ページ

2021年6月12日土曜日

Abdominal migraine: 腹部ミグレン

繰り返す強い腹痛だが, 検査を繰り返してもなにも異常がない. といった紹介はコンスタントにある.

繰り返す = Episodic, 発作性の腹痛, というと, 家族性地中海熱のような自己炎症性疾患や, 急性間欠性ポルフィリアなども連想するが, ここでAbdominal migraineという病態も押さえておきたい.

類似した病態に周期性嘔吐症もある(両者のオーバーラップもあり). 

こちらを参照 中年女性: 繰り返す嘔吐


Abdominal migraine
・典型的には, 小児期に生じる原因不明の反復する腹痛であり,
 小児の慢性, 特発性,
 再発性の腹痛の4-15%が
AMとされている(Headache 2011;51:707-712)

特徴は,
・多くは上腹部痛が1時間を超えて出現する
・腹痛消失時は全く症状がない
・腹痛発作は以下の症状のいずれかを伴う
 顔面蒼白, 食欲低下, 嘔吐, 羞明, 頭痛
 または, 他のEpisodicな症状を伴う(周期性嘔吐や四肢の疼痛)
・発作は日常生活を妨げるレベル
・精神, 身体の発達障害がない
(BMJ 2018;360:k179)

診断基準にはICHD, Rome IIIがある:
(The American Journal of Medicine (2012) 125, 1135-1139)

英国のCohortでは, 6-12歳の学童で多く,
12歳でピークを迎え, 14歳では低下する.
・男女比は1:1.6と女性に多い
・小児の繰り返す腹痛, 消化管症状で,
 他に器質的疾患を認めない場合に考慮する.
 片頭痛や片頭痛の前兆を伴う事も多い
・ストレスや疲労, 環境の変化が腹痛発作のトリガーとなる
・腹痛の寛解因子は安静, 睡眠, 鎮痛剤の使用
(BMJ 2018;360:k179)

AMと片頭痛のトリガー頻度
(Cephalalgia. 2016 Sep;36(10):980-6.)
・ストレスや疲労は多いトリガー

成人例のAbdominal migraine 10例の解析では,
(The American Journal of Medicine (2012) 125, 1135-1139)
・発症年齢は30.6y ± 17歳.
18歳以降の発症が7/10と, 成人発症もある.
・また, 家族内に片頭痛をもつ割合が90%.
・症状; 腹痛は心窩部が
50%を占める.


他の成人例のAMの症例報告:
(Intern Med 55: 2793-2798, 2016)

Abdominal migraineの対応
・誘因がある場合は生活指導
・薬剤を使用する場合は, 
 急性期では鎮痛剤やトリプタン製剤, 報告によってはプリンペラン®の使用
・発作予防では, プロプラノロール, ベラパミル, シクロヘプタジン(ペリアクチン®, H1阻害), 
 バルプロ酸, トピラマートなどが使用されている
(BMJ 2018;360:k179)(Ann Pharmacother. 2013 Jun;47(6):e27.)

・Medication Overuseにより
腹痛頻度が増悪した症例もあり(Headache 2008;48:959-971)



AMは片頭痛患者で認められたり, 
片頭痛自体が腹痛や消化管症状(機能性胃腸症)との関連があるとする報告が多い

片頭痛における説明困難な上腹部痛の頻度
・片頭痛(-)の献血者488名と, 片頭痛患者99名において,

 腹部, 消化管症状についてアンケートを施行.
・腹痛, 上腹部痛の頻度は有意に片頭痛患者で多く,
 周期性の繰り返す疼痛が多い.
 夜間の疼痛は片頭痛患者ではむしろ少ない.
(Cephalalgia. 2006 May;26(5):506-10.)

フランスとイタリアの4カ所のERを片頭痛 or 緊張型頭痛で受診した6-17歳の小児患者を対象とし, 機能性胃腸症と頭痛の関連を評価.
(Lancet Gastroenterol Hepatol  2016; 1: 114–21)
・頭痛の診断は小児神経内科医にて行われた(ICHD-3).
・また, 軽症外傷で頭痛既往のない小児患者をControlとして評価
 機能性胃腸症はRome III基準を用いて評価

・2014年11月〜2015年1月末までに受診した患者は,
Control群で648例, 頭痛群で424例(片頭痛257例, 緊張型 167例)

機能性胃腸症の頻度

・緊張型頭痛では機能性胃腸症リスクの
上昇は認められない一方で,

 片頭痛ではFunctional dyspepsiaやIBD
Abdominal migraineのリスクが上昇
・便秘は片頭痛患者では少ない

前兆の有無や年齢群とリスク

・前兆の有無に関わらず, これらリスクは上昇する.
・Abdominal migraineはより若年例で関連. 
IBDやFDは関係なくリスク上昇

イランにおけるPopulation-based cohort
イラン南部の村 Baladeha villageにおける調査.
人口1848名で, >15歳の1118名を対象.
(Middle East J Dig Dis 2017;9:139-145.)
・1038例(92.8%)で問診が行われ, 片頭痛の有無, 機能性胃腸症(Rome III)の有無を評価.
・糖尿病や高血圧, 心血管疾患, OA, 神経疾患, 器質的消化管疾患, すでに片頭痛の治療を受けている患者は除外された.
・患者群を以下の4群に分類し, 各群よりランダムに40例ずつ抽出し
ブラインドされた医師により上部内視鏡検査, 生検を施行された.
 
1) 片頭痛+, 機能性胃腸症+
 
2) 片頭痛+, 消化管症状-

 3) 片頭痛-, 消化管症状+
 
4) 片頭痛-, 消化管症状-

片頭痛の有無とIBS, 逆流症状, Dyspepsiaの関係
・どの症状も片頭痛+群でよりリスクが上昇する
・病理所見は, 片頭痛の有無と消化管病理に関連性はない

ピロリ菌陰性のFD患者60例を対象とし, 片頭痛の有病率, 症状の重症度を評価した報告.
38例がPostprandial distress syndrome, 22例がepigastric pain syndrome.
(Cephalalgia. 2019 Oct;39(12):1560-1568.)
・前兆を伴わない片頭痛は41例(68%)で診断(ICHD-3)

・EPSでは54%(12例), 食事に関連して生じる頭痛はないが, 6例は頭痛とともにDyspeptic symptom(特に悪心)が生じた.
・
PDSでは76%(29例)で, さらにその89%(26例)で食後に片頭痛が出現し, 頭痛とDyspeptic symptomに関連性が認められた.

片頭痛の重症度と消化管症状の程度の関連

・PDSでは腹満感や早期の満腹感が片頭痛の重症度と関連
・EPSでは上腹部の胸焼け感や鼓腸が関連しているが, 
片頭痛が重度なほど軽い.

-----------------------------
繰り返す腹痛発作の鑑別としてAbdominal migraineを考慮する
小児で多い疾患であるが, 成人例もある.

片頭痛と合併することもあれば, 腹痛のみのことも.
そもそも片頭痛では原因不明の腹痛や機能性胃腸症との合併が多く, 
これら片頭痛, AM, 機能性胃腸症, 周期性嘔吐症といった病態はオーバーラップしあっている可能性がある.