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2016年8月27日土曜日

糖尿病による近位筋の脱力, 萎縮: Diabetic amyotrophy

Diabetic amyotrophy, 別名Proximal diabetic neuropathy(PDN)は, 主に2型糖尿病における稀な合併症であり, 急性/亜急性経過の有痛性, 左右非対称性の近位筋の脱力, 萎縮を呈する病態.
・また, Bruns-Garland syndromeとも呼ばれる
・糖尿病患者の1%で合併する.
・糖尿病性末梢神経障害と異なり, 自己免疫機序の血管障害(血管炎, 血管周囲炎)による, 虚血性神経障害が原因となると指摘されている
 IVIGやステロイドが効果的であった報告も多い
・部位は下腿(腰仙骨神経叢)で多く, 上肢は少ないが報告はある. 
 疼痛を伴うことが多いが, 感覚障害や異痛症は稀.
 また左右対称性でも, 非対称性でもよい. 筋脱力, 筋萎縮と体重減少を伴う.
(Internal Medicine 2001;40:273-4)(Neurology  Volume 55(1), 12 July 2000, pp 83-88)

15例のPDN症例(全例で進行性, 有痛性, 左右非対称の近位筋脱力, 5wk-12ヶ月で進行)で神経, 筋生検を行った報告では,
(Neurology  Volume 55(1), 12 July 2000, pp 83-88)
・患者は49-79歳で, 2型DMの罹患期間は3ヶ月〜9年.
・筋力低下の程度は軽度の脱力〜車椅子まで様々
・組織は10/15で血管周囲炎, 血管炎所見が認められた.

糖尿病性腰仙骨神経叢障害(DLSRPN) 33例を前向きに評価.
(Neurology Volume 53(9), 10 December 1999, pp 2113-2121)
・Mayo clinicにおいて診断されたDLSRPN 33例で神経生検を行い, Control群 14例, 糖尿病性多発神経症 21例と比較.
・DLSRPNは65歳[36-76], DM発症からの期間は4.1年[0-36], 平均HbA1cは7.5%[5.1-12.9], インスリン使用は13例(うち1例が1型)
・網膜症は4例, 神経症は2例のみ.

症状の程度

血液検査, CSF
DLSRPNでは特に自己抗体や血液検査で特徴はない
・CSFでは蛋白細胞解離を認める(89g/dL[44.0-214.0])

組織所見, 生理電気検査所見
・組織所見では血管炎や血管周囲炎の所見が多い.

上肢のDPN(Diabetic cervical radiculoplexus neuropathy)と下肢のDPN(DLSRPN)症例の比較.
(Brain 2012: 135; 3074–3088)
・Mayo clinicにおいて, 1996-2008年に診断されたDCRPN 85例を解析.
 また過去に発表されたDLRPN 33例のデータ(上記のStudy)と比較.

患者背景の比較
・背景はBMIに差はあるものの, あまり臨床上大きな差は認めない

神経障害の比較
・下肢のPDNは疼痛で発症することが多い. 上肢では疼痛が多いものの, 感覚障害で発症するパターンもある.
・また, 下肢では最終的に両側性となるが, 上肢では片側性のまま経過することも.
・経過は双方急性〜亜急性が多い. 上肢では慢性経過もあり得る.

DCRPN(上肢)とDLRPN(下肢)の検査所見の比較
・双方とも9割以上でCSF中蛋白が上昇. 細胞数の上昇は1割未満と, 蛋白細胞解離が認められる.
・電気生理学検査では, 脱髄所見は少ないが上肢で認められる.
 CMAP, SNAP異常は下肢の方が多いが, あまり臨床上有意な差かどうかは微妙.

組織所見
・双方とも同様に血管炎や血管周囲炎所見が目立つ.
 障害の機序は同じと考えられる.

Diabetic amyotrophy, DPNの治療
・DPNでは自己免疫機序の微小血管炎, 血管周囲炎が関連しており, 抗炎症治療が有効である可能性が指摘されている.
・IVIGやステロイド, 免疫抑制剤が試されているが, Studyは乏しく, 2012年のコクランでは評価困難としている(Cochrane Database Syst Rev. 2012 Jun 13;(6):CD006521.)
・DMにおけるMultifocal axonal neuropathy(DPN, 多発単神経炎)や, 脱髄性神経症(CIDP様神経障害)ではIVIGやステロイドが効果が期待できる(Arch Neurol. 1995 Nov;52(11):1053-61.)
IVIGは400mg/kg/dを3~5日間(Diabetes Research and Clinical Practice 75 (2007) 107–110)(Internal Medicine 2001;40:349-352)

・糖尿病を背景としているため, 大量, 長期間のステロイドは使用しにくい.
 報告ではPSL 0.5-1mg/kgは使用していることが多い.
 その点からはIVIGの方が使用しやすいと言える.

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・糖尿病患者において, 急性〜亜急性の経過で上下肢近位筋の脱力, 萎縮, 体重減少をきたす病態が稀ながらある.
・神経叢の神経障害(脱髄や軸索障害)が原因であり, CSFでは蛋白細胞解離が認められる.
 その機序は微小血管炎, 血管周囲炎であり, 糖尿病の罹患期間や血糖コントロールとの関連は乏しい.
 糖尿病発症して1年未満で出現していることもある.
 したがって末梢神経障害や網膜症、腎症との関連も乏しいと言える.
・治療は免疫抑制やIVIGである. DMを背景としており、ステロイドよりはIVIGの方が使用しやすいかもしれない.