これはかなり以前に診療した症例:
20台の女性. 3年前にSLEを診断され, PSL, CyAにて治療されていた.
PSL減量とともに再燃し, その際汎血球減少が認められた.
炎症反応増加, 亜急性経過の血球減少, 皮疹の増悪, 軽度の脾腫などがあり, Macrophage activation syndrome, 血球貪食症候群の可能性も考慮し, 骨髄穿刺を行うとDry tap.
そのまま骨髄生検を行ったところ, Reticulin線維の増生が高度に認められ, ”骨髄線維症”という診断であった.
自己免疫性骨髄線症と判断し, ステロイドの増量, 再度寛解導入を試み, その後血球は改善.
数カ月後施行した骨髄穿刺ではDry tapは改善しており, 線維症所見も改善が認められた.
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SLE患者の骨髄所見ってどのような所見が多いのだろうか?
SLEと血球減少
・SLEでは溶血性貧血やITP, 自己免疫性好中球減少, リンパ球減少など血球減少を伴うことは多く経験する.
・SLEと白血球減少では, 未治療のSLEではリンパ球減少が主体. 好中球減少では自己免疫性好中球減少症の関連が知られている
治療中のSLEのWBC減少では薬剤性, SLE再燃, Viral infection, 敗血症, 血球貪食症候群, MAS, Evans syndromeを考慮する.
SLE + 血球減少(+)患者115名の解析では,
Leukopenia(<4000/µL) 57.4%
Neutropenia(<1800/µL) 20.0%
Lymphopenia(<1500/µL) 81.7% (Hematology 2007;12:257-61) との報告もある
・SLEに伴う貧血はACDが最多で約40%
溶血性貧血はSLE患者の5-10%で合併する
他には出血, 鉄欠乏性貧血, TTP, 赤芽球癆など様々な原因がある
SLE+Anemia患者の 原因頻度
Group | SLE+anemia *1 | SLE + Anemia + α *2 |
Design | Prospective cohort | |
N | 132(38.3%) | 115 |
母集団 | 345 | |
貧血は89.6% | ||
ACD | 49(37.1%) | 46.1% |
鉄欠乏性 | 47(35.6%) | 16.5% |
AHA | 19(14.4%) | 27.8% |
その他 | 17(12.9%) | |
βサラセミア | 3 | |
Cyclophosphamide | 2 | |
慢性腎不全 | 8 | |
TTP | 1 | |
PRCA(赤芽球癆) | 1 | |
悪性貧血 | 1 | 3.48% |
*1 Ann Rheum Dis 2000;59:217-22
*2 Hematology 2007;12:257-61
・SLEと血小板減少症
自己免疫性血小板減少性紫斑病, 抗リン脂質抗体症候群, TTP, 再生不良性貧血, 血球貪食症候群, DIC, 出血, 薬剤性と様々ある
自己免疫性血小板減少はSLEの20-40%で合併するが, 重度の血小板減少は<5% (Rheumatology 2003;42:230-4)
SLE + 血球減少(+)患者115名の解析では,
PLT<150k/µL 40.0%
PLT<100k/µL 26.1%
PLT<50k/µL 8.0% (Hematology 2007;12:257-61)
・SLEと汎血球減少症
SLE+ (Evans syndrome, DIC, 出血+血小板消費)
Vit B12欠乏, 悪性貧血
血球貪食症候群, MAS, 骨髄線維症 で汎血球減少を生じる.
SLE患者の骨髄所見はどのような所見があるのだろうか?
SLE患者で血球減少(+)があるCaseの骨髄所見
(Clin Rheumatol 1998;17:219-22)
・Hb<10g/dL and/or WBC<4000/mcL and/or PLT<150kのSLE患者21名で骨髄生検
骨髄生検前2mo間の間はどの症例も免疫抑制療法は行っていない. また, 11名(52.4%)は今まで一度も免疫抑制療法を行っていない患者.
