉛疝痛, 神経障害とともに出現することも多かったが,
近年, それら障害が生じるレベル以下の血中濃度で生じる腎障害も報告されている.
慢性暴露で血中濃度が低い一方で, 骨中Pb濃度が高く, 腎障害が進行する報告など.

女性では不妊や流産, 早産などの原因となる.

他には痛風発作, 高血圧が挙げられる


バッテリー工場で働く職員 187名の評価.

(J Eur Acad Dermatol Venereol. 2019 Oct;33(10):1993-2000.)

・血清Pb濃度は74.15±11.58 µg/dL

・自覚症状の頻度:
 

 倦怠感や記憶力・集中力の低下, 爪の変化, 脱毛,
 歯肉の色素沈着など.

・血液検査では, 貧血が2割
腎障害はStage 2, 3程度のみ

・皮膚粘膜所見

 歯肉の褐色色素沈着
歯肉炎の頻度が高い

 鉛縁は半数

 爪の褐色色素沈着

・鉛縁や歯肉の褐色色素沈着がある患者では, 
より血中Pb濃度が高い



鉛中毒のキレート治療

・エデト酸カルシウムナトリウム(CaNa2EDTA) 経口, 静注


 メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸(サクシマー, DMSA) 経口

国内ではEDTAが使用可能である.

EDTA. ブライアン®

・経口: 1日量1-2gを2-3回に分けて5-7日間投与.
 投与後 3-7日間の休薬期間をおいて, これを1クールとし,
 1-3クール繰り返す.

・静脈投与: 1gをブドウ糖液, NS 250-500mlに希釈し, 1時間で投与.
 最初の5日間は1日2回投与し, 2日休薬後 再度5日間投与.
 小児では体重15kgあたり0.5g以下を1日2回投与

・これらキレート薬は亜鉛や銅もキレートするため,
使用前はこれら微量金属も評価し, 低値ならば補充も検討する
また長期間使用時にも注意.


AAP(アメリカ小児学会)のプロトコールでは,


・血中濃度<25µg/dLでは投与非推奨


・25-45µg/dLでも非推奨. 環境調整後も持続するならば考慮


・45-70µg/dLで投与を推奨. 脳症がなければ経口薬での使用を考慮する


・>70µg/dLや脳症がある場合は入院の上, 経静脈投与での使用を考慮 


18例の鉛中毒患者に対して, DMSA 10-30mg/kgを5日間使用した報告

(CLINPHARMACOTLHER37:431-438, 1985.)


・用量依存性に尿中排泄は上昇し,
血中Pb濃度は低下する.

・30mg/kg使用群はDMSA投与終了後も
尿中Pb濃度は高い状態.

・血中濃度は投与終了後1wk程度かけて再上昇

他の金属の尿中排泄

・亜鉛, 銅は顕著に排泄が増加