血尿, 特に顕微鏡的血尿において, 糸球体性の出血と尿路からの出血の鑑別は重要.
その鑑別方法の1つに変形赤血球がある.
変形赤血球の代表例は有棘赤血球であり,
有棘赤血球 >=5%で Sn 52%[44-61], Sp 98%[94-99]
LR(+) 25[9.2-66], LR(-) 0.5[0.4-0.6]で糸球体性を示唆する(Kidney Int 1991;40:115-20)
それ以外にもドーナッツ型の赤血球も判別に有用.
ちなみに, 顕微鏡によるRBC評価は迅速に行う必要があるため注意
・5hrで5-9%, 24hrで11-28%, 72hrで29-35%低下する.
(Clin Chem Lab Med 2008;46:703-13)
どのような形態が糸球体性の出血を示唆するのか?
尿沈渣を位相差顕微鏡で観察し, 以下のようにRBC形態を分類.
糸球体性出血におけるRBC形態の有用性を評価.
(Rinsho Byori 2003;51:740-744)
Type I: 正常RBC, その他
Type II: 溶血, 膜一部欠損
Type III: ドーナッツ型(リング部スムーズ, コブ状)
Type IV: 有棘RBC(コブ, 線状突起)
Type V: ダルマ型, 他
糸球体性, 非糸球体性の血尿におけるRBC形態の出現頻度
・Type III(ドーナッツ型), Type IV(有棘赤血球)は有意に糸球体性出血で多い.
・ドーナッツ型は非糸球体性出血でも認められるが, 双方で形態を比較すると, 糸球体性の方がよりリング部が薄い.
腎疾患による血尿患者118例と, 尿路疾患による血尿患者42例において, 尿中赤血球を位相差顕微鏡と通常の顕微鏡で観察した報告では
(Nihon Jinzo Gakkai Shi. 2006;48(5):401-6.)
・有棘赤血球の存在は感度50.9%, 特異度 94.9%
Target構造は感度 88.4%, 特異度 89.1%
Finger ringは感度 88.4%, 特異度 89.1%で糸球体性出血を示唆.
・位相差顕微鏡を用いた場合は感度 88.1%, 特異度 81.0%
・光学顕微鏡で染色無しでは感度 74.6%, 特異度 90.6%,
・光学顕微鏡で染色ありでは感度 74.6%, 特異度 88.6%で糸球体出血を示唆
赤血球の形態を評価するには位相差顕微鏡を用いるのが最も詳細に評価が可能であるが, 可能な施設が限られるため, 一般的とは言い難い.
位相差顕微鏡による評価と, 光学顕微鏡による評価ではどのようにカットオフ, 感度, 特異度が異なるか?
光学顕微鏡による評価 vs 位相差顕微鏡による評価
糸球体障害患者 66例と尿路結石患者65例の尿検体をBlindで評価.
(Nephron Clin Pract 2014;128:88–94)
・評価は光学顕微鏡と位相差顕微鏡を用いて, 有棘赤血球とドーナッツ赤血球を評価した.
・上記患者群より73例をderivationとして各所見のカットオフを評価し, 58例でvalidationを施行した.
母集団
光学顕微鏡(a,c), 位相差顕微鏡(b,d)による有棘赤血球, ドーナツ赤血球の, 糸球体性出血に対するROC
・光学顕微鏡も位相差顕微鏡も同等のROC曲線を描く. 診断能はそこまで変わらない.
光学顕微鏡も位相差顕微鏡におけるカットオフと感度, 特異度
・位相差顕微鏡の方がより異常RBCを検出しやすいため, カットオフは高め.
・異常RBC(有棘, ドーナッツの合計)のカットオフは光学顕微鏡では20%程度, 位相差顕微鏡では40%程度と考えておく.
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・糸球体性の出血の場合有棘赤血球が有名であるが, ドーナツ型赤血球も同様に鑑別に有用. むしろドーナツ型の方が感度が高い.
・赤血球形態の評価には位相差顕微鏡が良いが, 施設が限られる.
光学顕微鏡による診断能も同等に良好であるが, カットオフに注意する.