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2021年6月10日木曜日

鉛中毒

 慢性/急性の鉛暴露による中毒症状.

・現在は主に職業での暴露が多い: バッテリー, ガラス,
塗装, 鉛加工など.

 海外では銃弾も原因の一つ.

・非職業暴露ではハーブや
サプリメントなどで報告

 古い鉛製の水道管に溶出した
鉛を摂取して生じた事例もある

(Toxicol Ind Health. 2020 May;36(5):346-355.)

鉛の摂取は経消化管, 経呼吸器的に行われる

・消化管からの吸収率は年齢や背景により様々


 鉄剤やCa製剤, Mg, P, アルコール, 脂質の摂取は
鉛の吸収率を低下させる報告がある.


 新生児の吸収率は50%, 成人では10-15%程度

・吸入した鉛の30-40%が吸収される.

・経皮吸収は有機鉛で多い: Tetraethyl, alkyl-leadで, 有鉛ガソリンに含まれるが, 現在のガソリンは無鉛ガソリン
 

 航空機や船舶, 農業機械, 旧車では用いられており, 有鉛化添加剤が販売されている.

(Altern Med Rev 2006;11(1):2-22)


吸収された鉛の99%が30-35日間 赤血球に結合する.
残りの1%は血液中に存在し, 各組織に拡散する(肝臓, 腎皮質, 大動脈, 脳神経. 肺, 脾臓, 歯, 骨)

・赤血球に結合する期間は30-35日,
各軟部組織に分布する期間は4-6週間と長い.

・血液中の鉛の半減期は35日間であり, 6週間以上前の暴露の場合, 血液中鉛濃度は診断に有用ではない.

・軟部組織に分布した鉛は, 成人では80-95%が骨に, 小児では70%が骨に分布しており, 小児例では他臓器への分布が多い.


 また骨に分布した鉛の半減期は20-30年と長期間保持される
 

 高齢者では骨の鉛濃度が高い特徴がある.

・排泄は無機鉛はそのままの形で尿, 胆汁, 唾液に分泌される.


 有機鉛は酸化的脱アルキル化が生じ, 代謝産物は強い神経毒性を有する

(Altern Med Rev 2006;11(1):2-22)


鉛中毒の診断

・血液中鉛濃度: 正常値は≤5µg/dL
 

 鉛作業に従事する場合, 厚生労働省の通達では,
 

 分布1: ≤20µg/dL, 分布2: 20-40µg/dL, 分布3: >40µg/dL, 尿中鉛 20µg/L以下との通達があるが, 中毒の鑑別に用いる指標ではない.

・δ-アミノレブリン酸脱水酵素(ALAD)

 δ-アミノレブリン酸(ALA):
 鉛中毒では, ALADが低下し, ALAの血中濃度, 尿中濃度が上昇する

・赤血球では,
好塩基斑点が認められ,
正球性~小球性貧血となる
また, 網状赤血球は上昇する

補足: 好塩基斑点とは?

・赤血球系幼弱細胞の異常型で認められる好塩基性の斑点

・古典的に鉛中毒で認められる所見で有名ではあるが,
 その特異性は低く, 様々な疾患で認められるため注意 (Am J Ind Med. 1984;5(4):327-34.)


鉛縁: Burton’s line

・歯肉の青みがかった
 または灰色の色素沈着

 鉛が口腔内細菌の代謝物と反応
することで生じる兆候


鉛中毒の濃度と症状 (Occupational Medicine 2015;65:348–356)

血球障害

・前述の通り, 正球性〜小球性の貧血を生じる. 

 好塩基斑点と伴う赤血球, 網赤血球の増加を伴う.

鉛疝痛

・間欠的な上腹部痛と消化器症状

神経障害

・末梢神経障害や脳症による意識変容やイライラ, 認知機能低下

鉛中毒による腎障害

・近位尿細管障害, 糸球体硬化, 間質線維化を生じ
蛋白尿やGFRの低下を引き起こす.

・貧血や鉛疝痛, 神経障害とともに出現することも多かったが,
近年, それら障害が生じるレベル以下の血中濃度で生じる腎障害も報告されている.
慢性暴露で血中濃度が低い一方で, 骨中Pb濃度が高く, 腎障害が進行する報告など.

女性では不妊や流産, 早産などの原因となる.

他には痛風発作, 高血圧が挙げられる


バッテリー工場で働く職員 187名の評価.

(J Eur Acad Dermatol Venereol. 2019 Oct;33(10):1993-2000.)

・血清Pb濃度は74.15±11.58 µg/dL

・自覚症状の頻度:
 

 倦怠感や記憶力・集中力の低下, 爪の変化, 脱毛,
 歯肉の色素沈着など.

・血液検査では, 貧血が2割
腎障害はStage 2, 3程度のみ

・皮膚粘膜所見

 歯肉の褐色色素沈着
歯肉炎の頻度が高い

 鉛縁は半数

 爪の褐色色素沈着

・鉛縁や歯肉の褐色色素沈着がある患者では, 
より血中Pb濃度が高い



鉛中毒のキレート治療

・エデト酸カルシウムナトリウム(CaNa2EDTA) 経口, 静注


 メソ-2,3-ジメルカプトコハク酸(サクシマー, DMSA) 経口

国内ではEDTAが使用可能である.

EDTA. ブライアン®

・経口: 1日量1-2gを2-3回に分けて5-7日間投与.
 投与後 3-7日間の休薬期間をおいて, これを1クールとし,
 1-3クール繰り返す.

・静脈投与: 1gをブドウ糖液, NS 250-500mlに希釈し, 1時間で投与.
 最初の5日間は1日2回投与し, 2日休薬後 再度5日間投与.
 小児では体重15kgあたり0.5g以下を1日2回投与

・これらキレート薬は亜鉛や銅もキレートするため,
使用前はこれら微量金属も評価し, 低値ならば補充も検討する
また長期間使用時にも注意.


AAP(アメリカ小児学会)のプロトコールでは,


・血中濃度<25µg/dLでは投与非推奨


・25-45µg/dLでも非推奨. 環境調整後も持続するならば考慮


・45-70µg/dLで投与を推奨. 脳症がなければ経口薬での使用を考慮する


・>70µg/dLや脳症がある場合は入院の上, 経静脈投与での使用を考慮 


18例の鉛中毒患者に対して, DMSA 10-30mg/kgを5日間使用した報告

(CLINPHARMACOTLHER37:431-438, 1985.)


・用量依存性に尿中排泄は上昇し,
血中Pb濃度は低下する.

・30mg/kg使用群はDMSA投与終了後も
尿中Pb濃度は高い状態.

・血中濃度は投与終了後1wk程度かけて再上昇

他の金属の尿中排泄

・亜鉛, 銅は顕著に排泄が増加