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2016年3月23日水曜日

REM睡眠行動障害 (REM sleep behavior disorder: RBD)

REM睡眠行動障害について
Lancet Neurol 2016; 15: 405–19 より
REM睡眠とnon REM睡眠
non REM睡眠ではゆっくりとした眼球の運動が認められ, 同期した脳波活動があり, 筋緊張は部分的に消失している.
・脳の活動は低下しており, 筋緊張が軽度ある


REM睡眠では早い眼球運動が認められ, 非同期した脳波活動があり, 夢を見ている状態. 筋緊張は完全に消失している.
・脳の活動性はあり, 筋緊張が消失している状態

睡眠障害のパターン
睡眠障害には4つのカテゴリーに分類される
 不眠, 過眠, サーカディアンリズムの変化, 睡眠時異常行動

・睡眠時異常行動(錯眠, parasomnias)は入眠時の麻痺(金縛り),  non REM睡眠時の夢遊病, REM睡眠時のREM睡眠行動障害がある.

REM睡眠行動障害(RBD)
RBDでは不快な夢(攻撃されたり, 強奪されるような夢)とそれに対する活動性の高い行動(パンチやベッドから飛び降りたり, 叫んだりするような行動)が認められる.
・ポリソムノグラフィーでは, 上記のような行動はREM睡眠時に認められている. その際筋電図の活動も過剰に亢進している.
・RBDの原因は, 下部脳幹の神経核にあるとされ,  本来REM睡眠時には筋トーヌスが低下しているはずなのに,  それが抑制されないことが機序と考えられている.
・他に原因のない特発性と, 疾患に合併する二次性RBDがある

二次性のRBD
二次性では, 神経変性疾患, ナルコレプシー, 脳幹の構造障害, 薬剤が原因となる.
・変性疾患ではパーキンソン病やDLBに合併することが多く, MSAでも報告がある. 
・初発症状としてRBDを認めることもあり, フォローが重要.
 PDの1%は診断される前にRBD症状を主治医に報告している. さらにそのうちの30%はRBD症状が初発症状であった.
・薬剤ではβ阻害薬や抗鬱薬, アルコール離脱が原因となる

特発性RBD
特発性RBDの頻度を評価した報告は少なく, 診断もポリソムノグラフィーを使用する必要があるため正確な頻度は不明.
・>60歳の高齢者では0.3-1.15%の頻度と言われている
・診断年齢は50-85歳が多いが,  症状はそれから1-10年前より認めている.

RBDの症状
・自分で症状を自覚したり, 自傷に気づいて受診することもあれば,
同居者に指摘されて受診することもある.

症状の頻度
・自覚するのは57%, 気づいていないのが4割
・パンチやキック, ベッドから落ちる, 周囲を攻撃する, 歩くなど.
・自傷も6割で認められる.

・同居者が気づく症状としては寝言, 絶叫, 笑う, 泣く, 歌うなどの行為

不快な夢もほとんどの患者から聴取可能
・他人から攻撃されたり, 罵倒されたり, 争ったり, 崖から落ちたり…など

他に特発性RBDに伴うことがある症状, 所見
・特発性RBDでは脳幹神経核の障害のみではなく,  嗅覚に関連する部位, 黒質線条体, 自律神経系など様々な部位が障害される可能性があり, Synucleinopathy*と類似している.(*α-synucleinが関連した変性疾患: PD, DLB, MSAなど)

初期に特発性RBDと診断された患者群でも長期間のフォローにて変性疾患に移行する例も多い.
・特発性RBDが変性疾患(Synucleinopathy)に進展するリスク
・研究により様々だが, 5-10年のフォローで16-82%が進展する.
・進展リスクを評価するのは困難

RBDの診断
診断クライテリアでは,
・REM睡眠行動障害に矛盾しない症状があり,
・ポリソムノグラフィーにおいてその症状がREM睡眠期にあることが証明され,
・さらにREM睡眠期に無力症がないことが証明され
・他の疾患の可能性が低い 場合に診断される.

RBDの鑑別疾患
若年の健常者では病的ではなく, 睡眠中の行動を認めることがある.
 これら行為は良性であり, RBDとは異なる.
 RBDはこれら行為が頻回にあり, 活動性も高い場合, >50歳で認められる場合に考慮する.

睡眠時無呼吸症候群: OSASの患者でも不快な夢を見たり, それに対する行為が認められることがある.
 重度のOSASでは自傷行為も認められることがあるため, RBDとの鑑別が難しい.
 発症年齢もRBDと同じく60歳台で多く, 男性例が多い点も同じ(RBDでは6-7割男性)
 ポリソムノグラフィーにて, REM睡眠時に生じているかどうか, REM睡眠時の筋トーヌスの評価で鑑別する.

夢遊病, 夜驚症: RBDと同じく不快な夢や睡眠時の行動が認められる
 これらはnon REM睡眠時に生じる行動障害であるが, non REM睡眠時の行動障害では家族歴を認めることが多く, さらに幼小児より生じる例が多い(30歳台の発症も報告されているが稀).
 ポリソムノグラフィーではREM睡眠は正常である.

夜間前頭葉てんかん(常染色体優性遺伝): 夜間のジストニア肢位, 両手や両下肢の運動が認められたり, 走ったりする行為がある.
 叫んだり, キックするようなRBDで認められる症状もある.
 発症は幼小児であるが, 40歳台の発症も報告されている.
 不快な夢をみることは少ない
 家族歴も陽性となることが多い

睡眠時周期的脚運動(PLMS): 重度のPLMS患者ではRBDと同じような不快な夢を見たり, それに対する行動が認められることがある.
 自傷も認めることがある.
 PLMSも男性が多く, 診断年齢は50歳台とRBDと類似している.
 ポリソムノグラフィーではREM睡眠は正常. non REM睡眠時に下肢や上肢, 体幹の運動が認められる.

・他の鑑別診断
 錯乱性覚醒: 60歳以上の認知機能低下がある患者で多い. 夜間のせん妄状態が生じる.
 解離障害:
 詐病
:
 解離障害や詐病では, 夢の内容やそれに対する感情, 行動を詳細に, 鮮明に説明することが可能.  ポリソムノグラフィーでは起床時に異常行動が認められる.

RBDのマネジメント
・RBDの治療では明確な指針はない.
・今後PDやDLB, MSAに進行する可能性があることは説明する
・治療の目標は異常行動や自傷行為の頻度を減らすこと.
・RBDの原因となるβ阻害薬や抗鬱薬は中止する方が良い.
・ベッドから落ちないような対策, 自傷を予防するような対策を行う

RBD自体の薬剤治療ではRCTは乏しく,  エキスパートオピニオンか, ケースシリーズからの報告となる.
・従って効果や副作用については不明確な部分が多い

薬剤治療ではクロナゼパム, メラトニンが試される
・クロナゼパムは長期作用型のベンゾジアゼピン.
 RBDに対する作用は不明であるが, 異常行動の減少効果が報告されている.
 2mgを眠前に投与する. 投与中止により症状は際増悪する.
 長期使用にて耐性や依存のリスクがある.
・メラトニン 3-12mgを眠前30分前に内服.
 単独でもクロナゼパムとの併用でも使用可能.
 症状を緩和するが, クロナゼパムよりも効果は弱いとされている