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2016年9月22日木曜日

起立性頻脈症候群 Postural Orthostatic Tachycardia Syndrome(POTS)

起立性頻脈症候群. POTS.
POTSとは, 起立や上体挙上に伴い, HRが上昇し, 慢性経過の起立不耐症を生じる病態.
・HRは上昇するが, 血圧は低下しない点が起立性低血圧と異なる.
・定義としては, チルト試験にて10分以内にHRが30bpm以上上昇し, 血圧の低下はsBP20mmHg以下, dBP10mmHg以下であることで定義
・小児の場合は生理的に起立生頻脈を生じるため, ≥40bpmをカットオフとしたほうが良い.
・また, 慢性経過(6ヶ月以上)の起立時の前失神が認められる.
 HRの変動のみで診断はせず, 6ヶ月以上HRの変動持続し, さらに症状を認める場合にPOTSを考慮する.
(Curr Neurol Neurosci Rep. 2015 Sep;15(9):60.)

POTSは米国では50万〜300万人いると考えられている
・男女比は 1:4~5と女性に多い. 女性に多い理由は不明
・80-85%が13-50歳の女性で発症する.
・9歳未満での発症は稀
・QOLの低下や仕事能の低下に関与する.
・また, 起立時のHRの上昇は朝, 午前中のほうが顕著となる
(Curr Neurol Neurosci Rep. 2015 Sep;15(9):60.)(JAAPA. 2016 Apr;29(4):17-23.)

Mayo clinicの152名のReviewでは 
(Mayo Clin Proc 2007;82:308-13)
・平均年齢 30.2yr(10.3), 女性が86.8%
・発症~診断まで平均4.1yrを要する
・発症は急性(<1mo) ~ >3moと一定していない
・発症トリガーとして, Viral Infection, 術後が27.6%である (Viral Infectionが90%以上を占める)

POTSの機序
POTSは複数の機序が関連している.
・自律神経の障害
・循環血液量の減少, R-A-A系の抑制
・中枢性の高アドレナリン状態
・ノルアドレナリン輸送体の欠損
・肥満細胞の活性化
・自己免疫性, 自己抗体: α1 adrenergic receptor(AR)に対する抗体が検出されている報告もある.
(Curr Neurol Neurosci Rep. 2015 Sep;15(9):60.)

POTSの症状
(Curr Neurol Neurosci Rep. 2015 Sep;15(9):60.)
起立時の症状:
・頻脈性の動悸, ふらつき, 胸部不快感, 呼吸苦など心臓に関連する症状や
 意識混濁, 頭痛, 悪心, 振戦, 全身脱力感, 複視, 視野狭窄など非心臓症状
・失神を認めるのはPOTSの30%程度のみ.
・立位時に循環血液量の減少が生じるため, 四肢末端のチアノーゼ所見が認められることもある

(JAAPA. 2016 Apr;29(4):17-23.)
・頻脈は洞性頻脈であり, ECGやHolter心電図は不整脈除外に有用.
 心エコーも心筋症評価目的に使用する.

非起立性症状
・POTS患者では起立時以外の症状も認められるが, 特異的とは言い難い.
 症状は自律神経由来のものも, それ以外の機序もある.
・消化管症状: 腹痛や悪心嘔吐, IBS
 膀胱症状
 発汗障害
 運動耐用量の低下
 睡眠障害
 片頭痛様頭痛
 倦怠感 など

うつ病や不安症状も併発する
不安症状としても頻脈や震え, 過換気などはあるが, POTSは不安症状と関係なく症状が誘発される

POTSの症状は急性のストレス(感染, 妊娠, 外傷, 手術など)を契機に出現し, また日常生活(長時間の立位, 運動, 食事, 飲酒, 嚥下, 気温の変化)で増悪することがある

Mayo clinicの152名の症状頻度 
(Mayo Clin Proc 2007;82:308-13)
起立性 頻度 非起立性 頻度 全身症状 頻度
ふらつき 77.6% 鼓腸 23.7% 倦怠感 48.0%
Presyncope 60.5% 嘔気 38.8% 睡眠障害 31.6%
脱力 50.0% 嘔吐 8.6% 片頭痛 27.6%
動悸 75.0% 腹痛 15.1% 筋肉痛 15.8%
振戦 37.5% 便秘 15.1% 神経痛 2.0%
呼吸苦 27.6% 下痢 17.8%


胸痛 24.3% 排尿障害 9.2%


無汗 5.3% 瞳孔障害 3.3%


発汗過多 9.2%




体温上昇により増悪 53.3%




運動により増悪 53.3%




食事により増悪 23.7%




月経により増悪 14.5%





POTSの診断
(Curr Neurol Neurosci Rep. 2015 Sep;15(9):60.)

