・潜在性結核のうち生涯に結核を発症するのは5−15%程度.
・問題は免疫不全の患者や, 免疫抑制剤を使用する患者群, 透析患者であり, これら患者では結核の発症/重症化リスクが高い.
(N Engl J Med 2015;372:2127-35.)
従って, 結核発症リスクが高い患者では潜在性結核のスクリーニングを行い, 治療を行うことが推奨される.
潜在性結核のスクリーニングと治療の適応
(Lancet Respir Med 2015; 3: 220–34)
・これからは, HIV患者やTBとの接触歴がある人, 抗TNF-α阻害薬などbDMARDを使用する患者, 透析患者, 臓器移植患者ではスクリーニングと治療を推奨
・また, 医療従事者や囚人, 移民, ホームレスでも考慮する.
国内の指針では, 相対危険度が4を超える病態での潜在性結核スクリーニングと治療が推奨される.
・HIV患者, 臓器移植患者, 珪肺, 慢性腎不全/透析, 最近の結核感染(2年以内), 胸部XPでの肺線維結節影, 生物学的製剤の使用, 多量の副腎ステロイドの使用など.
・修飾因子としてDM, 低体重, 喫煙, 胃切除なども挙げられる
・ステロイドの場合, PSL 15mg以上ではOR 7.7,
15mg未満ならば2.8となるため, 15mg以上を1ヶ月以上継続する場合スクリーニングと治療が推奨される.
・15mg未満でも修飾因子があれば考慮すべき
(Kekkaku Vol. 88, No. 5 : 497_512, 2013)
潜在性結核の診断
・ツベルクリン試験(TST)は安価で行いやすいが, BCG施行地域では低感度.
また, ステロイドや免疫抑制剤使用中の患者では, ツベルクリン試験の感度は低下.
・IGRAはツベルクリン試験よりも感度は高く, 免疫抑制状態でも感度の低下はTSTよりも少ない(完全に影響がないわけではなく, 偽陰性は増加する可能性がある点に注意)
・さらに双方とも顕性化予測能も不十分.
(N Engl J Med 2015;372:2127-35.)(Enferm Infecc Microbiol Clin. 2010;28(4):245–252)
IGRA(interferon gamma release assay)
・結核に存在する抗原に対する, INF-γの産生を評価することで, 結核感染を評価する方法
・評価方法にはELISAとELISpotの2つがある.
(Enferm Infecc Microbiol Clin. 2010;28(4):245–252)
ELISA: QuantiFERON-TB
・全血を用いて, その血液に抗原であるESAT-6, CFP-10, TB7.7を反応させる.
・抗原に反応し分泌されたINF-γの濃度を測定する.
・全血を用いるため, リンパ球数が少ない場合は偽陰性や判定保留が増加する.
また免疫抑制状態では陽性コントロールにおけるINF-γ産生能も低下しているため, 判定保留が増加するリスクがある.
・ELISpotよりも判定保留/不可能が多い(5-40% vs 0.5-4%)
ただし新しい世代のELISA(QFT- in tube: 別名QFT-3G)では判定保留は少ない.
・感度は96%, 特異度 70%
ELISpot: T-SPOT
・末梢血のT細胞を抽出し, それにESAT-6, CFP-10を反応させる.
・抗原に反応したT細胞の数をスポット数として評価する.
・T細胞を抽出して評価するため, 末梢血リンパ球数に影響されない.
・感度 93%, 特異度 90%
末梢血リンパ球数とIGRAの感度
230例の活動性結核患者での評価 (Inter Med 49: 1849-1855, 2010)
・ELISpotではリンパ球が低くても感度は高い状態が保たれる(それでも低下傾向はある)
・ELISAではリンパ球が低いと感度も低下する. また<500では判定保留/不可能も増加する.
IGRAは他の非結核性抗酸菌感染症で陽性となるか?
非結核性抗酸菌感染患者214名にQFT-2Gを施行
・全体で52%でQFT-2Gが陽性.
・各細菌毎の陽性率
NTM
|
N
|
陽性率
|
M avium
|
83
|
2%
|
M intracellulare
|
80
|
|
M kansassi
|
33
|
52%
|
M marium
|
12
|
58%
|
M szulgai
|
3
|
33%
|
M abscessus
|
2
|
0%
|
M chelonei
|
1
|
0%
|
(Intern J Tuber Lung Dis 2009;13:1422-6)
100例のNTMにおいてQFT-2Gを施行した結果
・M. aviumでは8%が陽性, 8%が判定保留/不可能
・M. intracellulareでは7%が陽性, 7%が判定保留/不可能
・M. kansasiiとM. marinumでは100%が陽性となる
(Clinical Infectious Diseases 2006;43:1540–6)
判定保留の場合はどうするか?
ELISA(QFT)における判定保留/判定不可能
・陽性コントロール(M) ≥ 0.5IU/mLで測定値(A)が0.1-0.35IU/mLの場合は判定保留
・陽性コントロール(M) <0.5IU/mLで測定値(A)が<0.35IU/mLの場合は判定不可能
ELISpot(T-SPOT)における判定保留/判定不可能
・パネル抗原のスポット数が5-7の場合に判定保留
・陽性コントロール<20スポットの場合は判定不可能
基本的に判定保留/不可能な場合は再検査を行う.
再度判定保留/不可能な場合は臨床判断で治療するかどうかを考慮する.
T-SPOTとQFT-3Gにおける判定保留/不可能の頻度
・大体T-SPOTでは~5.8%程度, QFT-3Gでは~10.3%が判定保留/不可能となる.
判定保留/不可能の主な原因は陽性コントロールの陰性化
・これは患者本人の細胞性免疫の低下が関連している.
・判定保留/不可能のリスク因子は
若年 <5歳, 高齢者 >80歳, 免疫抑制状態.
(Enferm Infecc Microbiol Clin. 2010;28(4):245–252)
ステロイド使用中の患者ではQFT-3Gの判定保留/不可能の頻度が上昇する
IBD患者における解析 (Inflamm Bowel Dis 2011;17:2340–2349)
・PSL投与量が多いほどINF-γ値は低下し, 判定保留/不可能の割合が上昇する.
・MTXやAZAや5-ASAでは影響はPSLほど多くはない.
判定保留/不可能な場合のTB活性化リスクは?
HIV患者, 慢性腎不全, RA, 臓器移植, 幹細胞移植, 健常人を対象にELISA(QFT-3G), ELISpot, TSTを施行し, 陽性率とその後のTB発症リスクを評価.
(Am J Respir Crit Care Med. 2014 Nov 15;190(10):1168-76.)
・ELISpotでは判定保留/不可能が125例. そのうちTB発症は1例(0.9%)と少ない.
ELISpot陰性では0.6%, 陽性例では1.6%
・ELISA(QFT-3G)では判定保留/不可能は109例. そのうちTB発症は3例(3.0%)と多い
ELISA陰性では0.4%, 陽性例では1.4%
(平均1.8年[0.2-3]フォロー)
TB発症リスクはELISpotでは陽性 > 判定保留/不可能 > 陰性となる傾向.
ELISAでは判定保留/不可能 ≥ 陽性 > 陰性 というなんともな結果.
免疫不全状態の患者でのQFTの判定保留/不可能はリスクありと考えるべきなのだろうか
ELISpot(T-SPOT)での判定保留/不可能はちょうど中間リスクという感じ. この場合はやはり臨床判断ということになるか