高齢男性, 以前より抗リン脂質抗体症候群(APS)[β2GPI, aCL陽性]を指摘されていたが, 特に血栓症の既往もなく経過していた.
2週間前からの呼吸症状の増悪, 発熱を認め来院.
両側のGGO, Consolidationを認め, BALにて肺胞出血と判断された.
APSにおけるDAHはどの程度あるのか?
自己免疫疾患に伴うDAHの背景疾患としては,
・104例の解析では,
膠原病が25例(24%): SLEが12例, primary APSが9例, 他のCTDが4例,
血管炎が79例(76%) : ANCA関連血管炎が57例, 抗GBM疾患が12例, Cryoglobulin関連血管炎が4例, IgA血管炎が6例
と, 全身性血管炎で多いが, CTDではSLEとAPSが主な原因となる.
(Critical Care (2020) 24:231)
APSと肺胞出血
(Current Rheumatology Reports (2019) 21: 56)
APSでは稀ながらDAHを合併する報告がある.
・1991年〜2019年までに100例程度の報告があるのみ
・1000例のAPS(うち36%がSLE合併)の解析では, ARDSやDAH, 肺動脈血栓症の頻度は0.7%のみ
・また, 483例のPrimary APSの解析では, 16年間のフォローにおいて, DAHは2%で認められた.
・特にCAPSにおけるDAH報告が多く, 12%で認められる
1991-2018年に報告されたAPS-DAH 91例をReview
・12例がCAPS症例であった.
・CAPSを除く79例は男性例が多く(62%),
年齢は40-50歳台(48±14歳)であった.
11例(14%)でSLEを合併
・DAH合併例では, 僧帽弁疾患や肺高血圧症, 皮膚病変, 産科異常, 中枢神経疾患を伴う傾向が強かった.
・発症の誘因: 上気道炎や肺炎は誘因となり得る.
またINRが過度に亢進している場合もリスク因子となりえる (ただしINR正常でも生じえる)
APSにおけるDAHの機序はまだ明確とは言い難い
・機序はPulmonary CapillalitisやBland alveolar hemorrhage, diffuse alveolar damageが関連しているが, APSに特異的な所見ではない.
・APS-DAHの可能性として考えられている機序としては,
aPLにより誘発された血管内皮細胞の活性化, 免疫介在性の肺毛細血管炎. これはaPL関連腎症でも認められる機序である.
または微小血管血栓症による血管障害が考えられている.
APSに伴うDAHでは
・急性の喀血や低酸素, ARDSなど急性経過を呈する症例や (特にCAPSで多い)
繰り返すDAHにより肺線維化を呈する症例まで様々.
・血液検査では貧血やWBC上昇, 炎症反応上昇を伴うが, それらが認められないからといって否定はできないため注意
・鑑別疾患としては, ILDやDAHと同様,
感染症や全身性血管炎, 心不全, 尿毒症, 凝固障害, 薬剤性など,
APS-DAHの治療
・全身管理に加えて, 高用量GCによる寛解導入が行われる.
IVCYやRTX, MMF, AZAの併用が必要となる症例も多い.
また一部ではIVIGや血漿交換も試される.
・抗凝固療法はDAHの治療や予防に有用とは示されていない
DAH発症時には中止され, 病状安定後に慎重に再開を検討する
症例報告の治療内容
・GC単独やCYC, RTXなど試される.
CAPSを除く症例の予後は, 寛解が65%, 死亡が21%
Expert opinionによるAPS-DAHの診療
・APSが背景にある患者のILD, 血痰では,
PEの評価として造影CTを考慮.
また気管支鏡によるDAHの評価も重要. 可能ならば肺生検を考慮.
治療としては
・重症の急性DAHではmPSLパルス治療, その後PSL 1mg/kg/dで継続
ICU管理, 呼吸器管理となっている致命的な患者やCAPSでは, IVIGや血漿交換も考慮する.
・外来で管理可能なDAHではPSL 1mg/kgで開始
・入院, 外来双方ともMMFやRTXなどのSparing agentの併用を考慮 PSLは1ヶ月あたり10-15mg程度減量を行う.
・反応が悪い症例ではIVIG 2g/kgを4-5日で投与
・HCQやスタチンの併用はデータがないが推奨される. HCQはAPSにおける血栓症リスクを低下させる.
・抗凝固療法はDAH急性期では一時的に中止.
しかしながら血栓症の既往の有無に関わらず, aPL陽性患者では中止による血栓症リスクも考慮し, 再開のタイミングは常に検討する.
肺血栓塞栓症合併例では抗凝固の継続も検討すべき
入院患者の予防的抗凝固は行うことを推奨(UFHなど)