高齢女性. 3-4年前より徐々に進行する左下腿の色素沈着があり.
1年前より右下腿にも同様の病変が出現したために来院.
左下腿には5cm程度の褐色の色素沈着, またその部位周囲の皮下組織は硬く, 結節のような病変が認められる. 硬化部は10cm程度に及ぶ.
右にも同様の病変が2か所. それぞれ2-3cm程度あり.
病変部位はごく軽度熱感があり. 圧痛はないが掻痒感はあるとのこと.
他症状, 所見に有意なものはなし
病変の深さや性状を評価するためにMRIを評価したところ,
皮下軟部組織の脂肪組織の萎縮, 同部位の中隔の肥厚,
その部位に隣接した筋膜・筋組織のSTIR高信号が認められた.
血液検査では炎症反応や白血球数・分画, CPKを含めて特に異常は認めない.
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緩徐進行性の皮下組織の硬化, 色素沈着, 周囲の筋膜・筋の炎症所見から, 限局性強皮症(Morphea: モルフィア)を考えた.
どのような病気なのだろうか?
Morphea
(Clinics in Dermatology (2018) 36, 475–486 )
限局的な皮膚, 皮下軟部組織の自己免疫性の炎症や硬化を伴う病態.
・有病率は0.4-2.7/10万人.
・病因は未だ解明されておらず, 遺伝的因子, 免疫, 外傷, 医原性などが関連
・Morpheaのタイプには, Linear, Generalized, Circumscribed, Panscleroticなどがあり,
小児で最も多いタイプがLinear.
成人ではGeneralized, Circumscribedタイプが主となる.
臨床症状は活動性や病変の部位, 深さで異なる.
・活動性が高い病変では疼痛や掻痒感を伴う発赤や硬結
・低活動性の病変では皮膚, 皮下組織の硬化, 萎縮が認められる
・頭頸部の病変では眼や口腔, 神経障害が問題となる
・また全身症状を伴うこともあり: 筋骨格系の障害(筋炎・筋膜炎・骨炎)や神経障害, 関節炎を伴うことも
Morpheaでは全身性強皮症で認められる指炎, Raynaud現象, Nail-fold capillaryの変化, Calcinosis cutis, salt and pepper pigmentary alterationは認められない
・抗核抗体は18-68%で陽性となり, Speckledパターンが多い
特異抗体は陽性にはなりにくい
・RNA polymerase, topoisomerase, centromere抗体は通常陰性
陽性の場合や上記所見を認める場合はSScを考慮した方が良い
・Morpheaの診断の多くは経験的に行われているが, Morpheaの経験が豊富な臨床医は非常に少ない点が問題. しばしば診断が遅れる
組織生検は他の疾患の除外目的で行われる
・皮膚悪性腫瘍, 他の硬化性疾患: scleromyxedema, nephrogenicd systemic fibrosisなど
深在性Mopheaでは切開し, 深い部位からの組織を採取することが必要
・筋膜に好酸球が含まれる場合, 好酸球性筋膜炎の合併も考慮すべき
Morpheaの組織所見
・活動性病変: しばしば皮下脂肪の隔壁を超える血管周囲や皮膚付属器周囲の炎症細胞浸潤が認められる. 炎症性細胞はリンパ球, 形質細胞, 組織球, 好酸球が多い. 形質細胞は75%で認められる.
・非活動性病変: 活動性が低下すると, 表皮の菲薄化と付属器の消失が進行. 硬化は真皮乳頭層と真皮網状層で生じる.
・晩期では線維性組織が増加し, 炎症所見は消失する
・深在性のMorpheaでは”bottom-heavy” sclerosis patternとなり, 表在性では”top-heavy“ sclerosis patternとなる
MorpheaのMRI所見
・炎症期では, 表皮と皮下脂肪の肥厚所見, STIR, 造影T1WIで高信号, 単純T1WIで低信号が認められる
(AJR 2008; 190:32–39)
・皮膚病変に隣接した筋膜や筋組織に線維組織が浸潤し, 筋・筋膜・骨髄のSTIR高信号, T1WI低信号も伴うことがある
小児, 成人のMorphea 42例のMRI所見
(Radiology. 2011 Sep;260(3):817-24.)
・患者のタイプと年齢, 性別
・MRI所見
・皮下組織中隔の肥厚や筋膜肥厚, 筋炎所見, 滑膜炎, 骨炎など様々な所見が認められる.
Morpheaの鑑別疾患
・病期(早期の炎症が主な時期, 中期の硬化性病変が主な時期, 晩期)と表在・深部優位の病態別に考慮する疾患.
・今症例では深部, 中期あたりであると考えられる.
この場合は好酸球性筋膜炎やポルフィリアなどが鑑別となり得る.
好酸球性筋膜炎のReveiwより, 抗酸球増多+皮膚変化を呈する疾患の鑑別表
(Clinics in Dermatology (2018) 36, 487–497)
・Morpheaと好酸球性筋膜炎の病態は類似しており, しばしばオーバーラップもある.
Morpheaの治療
・治療は活動性かどうか, 病変の深さ, 他の合併疾患の有無で検討する
活動性疾患の治療
・中等度~重度のmorphea: 広範囲や深い病変(筋膜炎, 筋炎), 機能障害を伴う症例ではMTXを考慮
小児例のmorpheaを対象としたRCTでは, MTX 15-20mg/wk 12ヶ月間の投与にて有意な臨床的改善が認められた.
MTXは1-2年間継続, または寛解後6-12ヶ月継続し, 減量する
MTXを増量する期間や効果が認められるまではステロイドの併用を考慮
PSL 0.5-1.0mg/kg/dを3ヶ月間, その後3-4ヶ月で減量する
(Clinics in Dermatology (2018) 36, 475–486)
・深部のMorphea 3例においてAbatacept 10mg/kgを使用した報告では, 全例で所見の改善が得られた報告もある(Semin Arthritis Rheum. 2017 Jun;46(6):775-781.)
非活動性morpheaの治療は機能障害や美容的な問題を考慮して治療を決める
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・皮膚メインなため, おそらくは皮膚科を受診することが多いのではないか, と思われる病態. 今回内科外来を受診し診療する機会があったため, まとめました.