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2020年12月9日水曜日

うっ血性肝障害, 肝硬変の腹水の特徴は?

 以前肝臓と心臓についてまとめた記載はコチラを参照

症例は高齢男性. 原因不明の腹水貯留, 下腿浮腫でコンサルト.

・背景にはHFrEF(EFの低下した心不全), 著明な心拡大, TRがあるが, 肝疾患の既往はない.

・HBV, HCVも陰性. 薬剤や自己免疫性肝炎も否定的であった.

・腹水は血性だが, 細胞診は陰性,

 SAAGは1.4g/dLと門脈圧亢進パターン(腹水Alb 1.7g/dL, 血清 3.1g/dL). LDHは120 U/L(血清 240 U/L), TP 3.2g/dL(血清 6.8g/dL)

・肝硬変とした場合, 矛盾点としては脾腫や食道静脈瘤がない点, AST, ALTといった肝酵素の上昇が認められない点. T-bilは1.8g/dL程度と軽度上昇のみ. 血小板減少もない(15万/µL程度). 


著明な右心不全からの鬱血性肝障害. Congestive hepatopathy, Cardiac cirrhosisを考慮したが, これらの臨床的特徴, 腹水の特徴はどのようなものなのだろうか?


Congestive hepatopathy(CH)

・右室不全等でCVP圧が上昇することで生じる肝障害

右室梗塞, 両心室不全, 肺高血圧, 収縮性心膜炎, 弁膜症などが多い原因

・重度の心不全患者で肝生検を行うとほぼ100%でうっ血性の肝障害を認める.

 稀だが, 肝硬変を併発する例も報告あり(Cardiac cirrhosis)

 通常無症候が多く, 知らない間に肝障害が進行する.

(Clin Liver Dis 2011;15:1-20)(Abdom Radiol (NY). 2018 Aug;43(8):2037-2051.)

(RadioGraphics 2016; 36:1024–1037)

・診断は右心不全の存在と, 他の肝疾患の否定が重要. 病理像も特徴的.

病理所見は, Zone 3の出血, 壊死 + Zone 1-2の軽度脂肪肝(黄色)を呈する.

・組織では肝静脈周囲の壊死Zone 1-2の肝細胞残存.

 肝静脈周囲の障害が大きく,線維化も同部位より生じる

 >> 他の肝硬変疾患では門脈域の線維化が主であり, うっ血肝に特徴的な所見の1.

・うっ血している部位への肝生検は危険との意見もあるがTransjugular liver biopsyならば21/23で成功したとの報告もあり.

・病理所見による線維化のスコア

(Am J Surg Pathol 2019;43:766–772)


CHの臨床症状は?(Abdom Radiol (NY). 2018 Aug;43(8):2037-2051.)(World J Hepatol 2014 January 27; 6(1): 41-54)

・CHでは無症候性に肝障害が進行することが多い.

・所見では, 固い, 圧痛を認める肝辺縁と浮腫を認める事がある.TRが強い場合は肝臓の拍動を触知できることがある.

・腹水は<25%で認めるが, 脾腫は通常認められない門脈-静脈シャントも稀

 これは, 肝静脈圧は高くとも, 門脈圧亢進となることは少ないため.

・黄疸も少ない. Bil<3mg/dL程度の軽度上昇にとどまるが, Bil値はうっ血の程度に相関.

 重度のうっ血例では黄疸を来す.

肝臓の合成機能はCHでは保たれることが多いAlb低下は軽度(~2.5g/dL), 栄養障害や浮腫, 蛋白漏出性胃腸症による.

・ALT, ASTは軽度上昇〜正常範囲.


CH症例のLab: 線維化スコア別の評価

(Human Pathology (2016) 57, 106–115)

・肝臓の線維化の程度とASTやALT, PLTなどのマーカーに相関性はなく, 他の報告を踏まえると, RA圧, RA拡張, RV拡張の程度と線維化スコアに相関性が認められる(Am J Surg Pathol 2019;43:766–772)(Modern Pathology (2014) 27, 1552–1558)

このCHによる腹水貯留はどのような腹水貯留となるのか?

心不全に伴う腹水 20例と, 肝硬変に伴う腹水 20例を比較(J Clin Gastroenterol 1988;10(4):410-412)


CH

肝硬変

P値

腹水TP(g/dL)

3.9±1.1

1.0±0.72

<0.01

腹水LDH(U/L)

110±44

54±95

<0.02

腹水WBC(/µL)

481±492

299±312

NS

腹水好中球(/µL)

42±57

29±43

NS

腹水RBC(/µL)

2066±1653

498±832

<0.01

血清TP

7.2±1.3

6.3±0.34

<0.05

SAAG

1.41±0.28

1.65±0.34

<0.02

SAAGは双方とも>1.1となる.

 CHでは腹水TPが高値(>2.5g/dL)となり, これは肝臓のリンパ管損傷が考えられる

 また, 腹水RBCも高値となる.

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いわゆる肝硬変, ウイルス性の慢性肝炎とは結構異なる臨床像を呈する慢性肝疾患と言える.

本症例のように, 肝硬変の可能性を一切考慮せずに末期まで進行してしまうこともあるかもしれない.

本症例における腹水所見や血清マーカーは, 肝硬変ぽくないなぁ、と思いつつ, 実はCHに典型的であったとも取れる