・骨髄所見
・Reticulinの増加は16/21(76.2%)で認められた
Mildが12例, Moderateが3例, Severeが1例.
・Dry tapは4例で認められ, その全例がreticulin増生が認められた.
後に骨髄線維症と診断されたのは1例のみであり, その症例では軽度の脾腫とPancytopeniaを認めた.
・Teardrop cell, Leukoerythroid reactionは認めず, 骨髄所見ではAtypical megakaryocyteの集積が認められた.
・Necrosisは4例(19%) その全例でReticulin増生を認める.
原因が明らかではない血球減少を伴うSLE症例 40例の骨髄所見を評価. Controlとして不応性貧血を認めるMDS患者10例の骨髄所見と比較した.
(Am. J. Hematol. 81:590–597, 2006.)
・血球減少の定義はHb≤12g/dL, Neu ≤1500/µL, PLT ≤10マン/µL.
・原因が明らかではない: 鉄欠乏, 葉酸, Vit B12欠乏, 薬剤正, 自己免疫性, 微小血管内溶血が否定的と判断された症例を対象.
・骨髄所見: 正形成〜過形成骨髄が42.5%, 低形成が半数以上.
ALIP(abnormal localization of immature precursors)は67.5%
骨髄壊死が90%(軽度57.5%, 中等度22.5%, 高度10%)
赤芽球や巨核球の異形性も多い
・Retibulinは全体的に増加し,
軽度増加が47.5%(Bauermeister 2+)
著明に増加が30%(3+)
微妙に増加が20%(1+)
フランスのCohort “lupus marrows”の解析
(QJM. 2017 Nov 1;110(11):701-711. doi: 10.1093/qjmed/hcx102.)
・SLEを診断され(SLICC基準), さらに骨髄の異常が認められた患者群で, 且つ他の原因による骨髄異常が否定された患者群を評価
・30例が登録された. 年齢中央値は36歳[範囲18-71歳]
SLEと同時に診断された例が12例. SLE診断後に診断された例が18例
・骨髄所見は,
骨髄線維症が57%(17), 赤芽球癆が27%(8), MDSが10%(3),
再生不良性貧血が1例, 無顆粒球症が1例ずつ.
・脾腫は6例で認められ, 骨髄線維症症例では5/17で脾腫(+)であった
タイのSrinagarind Univ. Hosp.における前向きCohort
(Clinical and Experimental Rheumatology 2012; 30: 825-829.)
・2009-2011年に診療した16-60歳のSLE患者で, 以下の2つ以上を満たす血球減少を認めた患者を対象. (a)Hb<10g/dL, (b)WBC<4000/µL, (c)PLT<10マン/µL
・除外項目: 妊婦, ウイルス性肝炎, HIV感染, 肝硬変, 脾腫, 血液疾患の既往がある患者.
・上記を満たす患者で骨髄穿刺, 生検を施行
・41例で骨髄検査を施行. このうち20例で異常所見を認めた
10例が低形成骨髄, 7例が形質細胞浸潤 , 6例が血球貪食, 2例が赤芽球異形成 , 2例が再生不良性貧血, 1例が骨髄繊維症
Reticulin線維の増加は5例で認められた.
・血球減少の程度と骨髄異常所見の頻度:
血球減少が高度なほど骨髄に異常所見を認める例が多い
血球減少を伴うSLEでは,
骨髄異形性や骨髄線維症に類似した所見,
低形成骨髄, 再生不良性貧血といった骨髄不全を呈する所見
形質細胞浸潤を伴う所見
赤芽球癆
骨髄壊死所見が認められることが多い.
SLE患者における骨髄線維症が認められる例があり, AIMFと呼ばれる.
・AIMF: Autoimmune Myelofibrosis. 主にSLEやpSS, まれに強皮症で合併することがある.
