ブログ内検索

2016年3月6日日曜日

薬剤による消化管障害

様々な薬剤が消化管障害を呈する.
薬剤そのものによる消化管障害
・平滑筋弛緩に伴う逆流性食道炎,
・抗生剤によるCDI
・免疫抑制剤による消化管感染症
 など様々な機序が考えられるが, 今回は薬剤そのものによる消化管障害をまとめてみる
(Semin Diagn Pathol. 2014 Mar;31(2):165-75.)

薬剤による直接的な障害では,  錠剤や薬剤自体が食道の生理的狭窄部位や腸管で停滞し, 粘膜障害を呈する.
・NSAID, キニジン, KCl, Emepronium bromide, アレンドロネート, テトラサイクリン, クリンダマイシン, 硫酸鉄, フェニトインなどで報告.
・特に食道炎はアレンドロネートなどのビスフォスフォネートで多い.
 内服後の突然発症の共通や嚥下痛, 嚥下困難, 背部痛など呈する.

薬剤による消化管障害は食道のみならず, 小腸や結腸でも生じる.
・特に多い部位は十二指腸の近位部, 回腸の終末部, 右側結腸
・潰瘍は境界明瞭なアフタ性の病変で周囲は正常粘膜か, 斑状紅斑, 浮腫状, 虚血性腸炎様の変化が認められることが多い
(Semin Diagn Pathol. 2014 Mar;31(2):165-75.)

薬剤別の消化管障害 (Semin Diagn Pathol. 2014 Mar;31(2):165-75.)
アレンドロネート
・錠剤による食道炎は使用者の<2%で認められる
 胃炎もあるが, 食道炎よりは頻度は少ない
・まれであるが, [Esophagitis dissecans superficialis]と呼ばれる病変を呈することもある.
 白色の粘膜が円柱状に認められ, その間はピンク色の治癒粘膜で覆われる. 病理所見では, 扁平上皮内で分離している所見が得られる

テトラサイクリン
・特にドキシサイクリンで多く, 抗生剤による食道炎の45%を占める.
 ドキシサイクリンはニキビ治療に使用されるため, 若年者で多い.
・テトラサイクリンは少量溶解するとpH<3の酸性となる. 
・また扁平上皮の深層で吸収されるため, 扁平上皮の中層〜下層の炎症, 好中球浸潤が生じる. 基底上皮細胞の空胞変性により上皮内で細胞解離が生じ, 上層は凝固壊死となる
・テトラサイクリンによる胃炎の報告もあるが, まれ

ケイキサレート
・陽イオン交換樹脂(ポリスチレンスルホン酸Na)で腎不全に伴う高K血症に対して用いられる.
・ポリスチレンNa結晶が粘膜に沈着し, 直接的に粘膜障害を呈する
・ケイキサレートによる消化管障害はどの部位でも生じてよいが特に食道, 遠位結腸, 直腸で多い.
・ソルビトール含有ケイキサレートでは遠位結腸や直腸で高浸透圧状態をつくるため, より粘膜障害や浮腫が強くなる.
・特に経口投与でリスクが高いが, 注腸投与でも報告例はある
・重症例では致命的な腹膜炎を呈することもある.

ケイキサレートによる消化管障害のSystematic Review.
(The American Journal of Medicine (2013) 126, 264.e9-264.e24)
症例報告より58例の消化管障害を評価した.
・平均年齢は58±17歳, 男女比は1:1
 基礎疾患はCKDが26%, 透析患者が45%, 移植後が16%
・症状は腹痛, 圧痛が57%, 悪心嘔吐が11%, 下血が24%, 下痢が18%
・ケイキサレート開始後〜発症までの期間は1日未満〜25日程度
・障害部位の頻度:
 食道 2%, 胃 3%, 小腸 21%, 盲腸 10%, 結腸 76%, S状結腸〜肛門 16%
組織所見の頻度: 
 壊死 62%, 潰瘍 48%, 穿孔 9%, ケイキサレート結晶 90%

ソルビトール含有ケイキサレートと、非含有ケイキサレート別の特徴

・双方とも、単独投与, 慢性投与で消化管障害を生じる. 
・ソルビトール含有の方が単独投与後の発症が多い.
 有意差はないが投与後〜発症までの期間も短い傾向がある.

ケイキサレート結晶とそれに類似する薬剤の結晶
・ケイキサレートは好塩基性のひし形, 三角形の屈折性の結晶.
・ただし, 偏光性はない.
・結晶内部はよくみると鱗状のモザイクパターンとなる点が特長的(A).

・似たような結晶でコレスチラミン結晶もあるが, 深い赤色に染まり, 内部の鱗状パターンも認めない点で鑑別可能(B)
 また, コレスチラミンは消化管障害の原因とはならない
(Semin Diagn Pathol. 2014 Mar;31(2):165-75.)