起立時, チルト試験でのHR上昇が認められ, 起立時の症状が6ヶ月以上持続する.
・さらに症状は臥位で改善する.
・また, 様々な全身疾患や薬剤で生じる可能性もあるため, それらの除外が重要.

POTSと鑑別が必要な病態, 疾患
(JAAPA. 2016 Apr;29(4):17-23.)

Vasovagal Syncope
・失神を生じる状況が似ているため, VVSとの鑑別は重要.
・チルト試験が鑑別で有用な検査.
・VVSでは挙上後しばらくはBPを保てるが, その後急激に低下する
・POTSではBPの低下は認められず, HRが上昇する.

Inappropriate Sinus Tachycardia(IST)
若年女性に多く, HR上昇に伴い前失神を生じる.
・POTSとの違いはHR上昇が体勢に依存しない点.

 安静時のHRも100を超えることが多い

POTSを合併しやすい疾患 (Curr Neurol Neurosci Rep. 2015 Sep;15(9):60.)
(JAAPA. 2016 Apr;29(4):17-23.)

慢性疲労症候群(CFS)
・POTSの患者では, 睡眠の質が低下し, 日中の眠気, 倦怠感, QOLが低下する.
・CFSは原因が明らかではない慢性経過の疲労感を特徴とする.
 また, POTSと同様, 女性で多い.
・POTSを満たす患者において, 慢性の倦怠感を伴うのは48-77%
 CFSの基準を満たすのは17-23%で認められる.
・POTSとCFSはオーバーラップしており,CFSとPOTSはそれぞれの一部症と考える専門医もいる.

CSFクリニックでCSFと診断された306例中, POTSの基準を満たしたのは33例(11%)
(J Intern Med 2014; 275: 409–417. )
・CSF-POTS合併例のほうがより若年, 立位での仕事時間が短くなる.
 QOL低下もより高度

Ehlers-Danlos Syndrome(EDS)
・EDSは結合織の異常をきたす先天性疾患であるが, EDS III型は自律神経機能異常を伴う頻度が高く, POTSに類似した症状を呈する.
・起立時の頻脈, ふらつき, 前失神など
 また, 運動や食事, 環境でも症状が誘発されることもPOTSに類似.
・POTS患者のうち, 18%がEDSの基準を満たす.
 一般人口では0.02%, POTSを満たさない自律神経症患者群では4%.
・EDS III型は最もPOTSに関連している病態と考えられている.

POTSの治療 (Curr Neurol Neurosci Rep. 2015 Sep;15(9):60.)
非薬物治療
・水分摂取と塩分摂取: 1日あたり2-3Lの水分摂取と, >200mEq/dのNa(塩分換算で11.8g)摂取を推奨.
・腹部を圧迫するようなバンドも有用とされる
・運動療法: POTSでは運動中もHR上昇が著しく, 症状を認める.
 有酸素運動を筋力トレーニングを行うことで, 心拍出量を増加させ, 運動中のHR過剰上昇や症状を抑制する効果が期待できる
 運動は最初は座位や臥位で行うことがポイント.
 また, 効果が実感できるまでは5-6週間はかかることを患者に伝える.

運動療法 (Hypertension 2005;45:391-8)
・20代健常人(米軍新入隊者 2655名)中, 36名(1.4%)がOrthostatic intoleranceあり(Tilt-table testにてΔHR>30)
・31名を3カ月間のジョギング vs ControlにRandom割り付けし, 再評価
・ジョギング群では6/16がTilt-table test陽性, Control群では10/11がTilt-table test陽性のまま. (p値=0.008)


薬物治療
・薬物治療についてはRCTはなく, POTSの機序も, その判断も不明瞭なため選択が難しい.
・非選択性β阻害薬や, Midodrine, オクトレオチドなど様々なものが試される.

Mayoのコホートでは, 補液によるVol.の改善がほとんどの症例で施行されている
β-blockerは76.7%で処方. 他には, 以下のものが試される
Drug 頻度 Drug 頻度
Fludrocortisone 39.5% Clonidine 11.8%
Midodrine 31.6% Pyridostigmine 5.3%
SSRI 51.7% Resistance training 71.0%
Phenobarbitone 16.0% Pressure stocking 10.7%
Acetazolamide 4.2%


(Mayo Clin Proc 2007;82:308-13)

小児例のPOTSにおける予後
Mayo clinicで診断された13-18歳のPOTS症例で, 調査時に≥18歳の患者に手紙で経過を調査.
(J Pediatr 2016;173:149-53). 
・502例を調査し, 返答があったのは172例(34%)
・診断〜調査までの期間は平均5.4±1.9年.
・完全に症状改善が19.2%
 症状不変が8.7%
 増悪経過が3.6%
 改善傾向ありが51.2%
 寛解, 再発の経過は15.7%