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2016年12月4日日曜日

輸血に伴う合併症

(Lancet 2016; 388: 2825–36)より

輸血は病院で高頻度で行われる処置であり, またそれによる合併症頻度も高い.
・100例に1例は何かしらの合併症が認められる報告もある.
・軽症〜致死的な合併症まで様々あり, 注意が必要
・多いのは発熱, アレルギー反応.
 まれだが重要なのはARDS, うっ血性心不全が挙げられる.

輸血に伴う合併症の頻度

合併症への対応: 発熱や皮疹, 呼吸苦など, 輸血に伴い状態が変化した場合はまず輸血を中止し, アセスメントを行う

発熱に対する対応

急性の溶血反応
・輸血による溶血には免疫性と非免疫性がある
・免疫性では輸血RBCが患者側の抗A, 抗Bや他のRBCに対する抗体が反応して生じる.
 突如発症の発熱や悪寒が80%で認められ, 腎被膜の進展による腰痛や呼吸苦も認められる. 肉眼的血尿も特徴の1つ
 重症例ではAKI, DIC, Shockを認め致死的となる可能性がある
・初発症状が悪寒発熱であるため, そのような場合は一旦輸血を中止し, アセスメントすることが重要.
・対応は対症療法と全身管理となる
・非免疫性は古いRBCや, 機械的溶血, 同時に投与した補液や薬剤による溶血などが原因となる.

遅発性の溶血反応, 血清反応
・遅発性の溶血や結節反応は1/2500例で認められる.
 鎌状赤血球症では11%の頻度と高い.
・妊娠時や輸血暴露時にRBC抗体が出現した患者では高リスク(時間が経過すると抗体は検出感度以下となるため検出できない. 10ヶ月経過すると25%は検出できなくなる)
・臨床症状として多いのは黒褐色尿や黄疸(45-50%), 次いで発熱や胸部/腹部/背部痛, 呼吸苦, 悪寒, 高血圧.
・対応は全身管理と, 溶血性貧血合併している場合はさらに輸血が必要となる.

非溶血性の輸血後の発熱
・非溶血性の発熱は多く, 輸血の1%(1単位あたり1-3%)で認められる
・Pro-inflammatory cytokineの関連や, レシピエントの抗体がドナーの血液中に含まれる抗原に反応して生じる.
・体温は1度以上上昇し, 悪寒戦慄や倦怠感を伴うことも多い
・輸血中の患者で発熱を認めた場合は輸血を中止し, 菌血症や溶血の有無を確認する.
 >> これらが否定的ならば非溶血性の発熱と判断する
・輸血中止後も改善せず, 2度以上体温が上昇し, 感染症状があれば細菌感染症を評価する必要がある.

Hyperhemolytic trasfusion reactions: 希
・希であるが, 致死的な合併症.
・鎌状赤血球症などの異常ヘモグロビン症でリスクが高い
 鎌状赤血球症では1-19%
・輸血後のHbが輸血前よりも低値となることで疑う.
・さらにBil上昇, LDH上昇, ハプトグロビンの低値が伴う
 溶血期には網状赤血球も低下する
・急性溶血, 晩期溶血反応双方で合併し得る.
・この病態では輸血は避ける必要があるが, 重症で貧血が高度の場合は輸血に頼らざるを得ない場合もある
 この場合はIVIGやステロイドを併用する
 リツキシマブや血漿交換も選択肢となる

アレルギー反応
・アレルギー反応は輸血後4時間以内に生じ, PLT輸血で最も高リスク(302/100000単位)
・ヒスタミンなどのメディエーターにより生じる

アレルギー反応の大半が軽症で, 皮疹やそう痒感, じんま疹, 局所的な血管浮腫程度だが, 重症例ではアナフィラキシーとなることもある.
・皮膚症状のみならば抗ヒスタミン薬の使用のみで対応.
・症状が改善すれば投与速度を減らした上で, 輸血を再開することも可能(当然経過観察はしっかりと).
・症状が再燃, 増悪すれば輸血は中止する.
・アナフィラキシー(8/100000単位)ではエピネフリンの筋注を行い, 抗ヒスタミン薬や血管拡張薬, ステロイドの使用を考慮する.
・また, 輸血によりアナフィラキシーの既往がある患者では, その後輸血時にはモニタリングは必須. また, 輸血前の抗ヒスタミン薬やステロイドの投与についても検討する.
・輸血製剤は洗浄RBCなど, 極力異物を除いた製剤を用いる.

