20歳台後半〜急性の関節痛、関節腫脹を繰り返し, NSAIDで改善する経過を有する40歳男性.
そのうち自然と治るのでそのまま様子を見るようになったが, ここ数カ月, 持続的な関節炎となり受診した.
結果的に結晶性関節炎を繰り返し, 慢性的な関節障害, 炎症となったと判断したが, 若年で繰り返すCPPD, この背景疾患は何なんだろうか?
ふと一連の血液検査の経過をレビューしてみると, 初診時から一貫してALPが正常下限値よりも低い状態が持続していた.
基礎疾患, 低栄養, 薬剤でこの低ALPとなる原因は認められない.
これは, もしかすると成人例の低ホスファターゼ症による繰り返す偽痛風では? ということで勉強します.
低ホスファターゼ症
低ホスファターゼ症はALPをエンコードするALPL geneの異常により生じ, 骨, 肝, 腎におけるALP活性が低下する病態
・重症度により症状は様々であり, 重症例では小児, 乳児期の骨形成不全, 痙攣, 高Ca血症 から,成人発症の乳歯の早期脱落以外何も症状を認めない例まである (Curr Osteoporos Rep (2016) 14:95–105)
・臨床分類では6型:
周産期重症型 | 胎児期〜新生児期 | 重度の骨石灰化障害, 呼吸障害, 生命予後不良 |
周産期良性型 | 胎児期〜新生児期 | 長管骨の彎曲, 生命予後良好 |
乳児期型 | 生後6ヶ月まで | 発育障害, くる病様骨変化. 呼吸器合併症 |
小児型 | 生後6ヶ月〜18歳未満 | 乳歯早期脱落, くる病様骨変化 |
成人型 | 18歳〜 | 骨折, 偽骨折, 骨軟化症, 筋力低下 |
歯限局型 | 様々 | 乳歯早期脱落, 歯周疾患 |
発症のタイミングと症状/障害臓器
(
Curr Osteoporos Rep (2016) 14:95–105)
血液検査では, 血清ALPが低値になる. この点で臨床的に気づきやすい.
・小児の成長期において, ALPが低値なのは明らかに異常.
・他にALPが低下する原因
低栄養, 栄養障害, ビタミンD中毒, 内分泌疾患など
(Bone 102 (2017) 15–25)
成人における低ホスファターゼ症
・成人発症例では無症候性, 非特異的な骨痛, 関節痛, 歯牙の早期脱落, BMDの低下や,軟骨へのヒドロキシアパタイトの沈着による可動域制限,Rotator cuff, 肘, アキレス腱の石灰沈着といった軽度な症状から, 繰り返す骨折既往, 骨折後の治癒の遅延などが認められる.
・成人例では, 繰り返す骨折や骨粗鬆症の精査においてALPが低値である場合に疑い, その後フォローし持続的低値を確認, さらに他にALPが低下する原因を除外する
・さらにPyridoxal-5’-phosphage(Vit B6), 尿中PEA(phosphoethanolamine)の上昇があれば診断をサポートする
・繰り返す偽痛風も診断のきっかけになり得るかもしれない
(Journal of Bone and Mineral Research, Vol. 32, No. 10, October 2017, pp 1977–1980 )
成人で診断されたHPP患者22例の解析 (Bone 54 (2013) 21–27 )
・家族歴を有する例は少ない
・症状は筋骨格性疼痛, 骨折など.
軟骨石灰化や偽痛風症例もある.
・血清ALP値の中央値は正常下限の40%程度.
骨折既往あり, なしで分けて比較
・骨折(-)の3割が偽痛風症例. 無症候例は半数.
成人例のHPP 38例の解析
(Osteoporos Int. 2017 Sep;28(9):2653-2662.)
・ALPは正常下限ギリギリ〜1/3以下の低下まで様々
臨床的特徴
・歯牙の異常が5割程度
・軟骨石灰化, CPPDによる関節痛症例は8例.
・繰り返す筋骨格性疼痛も4割. 持続性疼痛など疼痛は色々なパターンがある.
各症状別の対応
骨折, 骨粗鬆症にはテリパラチドも効果的
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・成人発症の低ホスファターゼ症は、若年の骨粗鬆症, 骨折, 繰り返す偽痛風, 歯牙の異常で考慮する.
・説明のつかない持続的なALP低値で疑う
という感じ