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2021年9月26日日曜日

塩分代替食品と心血管アウトカム

塩分代替食品とは, NaClにKClを一部置き換えて, Na摂取量を減らすために使用する塩.

国内では味の素の やさしお®がある. やさしお®は50%がKClに置き換えられている.


塩分代替食品が, 心血管アウトカムにどうつながるかを評価したCluster-RCT.

(N Engl J Med 2021;385:1067-77.)


中国におけるCluster RCT.
地方の600箇所の村を対象.

・対象患者は60歳以上またはStrokeの既往がある高血圧患者


 (降圧薬使用中の患者ではsBP≥140, 未治療では ≥160mmHg)

・K負荷を制限する必要がある病態やK保持性利尿薬使用, K製剤使用, 重大な腎疾患がある患者は除外


食塩代替食品(NaCl 75%, KCl 25%含有)を使用する村と
 

 通常の食塩を使用する村に割り付け, 5年間のStrokeリスクを比較


 (参考: やさしお®は50%がKCl)

・フォロー中のルーチンの腎機能評価は行っていない


両群における血圧とNa排泄量の比較

・sBPやNa排泄は低下し, K排泄は増加

臨床アウトカム

・脳出血リスクは有意に低下. それによる死亡リスクも低下


・非致死的ACSリスクも低下する

・重大な高K血症リスクは両者有意差認めず: OR 1.04[0.80-1.37]

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高K血症のリスクがなければ, 塩分制限の方法として塩分代替食品の使用は有用といえる


2021年9月23日木曜日

降圧薬の低用量多剤併用療法

高血圧の初期治療は, 単剤から開始してその後増量する方法が基本ではあるが,

初期から多剤を, 少量ずつ併用する方法の方がより目標血圧達成が早いとの報告が増えてきている

QUARTET: オーストラリアにおけるDB-RCT.
 未治療 or 1剤のみで治療されている高血圧症を対象とし,
 降圧薬4剤少量で治療する群 vs 単剤治療群に割り付け

(Lancet 2021; 398: 1043–52)

・4剤はIrbesartan 37.5mg, Amlodipine 1.25mg, Indapamide 0.625mg, Bisoprolol 2.5mg

  (ARB, CCB, サイアザイド類似, β阻害を通常使用量の1/4量ずつ持ちいる)

・単剤治療はIrbesartan 150mgを使用

・目標血圧に到達しない場合は追加治療可能.
まずはAmlodipine 5mgから併用する.

・対象は

 (1)外来血圧140-179/90-109mmHgを満たす群, または日中の平均血圧が≥135/85mmHgを満たす群


 (2)単剤治療されている患者で, 外来血圧135-179/85-105mmHg または日中の平均血圧が≥125/80を満たす群

・アウトカムは12wkにおける降圧効果, <140/90達成率

母集団


アウトカム

12wk, 52wkにおける
両群の治療内容

・4剤併用群では8割近くは
そのままの投与量で継続.

・Irbesartan単独群では,
6割弱がそのまま. 4割が追加治療.

血圧の変動


・血圧は有意に4剤併用群で低下

・副作用は一部K値やBUNに差はあるものの, ほぼ同等


同様に, 初期から多剤を使用する報告にTRIUMPHがある

TRIUMPH: 成人例の高血圧(sBP>140, dBP>90, またはCKDやDMがある患者ではsBP/dBP >130/80)で, 新規に降圧薬を開始する/単剤治療から増量する必要がある群を対象.

(JAMA. 2018;320(6):566-579. doi:10.1001/jama.2018.10359)

・固定量の3剤療法(telmisartan 20mg, amlodipine 2.5mg, chlorthalidone 12.5mg)使用群 vs 通常の治療群に割り付け, 降圧コントロールを比較した.

アウトカム

・6ヶ月における血圧目標達成は
有意に3剤開始群で良好.


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初期から複数の薬剤を低用量で組み合わせることで, 単剤治療開始よりも迅速な降圧作用が得られる.

これらが心血管イベントリスクにどう関わるかは今後研究が進みそう. 3-4剤の合剤もできてくるかもしれない。

2021年9月21日火曜日

Hypertrophic osteoarthropathy (HOA)

HOAは四肢遠位部の皮膚や骨組織に異常な増殖を生じる病態

・主な臨床的な特徴としては,
指先の特異的な球状の変化: バチ指

 管状骨の骨膜増殖, 滑液の貯留があげられる.

・肺癌やチアノーゼ性心疾患, 肝硬変などの内科疾患に続発して生じることが多い(9割以上)が, 特に原因のない原発性HOA(1割未満)もある

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 34 (2020) 101507)

(RadioGraphics 2017; 37:157–175)

原発性HOA: 遺伝素因によるHOA. 全体の3-5%

・33-73%で家族歴が陽性で, 男女比が7-9:1と男性に多い

・肥大性胃腸症や頭蓋縫合不全, Fe-Metal escutcheonを持つ男性などとの
関連性が報告されている

・原発性では広範囲の皮膚肥厚を伴うことが多く, 
顔の輪郭が不整となったり, 皮膚の隆起を生じることがある

・また, 多汗症や脂漏性皮膚炎, ざ瘡といった腺分泌障害も伴いやすい

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 34 (2020) 101507)(RadioGraphics 2017; 37:157–175)