呼吸器症状, その他

低血圧性輸血反応(hypotensive transfusion reactions)
・輸血開始後15分以内にsBPが30mmHg低下し, 輸血中止後10分以内に改善する病態で定義.
・血圧低下以外に呼吸症状, 消化器症状, 軽度のアレルギー症状も合併し得る.
・内因性の凝固カスケードの活性化やブラジキニンの産生が関与
・元々高血圧がある患者やACE阻害薬を内服中の患者でリスク.
 またWBC除去フィルター未使用や, PLT輸血もリスクとなる
・輸血中止で改善するため, 対症療法, 全身管理が治療.
・輸血の再開はしない. 
 ACE阻害薬使用中の場合は変更を考慮する.

Massive trasfusion-associated reactions (citrate, potassium, cold toxicity)
・大量輸血の定義はないが, 患者の全血液量の50%を3時間で投与するか, 10単位以上を24時間以内に投与する場合は大量と判断(国内では20単位)
・外傷や手術における出血で行われることが多い
・輸血に含まれるcitrateの過剰投与による低Ca血症, Kの大量投与による高K血症, Volume増加による心不全, 急速投与による低体温などがある.
・大量輸血する場合の投与速度は≤0.5ml/kg/min程度が推奨される
 またRBCは新しいもの(≤7-10日)を用い, 輸血前12h以内に放射線照射を受けたものを用いるべき.

輸血後紫斑
・RBCやPLT輸血後5-12日で生じる血小板減少で定義される病態
・24時間以内に急速にPLTが正常範囲から1万以下に低下する
 PLTの低下に伴い紫斑や粘膜出血, 頭蓋内出血を合併することもある
・中高年の女性で生じることが多い
・診断は血小板特異性抗体の検出で行う.
・対応は対症療法が基本だが, 重症例ではステロイドやIVIG, 血漿交換も行われることがある(ITPに準じた治療)
・血小板減少は7-28日間持続し改善するが, さらに長期間持続する例もある.
・予防として, 洗浄RBCやHPA(ヒト血小板抗体)に影響されないドナーからの輸血, 自己輸血の使用などを考慮

敗血症性輸血反応(Septic transfusion reactions)
・輸血後4時間以内に生じる反応で, 血液に混入した細菌により生じる. 
・PLTで特にリスクが高い(3000-5000単位に1コンタミ)
 PLTは室温で保存されるためにリスクが高い
・悪寒戦慄を伴う発熱や低血圧, SIRSが多い
・診断は患者血液と, 輸血から同種の菌が検出されること.
 輸血から菌が培養されれば, それで考慮しても良い意見もある
・輸血した患者で菌血症を生じた場合, 輸血した血液ロット全てで細菌の混入を評価することが推奨される.
・RBC輸血後の場合は緑膿菌カバーも行う

Transfusion-associated circulatory overload(TACO)
・輸血患者の1-8%で認められるが, 気づかれないことも多い
・輸血後6h以内に呼吸症状, BNP上昇, CVP上昇, LV不全, 肺水腫のうち3項目以上を認める場合に診断される
・高齢者や腎不全, Fluid overload, 心不全, 大量輸血がリスク

Transfusion-associated GVHD
・非常に希であり, ドナーのリンパ球が混入し, レシピエントの細胞に反応した場合に生じる.
・全血, RBC, PLT, HLA-matched PLT, 顆粒球の輸血で報告例あり
・輸血後5-10日で発症し, 丘疹性紅斑, 発熱, 腹痛, 下痢, 悪心, 嘔吐など認められる. 
・血液検査では汎血球減少や肝障害, 電解質異常など.
・対応は全身管理となる

Transfusion-associated necrotising enterocolitis
・早熟時や低体重出生時で多い合併症
・発症する機序は不明.

Trasfusion-related acute lung injury(TRALI)

以下を参照

http://hospitalist-gim.blogspot.jp/2014/06/trali-transfusion-related-acute-lung.html