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2016年11月8日火曜日

市販薬による中毒症: 咳止めシロップ, 金パブ中毒

過去の市販薬による中毒症シリーズ

ジフェンヒドラミン中毒


咳止めシロップ, パブロンゴールドAによる中毒症
(ブロン中毒, 金パブ)
市販の咳止めシロップにはコデイン, クロルフェニラミン, カフェインなどが含まれている.
・例えば, 新ブロン液エースは1本120mlで, 
 ジヒドロコデインリン酸塩が60mg
 グアイフェネシンが340mg
 クロルフェニラミン24mg
 無水カフェイン124mg 含有.
 成人では1回10ml使用する.
・参考までに処方薬のリン酸コデインの場合は, 1回20mg, 1日60mgまで.

咳止めシロップの例(パブロンゴールドAを含む)と含有成分

新ブロン液エース®
(120ml)
パブロン咳止め液®
(120ml)
アネトン咳止めZ®
(100ml)
パブロンゴールドA
(1
)
コデインリン酸塩
60mg
60mg
83mg
8mg
dl.メチルエフェドリン塩酸塩

100mg
125mg
20mg
クロルフェニラミンマレイン酸
24mg
16mg
20mg
2.5mg
グアイフェネシン
340mg
400mg

60mg
無水カフェイン
124mg

100mg
25mg
リゾチーム


100mg

キキョウ流エキス

1.6g


オウヒ流エキス

2.4g


ゼネガ流エキス


2.5g

アセトアミノフェン



300mg
・基本的にリン酸コデイン, エフェドリン, カフェインが含まれる
 また他に漢方がいくつか

しばしばこのコデイン, メチルエフェドリンを目当てに,これら薬剤を濫用する輩がいる.
・パブロンゴールドAの濫用を「金パブ」と呼ぶ.
 パブロンゴールドAにはアセトアミノフェンも300mg含まれているため, 劇症肝炎のリスクにもなる点に注意.
・SSブロンという錠剤があり, コデイン30mg, メチルエフェドリン50mg, クロルフェニラミン8mgがが含有され, 依存症も多かった. 
 クロルフェニラミンの作用にて痙攣発作も認められることも多い(ジフェンヒドラミン中毒を参照)
(Inter Med 47: 1013-1015, 2008)

各成分の特徴
(Inter Med 47: 1013-1015, 2008)
ジヒドロコデインはオピオイドの1つ.
・鎮痛作用はモルヒネの1/10であるが, 鎮咳作用を有する
・依存も他のオピオイドと比較して少ないが, 長期間の高用量の使用では身体依存をきたす.
オピオイドの中毒症状:

Vital sign
意識
呼吸
皮膚, 粘膜
腸管
尿
Narcotic
BP, HR, BT
意識障害
呼吸抑制
縮瞳

蠕動低下

メチルエフェドリンはβ2受容体刺激作用を有する
・中枢にも作用し, 精神的依存をきたす
 症状は頻脈, 振戦など.

カフェインは中枢刺激作用を有する

ジヒドロコデイン, メチルエフェドリン, カフェイン3種類の混合作用によりさらに依存性をもつと考えられる
・ジヒドロコデイン, メチルエフェドリン, カフェインの合剤による依存, 中毒症状を, 元々ブロンにより流行した経緯からブロン中毒, ブロン依存と呼ぶ.

ブロン液の依存により生じる症状
(IRYO 2000;54:201-205)
症状のタイプにより, 3つに分類
・分裂病型(幻覚妄想): 幻聴, 被害・注察妄想があり,  離脱期に自律神経症状を呈することが少ない
 症状出現までの期間が比較的短期(数カ月〜1年)
 断薬症状が比較的早期に消失する
・感情障害型: 不安, 焦燥感, 抑うつ感, 感情鈍麻が主症状.
 離脱期に発汗, 振戦, 頭痛, 口渇, 下痢, 嘔吐などの自律神経症状や不安, 不眠, 落ち着きのなさなどの精神症状を呈する.
 症状発現までの期間も2-3年と長期.
・移行型

ブロン, シンナー, メタンフェタミン中毒患者の症状タイプ
(北里医学 1988;18:677-689)
左から
 幻覚妄想状態
 感情障害
 その双方
・ブロンでは感情障害タイプが他よりも多い

またブロン中毒では離脱症状も他のシンナーやアンフェタミン中毒より多い.

ブロン中毒における症状タイプと, 離脱症状のリスク
・感情障害型では離脱症状も多い.


咳止めシロップによる中毒症
(デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物中毒)
同じ咳止めシロップでも, エスエスブロン液Lはコデインやメチルエフェドリンは含まれておらず, デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物が含まれている.
・エスエスブロン液Lの成分
 デキストロメトルファン臭化水素酸塩水和物 240mg
 グアイフェネシン 680mg
 クロルフェニラミンマレイン酸塩 48mg
 無水カフェイン 248mg
・デキストロメトルファンは処方薬で言えばメジコン®

デキストロメトルファン(DM)はケタミンやphencyclidineと同じ, 幻覚作用がある薬剤の1つ.

・経口摂取により速やかに吸収され, 2.5時間後に血中濃度はピーク
・体内でCYP2D6により代謝され, デキストルファンとなり作用する.
・Vdは5.0-6.7L/kg
 代謝経路は腎臓. 糞便へは0.1%程度しか排泄されない
(Pediatric Emergency Care Volume 2004;20:858-63)




・治療用量では, DXはσ受容体に結合し, 鎮咳作用を呈し, 古典的なオピオイド作用(μ, δ受容体)はきたさない.
・高用量ではNMDAアンタゴニスト作用, PCP様精神症状を呈する
 >> 興奮症状となる
(J Pharmacol Sci 106, 22 – 27 (2008))(Pediatric Emergency Care Volume 2004;20:858-63)

DMは通常の投与量ならば鎮咳作用を示し, オピオイドと異なり消化管症状を来しにくい薬剤であるが,
・高用量(120mg以上, もしくは2mg/kg以上)使用するとPhencyclidine(PCP)様の作用を呈する
 >> 体外離脱感, 見当識障害, 離人症, 混迷, 傾眠, 嗜眠, 協調性の低下, 焦燥感, 行動や会話のいびつさ, 解離麻酔, 幻視など.
・特に幻視は>2.5mg/kgの高用量で生じる

急性中毒の報告: 上 6歳未満, 下 6歳以上
(Clinical Toxicology (2007) 45, 662–677)
・小児や若年での報告例が多い.
 6歳以上では体重あたり2mg/kg以上の摂取でリスクとなる. 大半は5mg/kg以上の摂取

慢性中毒
・健常人ボランティアによる調査では, 60mg/dを7日間使用すると74%で軽度の副作用を認める(悪心嘔吐, 腹痛, 頭痛, 下痢, めまい)