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2016年9月28日水曜日

補液負荷への反応性を評価する指標(JAMA Rational Clinical Examinationシリーズ)

JAMAのRational clinical examination より, 補液負荷に対する反応性を予測する指標についてのMeta-analysisがでました.
(JAMA. 2016;316(12):1298-1309.)

補液反応性のイメージ図: 前負荷と心拍出量
 補液は前負荷を増やすという処置であり, それに伴いSVが上昇し, 循環が改善することを補液反応性ありと評価する.
 すでに前負荷が十分であったり, 心臓のポンプ機能が低下している場合は補液反応性が低く, このような病態をどう予測するかが臨床上重要.

Meta-analysisの結果から
指標

Cut off
感度(%)
特異度(%)
LR+
LR-
CVP

8mmHg(6-9)
62[54-69]
76[60-87]
2.6[1.4-4.6]
0.50[0.39-0.65]
脈圧変動
VT7.0mL/kg群
11(4-15)
84[75-90]
84[77-90]
5.3[3.5-8.1]
0.19[0.12-0.30]

VT<7.0mL/kg群
8(5-12)
72[61-81]
91[83-95]
7.9[4.1-16]
0.30[0.21-0.44]
SV変動
人工呼吸群
13(10-20)
79[67-87]
84[74-90]
4.9[2.8-8.5]
0.25[0.15-0.43]

自発呼吸群
10-12
57-100
44-57
1.0-2.3
0.05-0.98
IVC変動
人工呼吸群
15(12-21)
77[44-94]
85[49-97]
5.3[1.1-27]
0.27[0.08-0.87]

自発呼吸群
40-42
31-70
80-97
3.5-9.3
0.38-0.71
下肢挙上試験
CO変動を評価
11(7-15)
88[80-93]
92[89-95]
11[7.6-17]
0.13[0.07-0.22]

PP変動を評価
10(9-12)
62[54-70]
83[76-88]
3.6[2.5-5.4]
0.45[0.36-0.57]
下肢挙上試験
(CO変動を評価)
人工呼吸群
10(7-12)
92[82-97]
92[86-96]
11[6.3-21]
0.08[0.03-0.21]
自発呼吸群
12(10-13)
88[80-94]
88[80-94]
7.0[3.8-13.1]
0.22[0.09-0.54]
脈圧, SV, IVC変動は呼吸性変動. 吸気, 呼気での変動率(%)を評価.
IVC変動は呼吸性変動における, (最大IVC径 - 最小IVC径)/最大IVC径 x100
脈圧, SVは分母は平均値となる(後述)

IVCの評価

Passive Leg-Raising Test: 下肢を45度挙上し, 前負荷を増やし, それに伴うCOやSVの上昇を評価する.
・COの上昇は60秒以内に生じることがほとんど.
・変動は上昇値を(%)で評価する.

呼吸による脈圧(PP)変動.

・陽圧換気では, 吸気時に胸腔内圧が上昇するため, 前負荷が低下.
・前負荷が低下することで, 吸気時終末〜呼気時にはSV, BP, 脈圧が低下する.
・脈圧変動(PPV)は以下の式で計算: 
 (最大PP-最小PP)/[(最大PP+最小PP)/2]x100

身体所見では補液反応の予測は困難であった.
・2つのStudyで身体所見による予測能を評価.
 1つは粘膜乾燥, 腋窩乾燥, Turgor低下, CRT>2sec, 頻脈, JVPを評価
 もう一つはTurgor, CRT, JVD, 粘膜乾燥, 聴診所見, 浮腫, 腹水, 胸水を評価したが, LRは1前後と有意な所見ではなかった.

どのようなStudyか見てみると,

成人例の重症熱帯マラリア 28例における, 身体所見と補液反応性の関係を評価.
(Malaria Journal 2013, 12:348)

ICU患者24例において, 身体所見と補液反応性の関係を評価
(Journal of Critical Care (2013) 28, 537.e1–537.e9)
・補液反応性は, 7ml/kgの外液を30分で投与した際, CI ≥15%の上昇で定義
・母集団は肝硬変, 急性肝炎患者, 肺炎患者が多い.

身体所見の評価項目と補液反応性に対する予測能
・身体所見は項目別ではなく, 総じての評価となる

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補液負荷に反応するか, という判断はICU管理や救急診療で重要.
個人的にはエコーを多用することが多く, 
「負荷して害にならない」ならばまず負荷して各種パラメータを評価している.

身体所見がアテにならない, という結果はとても残念だが, そこを評価したStudyはまだまだ小規模であり, この結果だけで判断はできない印象.

所見とエコーで簡便に, リアルタイムで評価, フォローできるようなアルゴリズムが作れるとよいのですけど。

多分この辺は各人が独自のアルゴリズムを自然に持っているのではないでしょうか?