関節リウマチ患者で好中球減少を生じた場合, 第一に薬剤性(MTXや他のcsDMARD, トシリツマブが代表的)を疑う.
薬剤性の可能性が否定的であり, 他に原因も乏しい場合, Felty症候群やT-LGL leukemiaを考慮する.
(Joint Bone Spine. 2015 Jul;82(4):235-9.)
Felty症候群はRA, 脾腫, 好中球減少の3徴を特徴する疾患
(Acta Haematol 2021;144:403–412)(Best Practice & Research Clinical Rheumatology Vol. 18, No. 5, pp. 631–645, 2004)
・RA患者の<1-3%で認められる.
診断から10年以上経過したRAで認められることが多い.
・Felty症候群を伴うRAでは, 関節外症状を伴う頻度が高い:
91%が脾腫以外の関節外症状を伴う.
リウマチ結節 76%, 体重減少 68%, 続発性Sjogren症候群 56%, リンパ節腫大 34%, 下肢潰瘍 25%, 胸膜炎 19%, 皮膚色素沈着 17%, 神経障害 17%, 上強膜炎 8%, 溶血性貧血など
・関節炎の活動性とは必ずしも一致しておらず, 100例のFSのうち35例は治療が不要な状態であった報告もある. 一方で, 骨破壊は高度な症例が多い.
・リウマチ因子の陽性率は95-100%であり, 高力価となる(中央値 10240[範囲640-81920]). (Medicine (Baltimore). 1986 Mar;65(2):107-12.)
ANAは47-100%で陽性. 抗ヒストン抗体も68-83%で陽性となる.
報告では, 非特異的なANCAが8割で陽性となるものもある.
免疫グロブリンは上昇し, 補体は低値となることが多い
・また, HLA-DR4との強い関連が示されている
・好中球減少の機序はSLEと同じく, 免疫機序による, 骨髄の顆粒球分化の抑制, G-CSFによる成熟化の抑制, 末梢血での血球破壊が生じている
・骨髄像では骨髄球系の過形成, Maturation arrestが多く認められる
また頻度は少ないが, 正常骨髄や低形成骨髄となることもある.
特異的な所見は認めないため, 基本的に骨髄検査は他疾患の除外目的で行う.
このFelty症候群と類似した病態となり, しばしばRAでの合併も多い疾患がLGL lymphocytosis(大型顆粒リンパ球増多症) [特にそのうちのT-LGLL(T細胞性大型顆粒リンパ球性白血病)]である.
・LGL lymphocytosisは慢性リンパ増殖性疾患の5-6%を占める(アジア)
Large granular lymphocyte: LGLとは
・LGL: 大型顆粒リンパ球.
末梢血単核球のSubsetの一つであり, 正常の末梢血にもある(<250/µL, 5-10%程度)
・直径12-20µmの細胞で, 淡青色の細胞質, 偏心した核, 顕著なアズール親和性顆粒を有する.
・酸性ホスファターゼに染まり, MPOで染まらないため, リンパ球系がオリジンと考えられる.
・CD3-NK細胞, またはCD3+活性型細胞傷害T細胞の双方に由来するLGLがある;
CD3+LGL(T-LGL), CD3-LGL(NK-LGL)
A) リンパ球,
B,C) LGL
(Hematology Am Soc Hematol Educ Program. 2017 Dec 8;2017(1):181-186.)
LGL lymphocytosis: LGL増多症
・LGLは通常<300/µL程度であるが, 6ヶ月を超えて>2000/µLとなる場合や,
Clonalな増殖(>500/µL)が認められる場合はLGL増多症(LGL lymphocytosis), LGL白血病(LGL leukemia)と呼ぶ(LGLL).
・LGL増多症では, 好中球減少, 貧血, しばしばPLT低下を認め, 脾腫を伴う.
末梢血, 骨髄リンパ球増多を認める点が特徴. (末梢血Ly >4500/µL, 骨髄リンパ球分画>23.8%)
・ClonalなLGL増殖はT-LGLで多く, TCR rearrangementで検出が可能.