特発性のPrimary AIMFもある. (SpringerPlus 2014, 3:349)
骨髄異形性は免疫抑制療法により改善する例も多い(Inter Med 47: 737-742, 2008 )
AIMF: Autoimmune Myelofibrosisとは
(Am J Clin Pathol 2001;116:211-6)
・SLE, SLE-like disease, 稀にSjogren, Progressive SScに 合併する2次性のMyelofibrosis
・Primary Myelofibrosisでは治療は骨髄移植やJAK阻害薬であるが, AIMFではステロイド治療, 免疫抑制療法が治療となり得る.
・女性に多く, 報告されたCaseの大半が<40歳で発症している.
・自己免疫性疾患を示唆する自己抗体, 低補体を認め, 直接Coomgs testが陽性となることが多い.
1966-2000年に報告された25例のLiterature review (Am J Clin Pathol 2001;116:211-6)
骨髄所見 | 頻度 | ステロイド投与前後の骨髄所見 | 頻度 |
Hypocellularity | 10/21 | 骨髄線維所見は不変 | 7/15 |
Hypercellularity | 8/21 | 上記のうち5/7は血球数は改善を認めた | |
Normocellularity | 3/21 | 骨髄線維所見は改善 | 8/15 |
Megakaryocytic hyperplasia | 13/18 | 線維組織量減少 | 4例 |
Megakaryocyte cluster | 4/4 | 完全寛解 | 2例 |
Fibrosis | 全例 | 完全寛解+血球数も改善 | 2例 |
AIMFとCIMFの違い:
(Am J Hematol 2003;72:8-12)
・CIMF: Chronic Idiopathic Myelofibrosis. 一般的な骨髄線維症
・CIMFではMassive splenomegalyを認める場合が多く, しばしば診断根拠ともなるが, AIMFでは触知できるほどの脾腫は少ない.
CIMFの62.5%で, 肋骨弓下6cmに達する脾腫を認める.
・AIMFでは, 脾臓での造血が行われていないことが多いため, 脾腫が軽度であり, 末梢血所見も目立たないと説明されている.
・AIMFでは骨髄内に浸潤したリンパ球によるCytokinesが骨髄の線維化に関与していると考えられており, AIMF, CIMF双方とも, リンパ球の骨髄内浸潤は認め得る.
・AIMFではT cell, B cell双方の浸潤が認められるが, B cellはpolyclonalであるため, その点でLymphomaとの鑑別が可能.
特徴 | CIMF | AIMF |
脾腫 | 中等度〜著明 | 触知できる脾腫は稀 |
末梢血所見 | ||
Teardrop poikilocytosis | 特徴的な所見 | 認めるが少数のみ |
Leukoerythroblastosis | 特徴的な所見 | 少ない |
骨髄所見 | ||
集合した異型Megakaryocyte | 90%で増加 | Rare |
Eosinophilia | Common | Rare |
Basophilia | Common | Rare |
Osteosclerosis | 54%で認める | Rare |
Lymphocyte集合 | Common | Common |
SLEとAIMF
(Leukemia and Lymphoma 2000;39:661-5, Clinical rheumatology 1989;8:402-7, Medicine 1994;73:145-52)
・SLEに合併するAIMFが最も報告例が多い.
SLEの診断を満たさないまでも, SLEに類似した疾患に合併することもある.
・SLEと同時に診断される例もあれば, SLE診断後1-9yrでAIMFを発症することもある
・直接Coombs testは40-50%で陽性となる.
・低補体血症は80-90%で認める
・他のAIMF, Primary AIMFと同様, 脾腫は軽度であることがほとんど.
・骨髄所見も他のAIMFと同様の所見. 低形成〜過形成まで様々.
SLEに伴うAIMFでは, Hypercellularであることが多い.
・ステロイドへの反応性が良好であり, 改善速度は緩徐ながら, ほぼ全例が改善を認める.
・血液検査では肝酵素上昇は通常認めない. また, 発熱はあってもMild Fever程度であることが多い.