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2019年7月4日木曜日

原因不明の特発性胸膜炎の中に⚪︎⚪︎がいるかも

症例 70代男性. 両側性の胸膜肥厚, 胸水貯留の精査目的での紹介.

特に自覚症状は認めず, 両側性の被包化胸水貯留あり.
血液検査ではTP/Alb乖離が軽度. CRPは2-3mg/dL程度の上昇, ESR 90台
Mタンパクは検出されず, IgG 1700とやや上昇. FLCはややκが増加(比1.78程度)

胸水は滲出性胸水 
 細胞数 3000, 単核球 89%, LDH 258, TP 3.5, ADA 42

ADAが高いことから結核を考慮したが, T-SPOT陰性, 胸水抗酸菌培養含めてすべて陰性
細胞診ではClass 2, 特に悪性細胞無し(複数回提出)
 細胞はリンパ球が主で, 好酸球もかなり多いとのレポート.
 
胸膜生検も考慮したが, 「診断に寄与しないだろう」, という理由で専門家から却下された。。。

たしかに, 非特異的胸膜炎になってしまうのか。。。?という流れであるが, どうも好酸球増多が引っかかる.
薬剤性の原因となるものはない.

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滲出性胸水の15-30%は胸腔鏡を用いた検査でも診断がつかず非特異的胸膜炎と診断される.
・このうち12-15%は後(4.4-9.8ヶ月)に悪性腫瘍が判明する.
 したがって, 非特異的胸膜炎症例では12-16ヶ月間のフォローを考慮すべきである.

そして, この非特異的胸膜炎と診断された症例から, IgG4胸膜炎の診断が増えてきている.



2000-2012年に評価された胸水貯留症例で胸膜生検を行なっても診断がつかなかった35例を評価.
(Clin Exp Immunol. 2017 Oct;190(1):133-142.)
・このうち12例で胸膜のIgG4陽性形質細胞の浸潤が認められた(34%)
 (>10 IgG4+形質細胞/HPF, IgG4+/IgG+細胞 >40%)
・IgG4+群とIgG4-群の比較:

・LDHIgG4+群の方が若干低い
ADAは両者で有意差無し

IgG4+12例の詳細
・胸膜はプラーク形成や肥厚パターンがある
 胸水IgG4の上昇は少ない.

胸膜に線維-炎症性変化を認める特発性胸膜炎22例の解析
(Cytopathology. 2019 May;30(3):285-294.)
・このうち, IgG4胸膜炎と診断されたのが8例であった.
 (厚いリンパ形質細胞浸潤, IgG4+形質細胞>50/HPF, IgG4+/IgG+ >40%, 血清IgG4>135mg/dL)

IgG4+群とIgG4-両群の比較

・IgG4+群ではアレルギー性疾患合併率が高い.
 他のIgG4-RD病変を認めるのは50%

IgG4+群では血清IgEも高値
・胸水細胞数は1000-5000程度で, Ly優位. またEoも高い
・胸水ADAも高値となる.

胸膜病理所見
IgG4+群では胸膜肥厚が高度

胸水Cell blockによる評価
・Cell blockでもIgG4陽性細胞の評価は可能かもしれない
・好酸球増多はやはり目立つ

IgG4胸膜炎のまとめ
・胸膜はびまん性の肥厚やプラークを形成し, 胸水貯留を呈する.
・胸水所見は滲出性, 単核球優位の上昇となる.
 細胞診では胸水中好酸球増多も伴う
 ADAは上昇してもよい. その場合は30-40 IU/L程度の上昇が多いが, 報告では80台の上昇する報告もある(Intern Med 57: 2251-2257, 2018)
 LDHは200-400程度の上昇. 悪性腫瘍や結核, 膿胸のように著明に上昇するほどでもない
(Curr Opin Pulm Med 2019, 25:384–390 )(J Bronchol Intervent Pulmonol 2014;21:237–241)
・組織所見は, 他の組織と同様, リンパ形質細胞の浸潤, IgG4陽性細胞>10/HPF, またはIgG4/IgG陽性細胞>40%が認められる
 他には閉塞性静脈炎, 花筵状線維化病変
・報告例はまだ少ないが, Cell blockでのIgG4評価も診断に有用かもしれない. 胸膜生検ができない場合は検討しても良いかも.

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この症例がそうかどうかは正直まだわかりませんが,
・原因の不明な単核球優位の特発性胸膜炎
・胸水ADAが軽度上昇しているが, 結核が否定的な症例
・胸水中好酸球がリンパ球とともに上昇している原因不明の胸膜炎

ではIgG4胸膜炎の可能性を検討しよう.