非クローン性のLGL増殖は反応性に生じ, CMVやHTLV-1, HIV, EBVなどの慢性感染症に伴うものが知られている. また, 脾摘後や骨髄移植後に認められるものもある.
・WHOの分類ではLGLは成熟T細胞/NK細胞性腫瘍に含まれる.
T細胞の要素を持つLGLではT cell LGL leukemia (T-LGLL)
NK細胞の要素を持つLGLではChronic lymphoproliferative disorder of NK cell (CLPD-NK)と呼ばれる.
稀であるが, 予後不良のAggressive NK-cell leukemiaもLGLが増殖するためにこの分類に含まれる. 主にアジア人で報告され, EBV感染症の関連がある.
頻度はT cell LGL leukemiaが85%と最も多い (Blood. 2017;129(9):1082-1094)
LGLLの主な症状は消耗症状
・LGLLの中央年齢は60歳であり, <50歳での発症は<25%のみと少ない. 小児例はまれ.
・1/3は診断時に無症候
・初発症状/所見で多いのは好中球減少(70-80%)と, 再発性の口腔内アフタ.
好中球減少による感染症は15%程度.
アジア人では好中球減少の頻度は低いが, 赤芽球瘻の頻度が高い.
・他に脾腫, 神経障害(特に多発単神経炎), リンパ節腫大, Polyendocrinopathy, 口腔内潰瘍が認められることがある.
脾腫は20-50%, リンパ節腫大は希
・リンパ球数は4000-10000/µL, LGL数は1-6000/µL LGL<500/µLが7-36%で認められるため, 少なくても除外はできない
・好中球減少は重症(<500/µL)が16-48%, 中等度(<1500)が48-80%
貧血は多く, 輸血依存が10-30%,
PRCAは8-19%で合併
血小板減少は中等度のことが多く, 頻度は<25%
・LGLLではCD4+:CD8+比の逆転, CD8+CD57+の共発現, 活性型T細胞(CD3+/DR+)の出現などリンパ球の異常が認められる.
最も多い細胞のPhenotypeはCD2+, CD3+, CD4-, CD8+, CD16+, CD57+
(Best Practice & Research Clinical Rheumatology Vol. 18, No. 5, pp. 631–645, 2004)(Blood. 2017;129(9):1082-1094)
T-LGLLの背景疾患
・自己免疫疾患に合併する例が多く, 特に関節リウマチを背景とすることが多い
・他には自己免疫性血球減少や他の血液腫瘍, MDSの合併がある
(Blood. 2017;129(9):1082-1094)T-LGLLとRAやFelty症候群とのOverlap
・T-LGLL患者の20%程度(11-36%)がRAを合併している
一般人口におけるRA有病率は0.5-1%
また, RA患者でLGLのクローナルな増加が認められるのが3.6%
・FS患者では報告によりバラつきはあるが30-40%でLGLの増加が認められる.
またClonalな増殖が認められる症例も多い(TCR rearrangement)
・アジア人のLGL leukemia患者では, 西欧人と比べてRAを発症するリスクが少ない(1/7)
・Felty症候群はRA患者における好中球減少, 脾腫を伴う病態であり, 臨床的にはLGLLと類似する.
また, RAに合併するT-LGLLの90%でHLA-DR4が検出され(非RA合併例では33%であり, 一般人口と同等), RA合併T-LGLLとFSは同様の病態スペクトラムと捉えらえる考えもある
(Curr Opin Hematol. 2011 July ; 18(4): 254–259.)(Best Practice & Research Clinical Rheumatology Vol. 18, No. 5, pp. 631–645, 2004)
・基本的にRA患者の原因が不明確な好中球減少において, RAに合併するT-LGLLとFSはT細胞のクローナルな増生があるかどうかで鑑別する.
RA患者の他に原因が認められない好中球減少において, TCR遺伝子rearrangementが認められればT-LGLL, 認められない場合はFS
・最近報告ではさらに, STAT3 geneがT-LGLLの27-72%, STAT5b geneが2%で認められる報告があり, 両者の鑑別に有用な可能性が示唆されている.
