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2022年4月4日月曜日

抗リン脂質抗体症候群によるびまん性肺胞出血

高齢男性, 以前より抗リン脂質抗体症候群(APS)[β2GPI, aCL陽性]を指摘されていたが, 特に血栓症の既往もなく経過していた.

2週間前からの呼吸症状の増悪, 発熱を認め来院. 

両側のGGO, Consolidationを認め, BALにて肺胞出血と判断された.


APSにおけるDAHはどの程度あるのか?


自己免疫疾患に伴うDAHの背景疾患としては,

・104例の解析では,

 膠原病が25例(24%): SLEが12例, primary APSが9例, 他のCTDが4例,

 血管炎が79例(76%)
: ANCA関連血管炎が57例, 抗GBM疾患が12例,
 Cryoglobulin関連血管炎が4例, IgA血管炎が6例

 と, 全身性血管炎で多いが, CTDではSLEとAPSが主な原因となる.

(Critical Care (2020) 24:231)


APSと肺胞出血

(Current Rheumatology Reports (2019) 21: 56)

APSでは稀ながらDAHを合併する報告がある.

・1991年〜2019年までに100例程度の報告があるのみ

・1000例のAPS(うち36%がSLE合併)の解析では,
 ARDSやDAH, 肺動脈血栓症の頻度は0.7%のみ

・また, 483例のPrimary APSの解析では, 16年間のフォローにおいて,
 DAHは2%で認められた.

・特にCAPSにおけるDAH報告が多く, 12%で認められる


1991-2018年に報告されたAPS-DAH 91例をReview

・12例がCAPS症例であった.

・CAPSを除く79例は男性例が多く(62%),

 
年齢は40-50歳台(48±14歳)であった.
 

 11例(14%)でSLEを合併

・DAH合併例では, 僧帽弁疾患や肺高血圧症, 皮膚病変,
 産科異常, 中枢神経疾患を伴う傾向が強かった.

・発症の誘因: 上気道炎や肺炎は誘因となり得る.
 

 またINRが過度に亢進している場合もリスク因子となりえる
(ただしINR正常でも生じえる)


APSにおけるDAHの機序はまだ明確とは言い難い

・機序はPulmonary CapillalitisやBland alveolar hemorrhage, diffuse alveolar damageが関連しているが, APSに特異的な所見ではない.

・APS-DAHの可能性として考えられている機序としては,
 

 aPLにより誘発された血管内皮細胞の活性化, 免疫介在性の肺毛細血管炎. これはaPL関連腎症でも認められる機序である.
 

 または微小血管血栓症による血管障害が考えられている.


APSに伴うDAHでは

・急性の喀血や低酸素, ARDSなど急性経過を呈する症例や
(特にCAPSで多い)


 繰り返すDAHにより肺線維化を呈する症例まで様々.

・血液検査では貧血やWBC上昇, 炎症反応上昇を伴うが,
 それらが認められないからといって否定はできないため注意

・鑑別疾患としては, ILDやDAHと同様,


 感染症や全身性血管炎, 心不全, 尿毒症, 凝固障害, 薬剤性など,


APS-DAHの治療

・全身管理に加えて, 高用量GCによる寛解導入が行われる.


 IVCYやRTX, MMF, AZAの併用が必要となる症例も多い.


 また一部ではIVIGや血漿交換も試される.

・抗凝固療法はDAHの治療や予防に有用とは示されていない


 DAH発症時には中止され, 病状安定後に慎重に再開を検討する


症例報告の治療内容

・GC単独やCYC, RTXなど試される.

 
CAPSを除く症例の予後は, 寛解が65%, 死亡が21%


Expert opinionによるAPS-DAHの診療

・APSが背景にある患者のILD, 血痰では,

 
PEの評価として造影CTを考慮.


 また気管支鏡によるDAHの評価も重要. 可能ならば肺生検を考慮.


治療としては


・重症の急性DAHではmPSLパルス治療, その後PSL 1mg/kg/dで継続

 
ICU管理, 呼吸器管理となっている致命的な患者やCAPSでは, 
IVIGや血漿交換も考慮する.

・外来で管理可能なDAHではPSL 1mg/kgで開始

・入院,  外来双方ともMMFやRTXなどのSparing agentの併用を考慮
PSLは1ヶ月あたり10-15mg程度減量を行う.

・反応が悪い症例ではIVIG 2g/kgを4-5日で投与

・HCQやスタチンの併用はデータがないが推奨される.
 HCQはAPSにおける血栓症リスクを低下させる.

・抗凝固療法はDAH急性期では一時的に中止.


 しかしながら血栓症の既往の有無に関わらず, aPL陽性患者では中止による血栓症リスクも考慮し, 再開のタイミングは常に検討する.


 肺血栓塞栓症合併例では抗凝固の継続も検討すべき


 入院患者の予防的抗凝固は行うことを推奨(UFHなど)