(Am J Kidney Dis. 68(1):161-167.)
・アメリカでは全薬物中毒の1%程度. 年間5000件ほど
・メタノールはラジコン飛行機の燃料, 不凍液, 工業用アルコール, 一部の家庭用洗剤, 染色液などに用いられる
・中毒は経口摂取で多いが, 吸入や経皮吸収もある
・死亡率は8-36%であるが, HCO3 < 10mEq/L ± pH<7.1では50-80%に及ぶ
・Formaldehydeは血中では1-2minで代謝され, Formateが直接的に視神経障害を来す
症例: ラジコン飛行機の燃料を飲んだ22歳の女性
・摂取後30時間でERを受診
症状は腹痛, 悪心/嘔吐, 視覚障害, 頭痛
・バイタルサインを含めて診察上異常所見は認められず.
・血液検査所見:
著明なOsmolal gapが認められる.
燃料に含まれているNitromethaneが血清Cr測定値に影響を及ぼす.
メタノール中毒症の症状
・代謝性アシドーシス, 視覚障害が特徴的.
・また腹痛を37-72%で認める. 膵炎由来, 非由来双方で認める.
・視神経障害はアシドーシスの程度と相関.
乳頭浮腫を伴う例が10%程度ある
視覚障害は11-18%で残存するが, 残りは改善を認める
・被殻障害は稀だがあり; 脳血流の減少, Formateの蓄積が原因
被殻障害があると筋固縮や無表情などが認められる
・主にFormic acidが原因であり, Cytochrome oxidaseに作用し, 組織低酸素や乳酸アシドーシスを引き起こす.
・症状の発現は早期に出現するが, エタノール(飲酒)を摂取していたり, Abacavirなど一部の抗ウイルス薬を使用していると, 最大96時間症状出現が遅延することもある(Alcohl dehydrogenaseの抑制のため)
浸透圧Gapは重要な所見であるが, 認められないことも
・浸透圧Gapの正常値は10-20mOsm/kg/H2Oであり, これを超える場合にGapありと判断する.
健常人における浸透圧Gapは-11~10mOsm/kg/H2Oと幅があり, メタノール濃度によってはGapが認められないかもしれない.
・また, メタノールが代謝されるとGapは消失する.
治療はAlcohol dehydrogenaseの作用を抑制することと, 透析によるメタノールの除去が基本となるが,
・問題はメタノール中毒症では特異的な症状がなく, 気づけないこと.
・治療が遅れると死亡率は上昇する(~44%).
・また, メタノール濃度は結果が出るまで時間がかかるため, 病歴や浸透圧Gapなどで疑えば治療する必要がある.
メタノール中毒の治療:
・胃洗浄の効果は無し: すぐに吸収される.
Alcohol dehydrogenaseの抑制: エタノールの投与かFomepizole.
・エタノールは血中濃度100-150mg/dLを維持するように投与
Alcohol dehydrogenaseはメタノールよりもエタノールとの親和性が高いため, この濃度が維持できればメタノールは代謝されない.
持続静脈投与を行う.
・Fomepizole: ホメピゾール点滴静注1.5g® は特異的なAlcohol dehydrogenase阻害作用を持つ薬剤. エタノールよりも8000倍以上の親和性を持つ. 経口, 経静脈投与双方可(国内には静注製剤のみ). 副作用もエタノールと比較して少ない
・酵素阻害により代謝産物(Formic acid)を抑制しても, メタノールを排泄せねば治療とはならない. メタノール自体は肺と腎臓から排泄され, 半減期は54hと長い. → 透析を考慮する.
Drug |
Dialysis(-) |
Dialysis(+) |
Fomepizole |
Loading;15mg/kg 維持; 10mg/kg q12hr 48hrで血中濃度不十分ならば15mg/kg q12hrへ |
1-1.5mg/kg/hr追加 |
*FomepizoleのVoDは0.6-1.0L/kg, 有効血中濃度は>0.8mg/L(10mcmol/L) |
Ethanol |
純アルコール量 |
10%液での量 |
Loading |
600mg/kg |
7.60ml/kg |
維持(非飲酒者)/ HD(+) |
66mg/kg/hr / 169mg/kg/hr |
0.83 / 2.13ml/kg/hr |
維持(飲酒者)/ HD(+) |
154 / 257mg/kg/hr |
1.96 / 3.26ml/kg/hr |
*Ethanol濃度>100mg/mlでADHを完全に抑制可能 |
透析の適応:
透析治療では, メタノールもFormic acidも除去可能.
透析によりメタノールの半減期は54hから2hに短縮される
(Crit Care Med 2015; 43:461–472)