(Rheumatology International (2021) 41:147–156)
単一施設のRA患者を後ろ向きに解析
(Rheumatology International (2021) 41:147–156)
・ACR/EULAR 2010基準でRAと判断されて, さらに末梢血好中球減少 and/or LGL上昇(>2000/µL)を満たす81例を解析.
・TCR遺伝子rearrangementの結果でT-LGLLとFSを分類し, 両群を比較した
アウトカム
・FSが25例, T-LGLLが56例
年齢やRA罹患期間は両者で差はない.
Erosive arthritis, RF陽性, ACPA陽性の頻度も同等.
脾腫はFSで83%, T-LGLLで56%とややFSで多い
白血球低下の程度はFSの方が顕著であり, リンパ球はT-LGLLで多い.
LGLの絶対数もT-LGLLで多い
STAT3変異陽性はFSで0%, T-LGLLで39%とFSでSTAT3変異は認めない
LGL増多症の診療アルゴリズム
・リンパ球の増多やRAを伴う好中球減少, 貧血, 繰り返す感染症で疑う.
・末梢血スメアを確認し, LGLの増加の有無を評価.
増加があればClonalな増生かどうかをフローサイトやTCRγ rearrangementで評価
・Polyclonalならば反応性LGL: 脾摘後やウイルス慢性感染症, 臓器移植後
・ClonaならばT-LGLLやCLPD-NK
・判断が困難ならば骨髄検査を行う.
LGL leukemiaやFelty症候群の治療
(Curr Opin Hematol. 2011 July ; 18(4): 254–259.)
・LGL leukemiaはIndolentな経過となり, 生存期間の中央値は10年以上.
主に血球減少やB症状, 脾腫による腹部症状に対して治療が行われる.
・LGL leukemiaもFSも免疫抑制療法が主となる.
・LGL leukemiaでは初期治療としてはMTX(10mg/m2/wk), CY 50-100mg/d, CsA 5-10mg/kg/dが選択されることが多い.
LGL leukemiaの50-60%で症状の緩和や血球減少の改善が期待できる
・FSではMTXなどDMARDにより好中球減少の改善が期待できる. 他にRTXやBioを使用した症例報告もあり. 治療反応を評価するには4ヶ月以上経過を見ることが推奨される.
・好中球減少に対してはG-CSFやGM-CSFも効果的.
・B症状改善にはGCが有用, 効果も迅速.
・脾腫による症状が強ければ脾摘も検討. FS患者の8割で迅速な好中球減少の改善が期待できる. LGLでも血球減少の改善は期待できる
LGL leukemia症例を対象としたPhase 2 trial.
(Leukemia (2015) 29, 886–894; doi:10.1038/leu.2014.298)
・ 初期治療をMTX 10mg/m2/wkの経口投与を行い, 反応不良であった患者でCYC 100mg/dに切り替え, 反応性を評価
・患者はLGL leukemiaと診断された群で, 末梢血CD3+CD57+ cell>400/µLもしくはCD8+ cell >650/µLを満たし, さらに以下の1つ以上を満たす群
・重度の好中球減少<500/µL
・再発性の感染を繰り返す好中球減少
・症候性の貧血 and/or 輸血依存の貧血
さらに, Bil<2.0mg/dL, GOT <1.5ULN, Cr<2.0mg/dL, ECOG 0-2, 他の悪性腫瘍がないことが条件.
・治療はMTX 10mg/m2/wk 経口投与. 4wkで1サイクル
. PSLは1mg/kgを30日間使用し, その後24日で減量・終了
・MTXへの反応が乏しい場合はCYC 100mg/d + 上記PSLレジメ
治療反応性の定義:
・CR: CBC正常 + LGL数やFCM結果が正常
・ PR: CRを満たさないが, ANC>500(>50%の上昇), Hb>1g/dLの上昇・輸血量の低下
アウトカム
・MTXで反応したのは CR+PRで38%[26-53]
・CYCで反応したのは CR+PRで64%[35-87]