(J Am Acad Dermatol 2014;71:499-506.)
原因疾患としては, 以下のものが挙げられる.
・先天性に汗腺低形成(hypohidrotic ectodermal dysplasia)
・先天性代謝障害(Fabry病など)
・自己免疫疾患に付随するもの(Sjögren症候群)
・皮膚の障害(アトピー性皮膚炎, 乾癬など)
・自律神経障害(MSA, MS)
・末梢神経障害(糖尿病, GBS)
・薬剤性(抗コリン作用, 抗精神病薬, 抗てんかん薬*)
*ゾニサミドやトピラマート(Pediatr Neurol. 2006 May;34(5):392-4.)(No To Hattatsu. 1999 Sep;31(5):468-70.)
・明らかな原因のない特発性もあり.
発汗の評価方法: Starch-iodine sweat test
・10%Povidone iodineを顔面も含めた体全体に塗布し, 乾燥させる
患者はトレッドミルやエアロバイクで運動し, 5分毎に体温を測定
体温が≥1度上昇するか, 38度に到達するか, 運動を20分行うかいずれかを満たすまで継続する
・上記を満たせば乾燥したコーンスターチ粉を顔面を含む体幹に噴霧する.
・発汗部位ではコーンスターチと汗とPovidone iodineが反応し, 紫褐色に変色するため, 発汗の有無, 部位が明瞭となる
(J Am Acad Dermatol 2014;71:499-506.)
Minor法
・ヨードの無水アルコール溶液を全身の皮膚に塗布し, アルコールが蒸発した後に澱粉をふりかけておく
・その後トレッドミルやエアロバイクで発汗を促す.
・発汗部位でヨード澱粉反応が生じ, 変色する
特発性後天性無汗症
(The Neurologist 2008;14: 318–320) (J Am Acad Dermatol 2014;71:499-506.)
・Acquired idiopathic anhidrosis(AIA)は神経障害や汗腺の異常を認めず, 原因となる因子がない無汗症の総称.
・発汗障害以外の他の異常を伴わず, 患者はしばしば運動後に発汗がないこと, 熱中症, うつ熱を主訴に来院する.
・発症は急性発症〜緩徐進行性まで様々ある.
・症例報告は日本人で多い. 2008年のReviewでは, 65例報告があり, その中の62例が日本人であった.
その後中国からも報告が出てきており, アジア人で多いかもしれない.
特発性後天性全身性無汗症の疫学:
・男女比は4:1と男性で多く, 10-30歳代での発症が多い.
・初発症状はうつ熱や熱中症が67.4%と多い.
他はほてり感, 体温上昇, 脱力感, 疲労感, 顔面紅潮, 悪心, 嘔吐, 頭痛, めまい, 動機など.
→不定愁訴や不明熱では鑑別に挙げる.
・発汗低下部位は全身ではなく, 部分的には残存
顔面 53.3%, 腋窩 78.9%, 手掌 47.4%, 足底 36.8%は残存あり.
→患者が自覚していないことも多い.
・随伴症状としてはコリン性蕁麻疹, 疼痛発作がある
(自律神経 2014;51:229-234)
シンガポールからの報告では, 熱中症となった兵士30例中, 無汗症は31%で認められた.
・9例中1例が深在性汗疹, 2例が後天性特発性無汗症, 6例がAcquired symmetrical hypohidrosis(ASH)
・ASH: この文献で初めて定義された左右対称性の無汗症
(Dermatology. 2016;232(1):50-6.)
特発性後天性無汗症は3つのサブグループに分類される
・Idiopathic pure sudomotor failure(IPSF): 最も多いと考えられる
コリン伝達, 汗腺におけるコリン受容体の障害, 低下
エクリン汗腺におけるMuscarinic M3Rへの自己抗体が一部で関与している可能性が報告されている(Intern Med 52: 2733-2737, 2013)
・Sweat gland failure(SGF): 汗腺への細胞浸潤と変性
・Sudomotor neuropathy(SN): 節後交感神経, コリン作動性神経の変性
(The Neurologist 2008;14: 318–320)
診断アルゴリズム
(J Am Acad Dermal 2014;71:499-506.)
特発性後天性全身性無汗症は難病指定されている
・2015年に特発性後天性全身性無汗症は難病指定
無汗, 低汗部位を評価し, 体表面積の75%以上で低下が認められている場合, 重症度判断し, 指定難病対象とする.
・〜50%は軽症, 50~75%は中等症
特発性後天性無汗症の治療
・熱中症の予防のため, 患者教育は重要.
・症例報告レベルでは, ステロイドパルス療法やシクロスポリンなど免疫抑制療法が有用との報告もある.
mPSL 500-1000mg/日を3日間投与.
熱中症を起こした症例や, 生活や仕事に支障がある場合に試す.
・ステロイドが有効かもしれないのは,
若年発症, コリン性蕁麻疹(+), IgE高, 汗腺形態異常(-)の症例.
・反対に40歳以上や長期間罹患している例, コリン性蕁麻疹(-)などは抵抗性の可能性が高い.
(自律神経 2014;51:229-234)(自律神経 2013;50:67-74)
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無汗症は持続する微熱や倦怠感で来院することがあります.
大体今の時期から増え始め, 夏には熱中症となることもあります.
自覚して皮膚科に行くケースもあれば,
上記不明熱や不定愁訴で総合診療科を受診するケースもあり, 知っておくべき疾患の一つでしょう.