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2012年7月6日金曜日

甲状腺腫瘍の評価について

個人的な興味で、甲状腺腫瘍、結節についてまとめてみた.


甲状腺の触診について
通常、甲状腺に腫瘍、結節を触れる割合は5%程度.
男女差があり女性で5.3-6.4%, 男性で0.8%-1.5%.
高齢者程頻度も上昇し, 18-24歳の女性では4.7%, 75歳以上では9.1%触知する.
World J Surg (2008) 32:1253–1263


ただし, 甲状腺腫瘍に対する触診の感度は10-41%とかなり低い.
2cmを超える結節でも感度42%という報告もある.
Medical and Pediatric Oncology 36:583-591 (2001)

従って, 詳細に評価するならば甲状腺エコーが高感度、低侵襲で勧められるが、健常人でもかなりの割合で結節を認めること, また, それらをすべて異常として評価、治療することの意義が乏しいため, スクリーニングとしてのエコー検査は推奨されていない。
(高リスク群は除く)


甲状腺エコーによる評価
健常人のボランティアを対象として甲状腺エコーを施行すると,
甲状腺結節は27-67%で認められる.
解剖症例での評価では50%で甲状腺結節を認める.


 >> これらを全て異常と捉えると, 検診をした半分以上は二次検査へ進んでしまう
  二次検査は吸引細胞診、もしくは切除.
  甲状腺腫瘍を触れる患者においてエコーは適応すべきであり, 全例には必要ないというのが一般的な考え方となる.


エコーで結節を認めた場合は悪性の可能性を評価することが重要
そこで大事なのは、腫瘍径は悪性腫瘍のリスク評価には使えないという点.
92例の甲状腺腫瘍で手術治療を行った群の評価 (内31名が悪性腫瘍)
Size
良性
悪性
0.8-1.0cm
4
5
1.1-2.0cm
15
16
>2.0cm
42
10
全体
61
31

<1cmの群でも, >1cmの群でも悪性腫瘍(甲状腺癌)の割合は変わらない.
Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism Vol. 22, No. 6, pp. 913–928, 2008

また, 1940-50年代に悪性腫瘍と関係なく、頭頸部へ放射線療法を施行された1056名のフォローでは, 
(27.2%で結節を認め, その内71%で手術を施行. 悪性腫瘍は33%(60/182)で認められた)
悪性腫瘍の21例は腫瘍径<0.5cm, 28例が0.6-1.5cm, 11例が>1.5cm.
New Engl J Med 1976. 294(19):1019-1025.

従って, 悪性かどうかはエコー所見で判断し,
怪しければFNA(吸引細胞診)で組織検査を行う必要がある.

悪性っぽいエコー所見とは?
エコー所見
感度(%)
特異度(%)
Microcalcifications
6.1-59.1%
85.8-95.0%
Hyperechogenicity
26.5-87.1%
43.3-94.3%
Irregular margins or Halo sign(-)
17.4-77.5%
38.9-85.0%
Solid
26.5-87.1%
43.3-94.3%
Intranodular vascularity
54.3-74.2%
78.6-80.8%
Taller than wide(高さ>)
32.7%
92.5%
Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism Vol. 22, No. 6, pp. 913–928, 2008

見ての通り, 感度, 特異度ともにバラツキが大きく,
術者の経験や腫瘍の大きさで評価しやすさも異なる。

最近はUS Elastographyという, 組織の弾性を評価するエコーの手法があるらしい.
圧迫時と非圧迫時の形の変化から腫瘍全体, 腫瘍内部の組織の弾性を評価し,
色分けしてScoreする.
これによると, Score 4-5は感度97%, 特異度100%で悪性腫瘍を示唆するという結果もある
Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism Vol. 22, No. 6, pp. 913–928, 2008

FNA(吸引細胞診)の適応について
ATAガイドラインでは, FNAの適応は腫瘍径>1cmの甲状腺腫瘍となっている.
が, 前述の通り腫瘍径により悪性かどうかの判別は不可能であり, エコー所見が悪性を示唆する場合や, 甲状腺癌リスクがある患者群では上記にこだわらずに行う方が良いであろう.

ATAガイドラインが>1cmでFNAを推奨する理由としては2つあり, 1つは<1cmの甲状腺腫瘍ならば例え悪性であっても臨床的に問題を来す可能性は低いという点と, FNAの失敗が増加するという点である.

FNAでは陽性、陰性以外に検体不良(悪性かどうか評価できない場合)のことがあり, 腫瘍径<1.5cmでは27%が検体不良, 1.3-3.0cmでは16%, >3.0cmでは13%は検体不良の可能性があるとされている. 
World J Surg (2008) 32:1253–1263

甲状腺結節の精査アルゴリズム 
Best Practice & Research Clinical Endocrinology & Metabolism 26 (2012) 8396
<1cmの結節では上記の通り, FNAの精度も落ちるため, 
<1cmでエコー上悪性っぽい所見がないのであれば, 1年毎にフォローすることを推奨するExpert opinionもある.

良性の甲状腺結節であった場合
良性の甲状腺結節から悪性腫瘍が出現するリスクは極めて低い.
FNAで良性と判断された93名の2年間フォローでは, 悪性腫瘍発症は1例もなし.
Postgrad Med J 1990;66(781):914-917.
FNAで良性と判断された537名の2-10年フォローでは, 悪性腫瘍出現は無し.
J Surg Oncol 1992;50(4):247-250
という報告がある.

基本的には6-18ヶ月毎の触診、エコーフォローを行い,結節が増大傾向にあるならば再度FNAを行う.
良性腫瘍でも大きさが増大することがあるため, 臨床的な増大とは最大径が50%以上, もしくは3-5mm以上の増大, もしくは容積>15%の増大を有意ととる.
World J Surg (2008) 32:1253–1263