ブログ内検索

2012年9月12日水曜日

心臓内デバイスの感染症, 心内膜炎

心臓内デバイス (Cardiovascular Implantable Electronic Device; CIED)の感染症
主にペースメーカー, ICDに対する感染を意味.

【CIED感染症】(Infect Dis Clin N Am 2012;26:57-76)
大きく2つに分類される
Generator pocket siteの感染症; 69%を占め, その内25%で菌血症を伴う.
 この場合, 局所的な発赤, 腫脹, 疼痛を認める事が多いが, 5-11%で局所症状を認めない.
 Pocket siteの穿刺吸引は推奨されない.
疣贅を伴う心臓内リードの感染症; 23%とやや少なめ.
 リード, 弁に疣贅を認める心内膜炎を呈するCIED感染. Duke criteriaを用いて診断する事が多い.  27-65%でPocket site感染を認めず, 心内膜炎のみを認める.

【疫学】(Medicine 2012;91:123-130)(Infect Dis Clin N Am 2012;26:57-76)
CIEDの感染症発症率は0.13-19.9%と報告により様々.
発症のタイミングは留置後0-28日で25%, 30-364日で33%, ≥365日で42%となる.
平均52日[24-162]で発症するという報告もあり.

【原因菌】
502例のDevice関連の心内膜炎の解析(Medicine 2012;91:123-130)では,
 CNS 27%, MRSA 22%, MSSA 12%, Non-staph 16%, 多種類感染 2%, 培養陰性 21%.

原因菌として報告されている菌の一覧 (Infect Dis Clin N Am 2012;26:57-76)

【CIED感染の診断】
[培養検査] (Infect Dis Clin N Am 2012;26:57-76)
 CIED感染のうち, 血液培養陽性は33-40%.
 リード感染では培養陽性率は68.3-100%と良好. Pocket感染のみでは25%程度のみ.
 Pocket感染の場合は周辺の組織培養が61-81%で陽性となり, 診断, 原因菌同定に有用.
 リード培養は63.3-79%で陽性となる.

TEE, TTEは有用だが, 感染が無くても5-10%でペースメーカーリードにClotが認められる.
 また, TEEが陰性でも除外は困難. (N Engl J Med 2012;367:842-9)

従って, 疣贅や局所所見があれば診断は可能なものの, それらが無い場合でも除外は困難なのがCIEDの感染症. 特に 『ペースメーカー留置中の患者における黄色ブドウ球菌菌血症で, 明らかな疣贅を認めないケース』が本当に困る事が多い. これに関しては下記を参照のこと.

【CIED感染のマネージメント】(Infect Dis Clin N Am 2012;26:57-76)
CIED感染の死亡率はデバイス除去した群で7.4-18%
部分除去のみ, もしくは抗生剤のみの群では8.4-41%となる.
 基本的には全デバイスを除去 + 抗生剤治療が推奨される.
 Pocket感染でもGeneratorのみの除去では再発率が高く, 推奨されない.

心内膜炎2760例のProspective cohort. (JAMA 2012;307:1727-1735)
 その内177例がデバイス由来の心内膜炎.
 マネージメント方法別の生存率は, 以下の通り
最も予後が良好なのは弁感染(-), デバイス除去した群.
 それに次いで 弁感染(-), デバイス温存した群と弁感染(+), デバイス除去群
 最も悪いのは弁感染(+), デバイス温存群.

治療アルゴリズム(N Engl J Med 2012;367:842-9)
基本的にCIED感染が疑われた場合は全例抜去が推奨される.

【CIED留置患者のブドウ球菌菌血症例はどうするの?】(Infect Dis Clin N Am 2012;26:57-76)
CIEDをもつ患者におけるブドウ球菌菌血症にて, 明らかなPocket感染, リード疣贅, 弁疣贅を認めない場合, Dukeクライテリアを満たさない場合.

 上記の場合のCIED感染リスクは45%との報告がある.
 しかしながらそれら全例でDevice除去するのは適切ではない.
 Expert opinionでは, 下記が加わった場合はCIED感染のリスクが高く除去を考慮すべきとの意見があるが, 具体的なクライテリアは無し.

 ◎明らかなフォーカス不明な菌血症
 ◎再発性の菌血症
 ◎24時間以上持続する菌血症
 ◎人工弁を有する場合 (OR 6.8[1.1-43.4])
 ◎ICDを有する場合 (OR 13.3[2.1-84.9])
 ◎Device留置後3ヶ月以内の菌血症

【Deviceの抜去方法について】(Infect Dis Clin N Am 2012;26:57-76)
以前は外科的抜去が選択される事が多かったが, 近年経皮的抜去も安全に試行可能という報告がでている
 CIED感染症の96%が初期にDevice抜去成功しており, そのうち90%は経皮的抜去で成功している.
 経皮的抜去した患者群の疣贅径は0.3-7.0cmだが, 抜去により肺塞栓を合併した例は全く認められなかった.
 疣贅径≥1cm程度ならば経皮的抜去で問題はほぼ無し. 例え肺動脈へ飛んだとしてもそれで致命的なPEとなることは無し.
 ただし, ≥2cmとなると肺動脈根幹を閉塞する可能性があり, 外科的除去が推奨される. が, それでも飛ぶ可能性は少ない.
<2cmならば経皮的抜去が可能という認識.
>2cmではEvidence不十分で, 外科切除との優位性は不明.

経皮的抜去時には合併症のリスクがあるため, 必ず心臓外科のバックアップ下で行う必要がある.
 11%で外科手術が必要な合併症を認めた報告もある.
 三尖弁損傷, 鎖骨下静脈裂創, 血胸, Pocket hematoma, リード先の損傷など.
 抜去者の経験, 技能でリスクが変動するため, 経験のある術者が行うのが望ましい.

【抜去後の再挿入タイミング】(Infect Dis Clin N Am 2012;26:57-76)
血液培養(+), TEE(+)のケースでは
 Device除去後 血液培養フォローを行い,
 弁に疣贅(+)のケースでは, 培養陰性後14日経過後に再留置,
 リードに疣贅(+)のケースでは, 陰性後72hr経過後に再留置.
血液培養(+), TEE(-)のケースでは
 Device除去後 血液培養フォローを行い, 陰性後72hr経過後に再留置行う.
Pocket感染の場合
 Device除去後 血液培養フォローを行い, 陰性後72hr経過後, 周辺組織のデブリ終了後に再留置を行う.