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2020年3月19日木曜日

顔だけが痩せてくる病気

緩徐に進行する顔面のみが痩せてくる, という成人症例
両側性に頬骨が飛び出し, 頬も羸痩が高度.

ALSや筋炎疾患は神経内科診察にて否定的. 顔面, 表情筋は保たれているとの評価
食事量は特に変化なく, 十分量摂れているという.

甲状腺疾患や副腎不全も否定されている.

どのような病気が考えられるだろうか?

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顔面の羸痩で, 低栄養でもなく, 筋は保たれているという症例.
となると, 皮下組織や脂肪の萎縮を呈する病態なのか.
どのような病気を考えるべきだろうか?


成人発症, 後天性の顔面皮下組織の萎縮を呈する病態には主に以下のような病気がある.
・Acquired partial lipodystrophy(APL), Barraquer-Simons Syndrome
・Progressive hemifacial atrophy(PHA), Parry-Romberg Syndrome
・Morphea en coup de sabre (MCDS)

(JAAD Case Reports 2019;5:209-12.)

Progressive hemifacial atrophy(PHA)と MCDS

PHAは進行性の顔面皮下組織, 皮下脂肪, 軟骨, 骨の萎縮を呈する病態
ECDSは前額頭頂部の頭蓋や頭蓋中心部に沿った分布で, 線状の皮下組織の萎縮を認める.
・PHAもMCDSも限局性強皮症の1亜型とされ, これらは合併することも多い.
(Orphanet Journal of Rare Diseases (2015) 10:39)

PHA20歳までに生じることが多いが, 報告では高齢発症もある
・片側性が主だが, 両側性は2-7%, また, 最高齢では75歳の報告がある
・発症後は緩徐に進行する経過となるが, Self-limitedな経過となる
・出産や妊娠, 外傷, 手術, ストレスを契機に増悪する報告もある.
典型的には前額部よりも下部の片側性の顔面皮下組織の萎縮が認められる.
三叉神経支配領域に沿って分布する.
皮下組織自体の萎縮は軽度であるが, 脂肪, , 軟骨, 骨の萎縮が高度.
ただし舌や歯肉, , 軟口蓋も障害されることがある

PHAは皮膚以外の障害を伴うことも稀ではない
・最も多いのは神経障害. てんかんや頭痛が多い合併症
・てんかん発作は同側の大脳皮質を焦点とする発作が典型的.
 脳神経障害としては, III, V, VI, VII神経の障害が認められることがある
・変形した骨や皮下組織による三叉神経痛の合併もある
・また, 障害部位の血管変性を生じそれに伴い小脳萎縮や他の神経症状を呈する例もある
・深部組織の障害により視力低下や失明を呈する例もある
 下顎, 咀嚼筋の障害による歯牙の異常,他には構語, 咀嚼, 笑顔, 会話の障害も生じ得る

両側性のPHA. ECDSも合併していますね.
(JAAD Case Reports 2019;5:209-12.)

ECDSは前額頭頂部の頭蓋や頭蓋中心部に沿った分布で, 線状の皮下組織の萎縮を認める
En coup de sabre はサーベル状切痕という意味
・前額部から下部に伸びて, 鼻や頬部, 稀に上唇部に及ぶものもある.
 さらに両側性となる例もある
・皮膚は色素沈着を認め, 光沢を帯びた硬化した皮膚となる
・これら臨床所見が主にPHAECDSを分けるポイントとなる

PHAとECDSの比較
(Orphanet Journal of Rare Diseases (2015) 10:39)

En coup de sabre morpheaとPHA 54例の解析
・Mayo Clinicのデータベースより1984-2004年に診断された症例を評価
En coup de sabre morphea26, PHA13, 双方合併が15
54例中, 37(68.5%)が女性
 発症年齢は13.6(中央値10.5, 範囲0.3-75)
発症~診断までの期間は8.9(中央値4.3, 範囲0.3-45.9)
両側性が7.4%.
顔面以外の皮膚に障害を認めたのが13%
 また, 痙攣を合併する例が13%と最も多い神経症状となる.
治療は抗マラリア薬, MTXが選択されていることが多い.
( J Am Acad Dermatol 2007;56:257-63.)

インターネットを用いてPHA 205例を評価した報告
・最高年齢は64歳, 両側性は2.4%
(NEUROLOGY 2003;61:674–676)

Acquired partial lipodystrophy(APL), Barraquer-Simons Syndrome
(Am J Med Sci 2016;352(3):280–284.)

小児~10代で認められることが多い, 顔面~上半身にかけての皮下脂肪の萎縮を伴う病態.
・左右対称性に顔面, 上半身から生じ, 殿部にかけて下降する
・下腹部や臀部, 下肢は反対に脂肪が沈着する.
他に自己免疫疾患や代謝性疾患を合併することも多く低補体血症, 糖尿病, TG血症, SLE, 皮膚筋炎, 膜性増殖性糸球体腎炎合併の報告がある.
遺伝の関連も指摘されているが, 一部の孤発性の症例において, Lamin B2, Adipogenesis gene markerの発現の増加, ミトコンドリア遺伝子異常が発見されているものの, 全体的には関連性は不明.