https://www.yomiuri.co.jp/national/20191221-OYT1T50110/?fbclid=IwAR2td9Vx8dBSzOn9wNZF7F3mIWTc48tu7U3EU7KPWNqn6f8APBbEagz2GGs
4年前に獲って冷凍保存していたヒグマ肉から旋毛虫感染をきたしたニュース.
寄生虫はおおよそ2日間程度冷凍すれば大丈夫! と大した根拠もなく思っていた猟師 兼 医者としてはまあまあなショックだったので, これは調べてみないと, ということで医学的にやってみる(医学ブログなので)
旋毛虫症
旋毛虫症はTrichinella spp.により生じる感染症
・Trichinella app.には9種類あるが, 日本国内にはTrichinella T9とTrichinella nativaの2種類がいる. (Trichinella T9は主に日本, T. nativaは世界の寒冷地域)
・感染獣肉の摂取により感染し, 発熱, 皮疹, 筋肉痛, 眼瞼浮腫, 好酸球増多を呈する. 好酸球性髄膜炎の原因にもなる
・国内では, クマ, アライグマ, タヌキ, キツネから検出されており, シカや猪からは検出されていないが, 世界的にはイノシシが主な感染源であり, 注意が必要
・北海道の2000-2006年の調査では, キツネ(44/319, 13.8%), アライグマ(6/77, 7.8%), ヒグマ(4/126, 3.2%)で繊毛虫の感染が認められた(Jpn. J. Vet. Res. 54(4):175‐182, 2007)
日本国内から, 2016年のTrichinella T9のアウトブレイクの報告
(Emerg Infect Dis. 2018 Aug;24(8):1532-1535.)
・水戸のレストランでクマ肉料理を摂取した32名で発熱や皮疹, 筋肉痛などを認め, 旋毛虫抗体が陽性. クマ肉よりTrichinella T9が検出.
・クマ肉は北海道で捕れたヒグマ. 加熱が不十分であった
症状や検査所見:
・摂取〜発症までは19日(6-34), おおよそ1週間〜1ヶ月程度
・症状は発熱, 皮疹, 筋肉痛, 顔面や末梢の浮腫
・皮疹:
この時のクマ肉は, 2016年11月に北海道で捕られ冷蔵保存
2016年11月下旬に調理された
・店では冷蔵保存され, 2日間提供後は冷凍保存.
・保存時の温度は不明.
旋毛虫は筋肉内でCollagen capsuleに覆われており, 比較的低温に強い
(Veterinary Parasitology 194 (2013) 175–178 )
・長期間感染しているほど, 被膜も厚くなり, 低温にも強くなる
・ヨーロッパで多いT. spiralis, T. britoviは, 冷凍後半日~数日は感染性を持つ
・症例報告では, 12ヶ月感染していたT. spiralisは4週間生き残る報告や, 20週感染していたものが8週間生き残るなどある.
ではこの4年間の冷凍後の感染は一体?
>> おそらくはT. nativaの可能性
T. nativaは特に低温に強く, 冷凍でも数年感染性を保つ報告がある
キツネにT. nativaを20週感染させ, 筋肉内の感染部を冷凍保存し,
-5度で7週間保存したものと, その間21度で7回解凍を繰り返したものの2通りで保存し, 週1回感染性を評価した
(Parasitol Res (2008) 103:1005–1010)
・感染性の評価はマウスに摂取させ, 4wk後の感染の有無, 虫体量で評価
・上記のあとさらに23週間-18度で冷凍保存し, 感染性をフォロー
7週間の感染性の評価
・7週間の冷凍保存もほぼ感染性は保たれている
保存方法による感染性
・持続的な冷凍保存では長期間感染性は維持される
間欠的に解凍すると感染性は弱くなるが, それでも長期間保つ
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ということで, 旋毛虫は冷凍や冷蔵に強い寄生虫.
冷凍保存しても物によっては数ヶ月〜数年感染性をもつため, 要注意.
長く感染している虫体ほど強くなるため, 熊など寿命が長い動物では特に注意が必要と考えられる.
いまのところ日本国内ではイノシシや鹿には少ない〜いないらしいけども, 今後注意.