カリメート(ポリスチレンスルホン酸Ca)ではどうか?
・ケイキサレートほどではないが, 腸管壊死や腸炎の報告例はある
(J Korean Med Sci. 2009 Dec;24(6):1207-11. Rev Esp Enferm Dig. 2013 Apr;105(4):232-4. Ann Pharmacother. 2011 Feb;45(2):e13.)
・慢性透析中の患者で, カリメート使用中の高齢者で生じた症例, カリメート注腸投与後2日で生じた症例など. ケイキサレート同様, 内服中の出現か, 開始後数日で発症する.
・カリメートの結晶もケイキサレート同様, 好塩基に染まり, 内部は鱗状のモザイクパターンとなる


ケイキサレートやカリメートに類似している結晶としてはセベラマーが重要

セベラマー(フォスブロック®, レナジェル®)
・セベラマーも消化管障害 + 結晶沈着を呈する薬剤.
・慢性腎不全の高P血症に用いる.
・結晶はいびつで内部に裂け目が認められ, ケイキサレートに似ている
・染色パターンが特長的; 
 正常粘膜内では明るいピンク色に縁取りされ, 黄色に染まる結晶. 
 潰瘍病変内では好酸性に染まる結晶として認められる.
セベラマーによる消化管障害も食道〜結腸まで様々.
 慢性炎症や炎症性ポリープ, 壊死, 潰瘍形成までいろいろある
(Am J Surg Pathol 2013;37:1686–1693) 

3種類の結晶のまとめ

硫酸鉄(テツクール®)
・経口の鉄剤. 鉄欠乏に対して使用される.
・硫酸鉄は直接的な粘膜腐食作用があり, その強さは用量依存性.
・通常の使用量では軽度な胃炎程度(Iron pill gastritis). 少ないが食道炎や十二指腸炎もある.
・高用量投与や小児例での使用では重度な炎症を生じ食道狭窄や十二指腸狭窄の原因となる.
・胃粘膜の生検の1%で鉄沈着と粘膜障害が認められる.
・鉄は粘膜固有層の表層や血管周囲に認められる黄褐色の結晶様, 小繊維様の構造物として認められる. 周辺組織にはびらんや潰瘍, 肉芽組織などが認められる.
・胃の鉄沈着はヘモクロマトーシスや鉄過剰でも認められる所見
 ヘモジデリン沈着(金褐色の顆粒状)では胃炎や出血で認められる.

経口鉄剤ではPseudomelanosis intestinalisという病態も生じる.
小腸粘膜のスポット状の褐色〜黒色の色素沈着で, 鉄剤内服や鉄過剰症, 降圧薬(ヒドララジン, プロプラノロール, サイアザイド)で生じる.
・降圧薬によるものは黒色の細かい顆粒状となる.

NSAIDsによる消化管障害
・局所的なプロスタグランジン合成障害により粘膜虚血が生じ, 粘膜の恒常性が低下する.
・慢性的なNSAIDs使用患者の70%で胃炎や胃のびらんを認め, そのうち25%で胃潰瘍が認められる.
・組織からはChemical gastropathyの所見が得られる(胃粘膜表層のムチンが低下している所見)
・一部の専門家からは, NSAIDsによる障害では好酸球浸潤が多いとの意見もある

・NSAIDsでは胃, 十二指腸のみならず, 小腸粘膜病変も多い.
 長期NSAIDs使用者の70%で小腸病変も認められる.
 消化管出血, 黒色便, 貧血, 腹痛の原因となるが, 大半が無症候性.
・NSAIDsによる小腸, 結腸病変では, 回腸終末部, 右側結腸病変が多い.
・基礎疾患にIBDや憩室がある場合, NSAIDs使用により増悪する可能性もある.
・慢性の使用により慢性回腸, 結腸炎となることもある

・慢性のNSAIDs使用により小腸のリモデリングが生じ ”Diaphragm Disease”と呼ばれる閉塞性病変を呈することもある.
(RadioGraphics 2016; 36:71–87)
また, NSAIDsはLymphocytic, Collagenous colitisの原因にもなる

Mycophenolate mofetil(セルセプト®)
・消化管症状の副作用は45%で認められる.
・軽度の悪心, 嘔吐, 下痢, 腹痛から重篤な吸収不良症候群まで様々
・Mycophenolate mofetilによる消化管障害の機序は不明であるが, 免疫由来の消化管粘膜障害やリンパ球抑制による感染症の関与など指摘されている.

コルヒチンとパクリタキセル
・双方ともアルカロイド製剤であり, 細胞の有糸分裂を阻害することで一部の細胞を障害する.
・コルヒチンは炎症細胞や線維芽細胞を障害し, パクリタキセルは乳癌, 食道癌, 肺癌の癌細胞を障害する.
・上記細胞以外にも正常細胞の障害も認められ, 骨髄抑制や腎不全, 呼吸不全などのリスクもある.
・消化管障害もあるが, 普通は軽症.
・組織所見では上皮細胞内にクロマチンリングと呼ばれる構造を認める
 有糸分裂を阻害することで分裂途中で止まっている細胞が増加

オルメサルタン(オルメテック®)
・安全な薬剤であるが, <1%で重度な下痢を呈する.
・オルメサルタンや他のARBsは腸管の免疫で重要なTGFβを抑制する作用があり, それが下痢に関与している可能性がある.
・組織所見では, 絨毛の萎縮(68%), 上皮下のコラーゲン組織の肥厚(32%)
 固有層に形質細胞浸潤が主の炎症所見(68%), 上皮内のリンパ球浸潤(64%)が認められる.

0 件のコメント:

コメントを投稿