炎症性偽腫瘍(IPT): 炎症性細胞や, 筋線維芽細胞が集簇し, 腫瘍性病変を呈する病態
・全体的には稀であるが, 肺や眼窩で報告例が多いが, 身体のどの部位でも生じうる
(RadioGraphics 2003; 23:719 –729)炎症性偽腫瘍(Inflammatory pseudotumor)は 現在では,
炎症性の機序を背景としたIPTと,
腫瘍性の増殖の要素が強いIMT(Inflammatory myofibroblastic tumor)に分類されている.
・IPTの主な原因の1つにIgG4-RDに関連したものがある.
・IPTはステロイドが効果的である可能性がある一方,
IMTは外科的切除が基本となるため, 両者の鑑別は重要.
・両者の鑑別については後述
肺炎症性偽腫瘍: 肺に生じた炎症性偽腫瘍 (RadioGraphics 2003; 23:719 –729)
・発症年齢は小児〜高齢者まで様々. 小児では良性肺腫瘍の50%を占める.
・呼吸症状や発熱, 血痰が多い症状.
無症候もおよそ半数程度であり, 偶発的に発見される.
韓国の28例の症例レビューでは,
・咳嗽が44.4%, 胸痛が29.6%, 発熱が22.2%, 血痰が15%, 呼吸苦11%, 無症候性11%.
・腫瘍の大きさは平均4.76cm(範囲1.5-14cm)
両側性が7.1%, 石灰化+が18.5%, 空洞病変が11.1% (Korean J Intern Med. 2002 Dec;17(4):252-8.)
組織型は大きく3つに分類される;
・OPパターン: 肺胞, 細気管支が線維芽細胞や組織球で閉塞しており, 肺実質に 組織球, 単球, 線維芽細胞の浸潤が認められ, 置き換えられている.
・Fibrous Histiocytic pattern: 紡錘状の筋線維芽細胞が渦巻き状, 花筏状に配置している. 肺胞構造は消失.
・Lymphoplasmacytic pattern: リンパ球と形質細胞浸潤が主で, 線維性組織は少ない
炎症性偽腫瘍: IPTとIMTの比較
IgG4-RDを背景とするIPTと, 腫瘍性増殖性疾患であるIMTを鑑別するのは重要.
(Virchows Arch (2013) 463:743–747)
・IMTは小児や若年者で多く, その半数以上でALK(anaplastic lymphoma kinase) geneのrearrangementを認める. また, 線維芽細胞と筋線維芽細胞の増殖を伴う形質細胞, リンパ球浸潤が特徴的な所見となる.
・IgG4-IPTではIgG4陽性形質細胞の増加, 花筏状の線維性病変が認められる
・両者は双方とも線維芽細胞/筋線維芽細胞の増殖や炎症性細胞の増加という点では類似した所見となるが, 治療方針は異なる(IPTではステロイド, IMTでは切除)となるため, 両者の鑑別は重要である
IPTの特徴
日本国内より肺のIPTで, IgG4陽性形質細胞が多数認められた9例の病理像を評価した報告では,
(Human Pathology (2005) 36, 710–717)
・年齢42歳〜76歳, 男性が5例,
腫瘍サイズは1-5cm程度,
CRPは0.3-10.78mg/dL
・9例全例で著明なリンパ球と形質細胞, 不整な線維化所見が認められ, 結節辺縁では間質性肺疾患の病理像が認められる.
結節内の細気管支は狭窄を生じ 肺胞内は泡沫状のマクロファージが認められる.
一部では好酸球の浸潤が認められる
IPT 21例のデータ(肺に限らず)(Appl Immunohistochem Mol Morphol. Nov/Dec 2016;24(10):721-728.)
・年齢は30-60歳台と高い.
・組織型はLymphoplasmacyticが16/21と多く, Fibrohistiocyticが5例
・花筏状の線維化や閉塞性静脈炎, リンパ濾胞が多く, ALK-1は陰性.
・IgG4は高値となる.
IgG4-IPT 16例のデータ(肺にかぎらず)(Am J Surg Pathol 2009;33:1330–1340)
・年齢は50-70歳が主.
・肺病変は認めない. ALKは陰性
・全例で閉塞性静脈炎やリンパ濾胞を認める
IMTの特徴
IMT18例のデータ(肺に限らず): (Appl Immunohistochem Mol Morphol. Nov/Dec 2016;24(10):721-728.)
・年齢は小児〜高くても30歳台前半. 花筏状の線維性病変や閉塞性静脈炎は少なく, ALK-1陽性が12/18で認められる.
・IgG4/IgGは低値となるが, 一部では高値となる症例もある
IMT 22例のデータ(肺に限らず)(Am J Surg Pathol 2009;33:1330–1340)
・若年が多いが, 60-70歳台も報告されている.
ALK陽性は15/22, 静脈炎やリンパ濾胞は稀.
・IgG4/IgGは<10%となるが, 4例で>10%を満たす.
IPTとIMT両者の比較のまとめ:
上(Appl Immunohistochem Mol Morphol. Nov/Dec 2016;24(10):721-728.)下(Am J Surg Pathol 2009;33:1330–1340)
・IPTはIMTと比較してより高齢者で多く, 病理所見にて花筏状の線維性病変や, リンパ形質細胞浸潤, IgG4陽性細胞の割合, 数が多い.
また閉塞性静脈炎やリンパ濾胞を伴う.
・一方でIMTはより若年. 小児〜30歳台程度までが多く, IPTのような病理像は少ない. ALK-1が陽性となる.
現状の炎症性偽腫瘍の分類: まとめ
・以前まで「炎症性偽腫瘍」とされていたものは,より炎症に対する反応性のIPTと腫瘍性のIMTに分類される.
・IPTではIgG4関連 or その他がある. その他に他に何が含まれるかは現時点では不明確
・IMTでは腫瘍性病変の1つと考え、基本切除が治療となる.
IPTではステロイドによる治療が効果が見込めるため, 両者では大きく治療方針が異なる