3ヶ月ほど前より亜急性経過で手の震えが出現してきたという高齢女性.
震えて字が書けなくなり, 気づいた.
最初は左側、その後右側も出現.
診察すると, 声帯振戦, 口唇/舌振戦, 上肢の姿勢時, 静止時振戦が認められている.
安静時振戦は認められず.
明らかな筋固縮や小脳失調症状, 脳幹症状は認められず.
四肢の運動, 感覚も問題なし.
一見すると本態性振戦か, と思うような所見であった.
さらに, 振戦が出現する2ヶ月前に脳腫瘍の手術歴があり, その後からバルプロ酸が開始されていた.
術後のフォローでは頭部MRI含めて問題はなく, 順調な経過.
さて, 振戦の原因はなにか?
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薬剤性振戦
様々な薬剤が振戦の原因となりえる.
・抗不整脈薬, 抗生剤, 抗精神病薬, 抗てんかん薬など.
・振戦では薬剤性も念頭において評価することは重要.
原因薬剤と薬剤性振戦のタイプ
(Lancet Neurol 2005; 4: 866–76 )
バルプロ酸は抗てんかん薬による振戦で最も多い原因薬剤
・背景に振戦がある患者ではバルプロ酸使用により増悪することもある.
バルプロ酸を使用している患者の~25%は振戦を認める報告もあり (Lancet Neurol 2005; 4: 866–76 )
・振戦は本態性振戦に類似した振戦をきたす. 両側性で姿勢時, 静止時に増悪する. 安静時にも認められる. (Neurology. 1979 Aug;29(8):1177-80.)(Neurology. 1982 Apr;32(4):428-32.)
・振戦は平均10Hzと細かい振戦となる(Electromyogr Clin Neurophysiol. 2005 Apr-May;45(3):177-82.)
・投与開始後1ヶ月以内に多く, 血中濃度との相関性はなく, 正常血中濃度でも生じる.
ただし750mg/日以上の投与例で多い傾向があり, 減量により症状も軽快する.
・基本的に左右対称性であるが, 左右差を認める症例や, 片側性の報告もあり.(Pediatric Neurology 48 (2013) 479e480 )
バルプロ酸はパーキンソン症候群の原因の1つにも挙げられている.
・この場合は振戦は安静時のみに認められる.
・出現時期も開始後数年が多い.
(Parkinsonism and Related Disorders 19 (2013) 758e760)
他の抗てんかん薬による振戦
・ラモトリギンでは4%で振戦を生じる(プラセボでは1%のみ)
・Gabapentinが6.8%(vs 3.2%プラセボ)
・Oxcarbazepineが4%(vs 0%プラセボ)
・TopiramateやLevetiracetam, Zonisamideは本態性振戦の治療として使用されることがある.
(Lancet Neurol 2005; 4: 866–76 )
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Clinical pearlとしては,
バルプロ酸使用中の患者での本態性振戦様の振戦には要注意!