(Clinical Infectious Diseases® 2015;61(S8):S865–73)(Can Fam Physician. 2016 Jul;62(7):554-8.)
Lymphogranuloma Venereum(LGV)
LGVは侵襲的血清型(L1, L2, L3)のChlamydia trachomatis感染により引き起こされる病態.
・Serovar Lは所属リンパ節へ浸潤しやすいタイプであり, Serovar A~Kとは異なる臨床症状を呈する(後述).
・LGVには3 phaseあり,
先ず無痛性の丘疹や潰瘍が感染部位に生じる(陰茎や直腸)
その後所属リンパ節へ浸潤する: 鼠径LNや直腸周囲・骨盤, 後腹膜LN.
最後に不可逆性の組織障害を生じる : 深部組織の膿瘍形成や絞扼, 裂孔, 慢性疼痛
・古典的なLGVは陰部からの感染, その後鼠径LNへの浸潤となる経過であるが, 近年 先進国で診られるLGVはMSM患者における直腸炎, 直腸結腸炎に合併するLGVのパターンが多い
直腸潰瘍, 出血, テネスムス, 下腹部痛を認め, 長期的には孔門周囲膿瘍, 裂肛, 発熱や倦怠感などの全身症状を認める. HIV感染症との合併例の報告が多い
Chlamydia trachomatisには15種類のSerovarがある
・主に3つに分類される;
トラコーマ(眼球結膜感染): Serovars A, B, Ba, C
陰部, 生殖器感染症: Serovars D~K
LGV: Serovars L(L1-3)
・Serovar A~Kは粘膜表面の感染が主となる.
・Serovar Lは粘膜表面の感染から, 単球やマクロファージに感染し, 粘膜下組織や所属LNへ播種する.
・Serovar D~Kは無症候性が多く, PIDや精巣上体炎は生じることはあるものの, 稀である.
一方でSerovar Lは症候性が多く, 前述の通り3つのPhaseで進行する Primary stage, Secondary stage, tertiary stage
LGVのStage:
Primary stage: 患者が気づかないことも多いが, 感染後3-30日を経て暴露部位(生殖器や直腸, 咽頭)に局所的な炎症を認める.
・一過性の丘疹であることが多い. 潰瘍を生じることもある
・直腸に感染すると直腸炎症状を生じる(肛門痛や出血, 粘血便, テネスムスなど).
ヘルペスや淋菌, 痔核, 細菌性腸炎, ベーチェット病, IBDなどとの鑑別が重要となる.
Secondary stage: primary stageの2-6wk後に生じる. 所属リンパ節や粘膜下組織への侵襲と, 消耗症状を伴う(発熱や悪寒, 筋痛, 関節痛)
・一部では無症候のこともある
・鼠径リンパ節浸潤例では, 片側性, 有痛性の硬いリンパ節腫大となり, 鼠径リンパ節や大腿リンパ節で生じる.
“Buboes"と呼ばれる
化膿したり, 潰瘍化したり, 皮膚に裂孔を生じ, 膿を排泄することもあり
・直腸から浸潤する症例では, 直腸炎や骨盤/後腹膜リンパ節への浸潤により下腹部痛や背部痛を生じる.
体表からリンパ節腫大はわからず, 画像上認められることが多い
・リンパ節の組織所見はリンパ組織球, 形質細胞の高度な浸潤を認め, 肉芽腫形成は稀
Tertiary stage: 無治療で経過すると, 不可逆的な組織障害を生じる.
・慢性的なリンパ管炎によりリンパ流の障害を生じ, リンパ浮腫が生じる
・直腸障害例では, 直腸周囲膿瘍や痔瘻, 腸管狭窄が生じる可能性がある.
LGVの診断
・Chlamydia感染症の診療と同様に, 感染部位から採取した検体のPCRを評価することは重要. (尿道, 膣, 直腸, 咽頭など)
・血清学的検査の位置づけはGuidelineにより意見が分かれており,
カナダのガイドラインでは推奨されない: 低値でも否定できないため. また血清学的検査ではSerovarの判定もできないため.
米国や欧州のガイドラインでは補助診断として推奨されている: LGVでは他のSerovarと異なり深部の感染となるため, その分抗体産生も亢進していることが示唆されている.
Immunofluorescence titer >1:256はLGVを強く示唆する所見とする報告もある.
LGVの治療
・経口ドキシサイクリン100mgを1日2回, 21日間投与を推奨
代替として, エリスロマイシン500mgを1日4回, 21日間
またはアジスロマイシン1gを週1回, 3週間.
・これはLGV以外のクラミジア感染よりも長期間となる (アジスロマイシン1gを1回, または100mgのDOXYを1日2回, 7日間)
・臨床症状や所見が改善するまでしっかりフォローすることが重要
PCR陽性となった症例では, 陰性化を確認することも推奨される.
・パートナーの検査, 治療も重要.
LGV患者とコンタクトがあったパートナーの場合, 無症候でもLGVと同様の治療が推奨される(MSMのLGVの25%は無症候).
・HIVリスクがある場合はHIVの評価も.
(JEADV 2019, 33, 1821–1828)