症例3: 70歳台女性, 倦怠感, 食欲低下, 体重減少
2ヶ月前より倦怠感, 食欲低下を自覚. 体重も2ヶ月間で5kg減少し, 外来を受診した. 精査にてTSH 83µg/mL(正常値0.38-4.30), FT3 2.1pg/mL(2.4-4.0), FT4 0.4ng/dL(0.94-1.60)と甲状腺機能低下症が認められた. 甲状腺に対する自己抗体は陰性であった.
生活習慣を聴取すると, 10年以上イソジンうがい薬を使用していることが判明し, ヨード過剰摂取による甲状腺機能低下症を疑った. うがいを水で行うように指導し, チラーヂン®も開始し, 経過をフォローしたところ, 10ヶ月後には投薬なしで甲状腺機能は正常化を認めた.
イソジンうがいで甲状腺機能低下症
イソジンうがいの効果とは?
イソジンうがい薬にはポビドンヨードが含まれ, 口腔内の細菌, ウイルスを減少させることが可能です. 7%イソジンを30倍希釈したもの(0.23%, 製品の推奨使用方法)の抗菌作用を評価した報告では, 15-30秒間の暴露で有意に肺炎球菌, 肺炎桿菌, 黄色ブドウ球菌(MRSA, MSSA), 緑膿菌, SARSウイルス, MERSウイルス, インフルエンザウイルス, ロタウイルスを減少させることが可能でした(8)(9). しかしながら, うがい後30分後には細菌は再度増殖し, 元の量に戻ってしまいます.
イソジンうがいによる上気道炎の予防効果を評価したランダム化比較試験があります(10). 18-65歳の健常人ボランティア387例を対象とし, 水によるうがい群とイソジンによるうがい群, 何もしないコントロール群に割付け, 60日間継続しました. うがいは1日3回, 1回のうがいは15秒間行うように指導しました. 毎日鼻症状, 咽頭症状, 気道症状, 全身症状を評価し, 60日以内の上気道炎(インフルエンザ様症状を除く)のリスクを比較したところ, 最もリスクが低かったのは水によるうがい群でした(水vsコントロール HR 0.60[0.38-0.93]). イソジンによるうがい群とコントロール群は有意差を認めず(HR 0.88[0.58-1.34]), 最も上気道炎を予防するのに有効なのは水によるうがいという結論でした. ちなみにインフルエンザ症状を認めたのは水うがい群で9.8%, イソジンうがい群で8.3%, コントロール群で10.6%とほぼ同等でした.
イソジンうがいは細菌やウイルス量を減らすのには有効ですが, 粘膜障害のリスクもあり, 上気道炎を予防する意義は乏しいと考えられます. 慢性呼吸器疾患があり, 細菌気道感染症を繰り返す患者ではイソジンうがいによる気道感染症リスク軽減効果が見込める報告(11)もありますが, ランダム化比較試験は未だありません(個人的には口腔ケアの方が重要と考えます).
イソジンうがいによるヨード過剰摂取
健常人を対象とし, イソジンうがいと尿中ヨード排泄量の関係を評価した報告(12)では, うがい開始後有意に排泄量は増加しました. うがいとはいえ, ヨードは体内に取り込まれ, ヨード過剰となるリスクは大いにあります.
ヨード過剰摂取では甲状腺機能低下症となります. これは背景に甲状腺疾患がある患者ではさらにリスクが高くなります.
昆布やわかめ, のりなどにもヨードは含まれており, 甲状腺機能低下症や潜在性甲状腺機能低下症の患者では食生活やイソジンうがい習慣の問診を行いましょう.
(8) Eggers M, et al: In Vitro Bactericidal and Virucidal Efficacy of Povidone-Iodine Gargle/Mouthwash Against Respiratory and Oral Tract Pathogens. Infect Dis Ther 7(2):249-259, 2018.
(9) Shiraish T, et al: Evaluation of the bactericidal activity of povidone-iodine and commercially available gargle preparations. Dermatology 204: 37-41, 2002.
(10) Satomura K, et al: Prevention of upper respiratory tract infections by gargling: a randomized trial. Am J Prev Med 29(4):302-307, 2005.
(11) Nagatake T, et al: Prevention of respiratory infections by povidone-iodine gargle. Dermatology 204:32-6, 2002.
(12) Sato K, et al: Povidone iodine-induced overt hypothyroidism in a patient with prolonged habitual gargling: urinary excretion of iodine after gargling in normal subjects. Intern Med 46(7):391-395, 2007.