二次性HOA: 全体の95-97%

・二次性, 続発性HOAはさらに全身型と局所型に分類する

・90%が悪性腫瘍と関係があるとされている

・局所型は一部のみ, または1〜2肢に限定しているもので,
 動脈瘤など局所的な内皮障害に由来する


 また, 動脈管開存症で肺高血圧が合併している場合, HOAはチアノーゼとなった手足に限局する.
 動脈グラフト感染や動静脈瘻の場合も局所的に生じ得る

(RadioGraphics 2017; 37:157–175)

機序と
解剖からの
HOAの原因


HOAの機序

・心不全や肺血管の異常により血小板が凝集し,
 巨核球が末梢で活性化し,
 内皮のVEGFの発現を促す

・VEGFの局所的な発現が増加すると間葉系の増殖が誘導される

(Acta Clin Belg. 2016 Jun;71(3):123-30.)


HOAの症状

・無症候性〜指先の疼痛, 骨痛などある


 疼痛は下肢の方が多い.

身体所見ではバチ指が最も多い.


・四肢の筋組織が薄い部位では肥厚した骨組織を触れることもある

・骨膜の増殖は圧痛を伴うこともある

・関節腫大は大関節で多く, 膝や手関節でよく認められる

・関節液は炎症性ではなく, 細胞数は<500/mm3程度.


 骨膜病変に対する交感神経の反応である可能性が高い

・HOAでは左右, 全身性に認められることが多い.


 局所の血流障害ではその部位のみ認められることはある

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 34 (2020) 101507)


(Acta Clin Belg. 2016 Jun;71(3):123-30.)

HOAの診断

・臨床所見と画像所見の組み合わせが重要.


 バチ指の存在と管状骨の骨膜症の画像所見.

・悪性腫瘍患者では, 有痛性関節症がバチ指に先行して生じることがあり,


 その場合反応性関節炎と判断されていることがあり, 注意が必要

HOA診断に重要なポイントは,


 痛みが関節だけではなく, 隣接する骨も疼痛がある


 リウマトイド因子が通常陰性


 滑液が非炎症性である点

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 34 (2020) 101507)


HOAの画像所見

骨膜症: 

・管状骨の軸に沿って出現し, 初期では骨端部は保たれる
 

 原発性HOAでは骨端部も含む骨端症(骨端線を超える)が多く認められる

骨膜症で意識すべきポイントは3つ


 罹患骨の数


 骨の中の罹患部位


 骨膜周囲の房(毛羽立ち)

・軽症では罹患部位は少なく, 通常 脛骨と腓骨が多い. 

 骨膜は骨幹部に限定され, 線状の単層構造を示す.

・中等症では骨膜症は骨端に及び, 層状や多層状に見える

・進行するとさらに範囲は拡大し, 骨膜症は不整に毛羽立つように見える.

・重症度は原発性, 続発性に関わらず, 罹患期間に応じて決まるとされる

(RadioGraphics 2017; 37:157–175)


関節病変

・関節腔の狭小化, びらん, 関節周囲の骨量減少を伴わない滑液包を認める

・HOAの多くが初期では関節炎を主訴とするため, 
関節のみではなく, 周囲の骨膜症を見落とさないことが重要

画像の例 (RadioGraphics 2017; 37:157–175)

・原発性HOAの症例. 両側性の骨膜症

・25歳の肺膿瘍による続発性HOA
両側性の脛骨, 腓骨の骨膜症を認める

・気管支源性癌の58歳男性
. 手足の腫脹を主訴に受診
基節骨, 中節骨に骨膜症を認める

 足では中足骨の骨膜症が認められる

MRIでは, T1強調画像で低〜当信号, T2強調画像で低信号を示す
・骨膜反応は単純な骨膜の隆起や, 未熟な骨膜と成熟した骨膜のオニオンスキン状に描出されることもある(T1WIで低, 中信号が交互に出現)
・STIRやT2強調画像など流体に敏感なシークエンスでは, 高信号強度に囲まれた, 骨膜の隆起を示す微細な低信号線が認められる.

 肥厚した骨膜の造影も認められる
・後期では, 靭帯や腱, 骨間膜に骨膜が増殖する所見もある


HOAの鑑別で重要な疾患

・甲状腺尖端症: バセドウ病の一部で手足の小節骨で骨膜増殖を呈する.
 

 外眼筋や前頭葉粘液水腫との併発が多い

・POEMS症候群: 皮膚の肥厚, バチ指などHOAに類似する所見を認めうる

・ボリコナゾール骨膜炎: 非対称性で鎖骨, 肋骨, 肩甲骨, 寛骨臼, 手などに骨膜炎を生じることがある.

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 34 (2020) 101507)(RadioGraphics 2017; 37:157–175 )


HOAの診療フロー

(Acta Clin Belg. 2016 Jun;71(3):123-30.)


HOAの治療

・無症候性ならば治療は不要. 背景疾患の検索と対応が基本

・疼痛を伴う場合はNSAIDを使用する.

・骨折性骨痛を伴うHOA患者において, ビスホスフォネートの静脈注射が有効とする報告が増えている


 破骨細胞による骨吸収を抑制するだけではなく, VEGF阻害作用が関係している可能性がある.

・背景疾患が明らかな場合, 肺腫瘍の切除や心奇形の治療, 感染性心内膜炎の治療により, HOAが劇的に改善することもある

2021年9月20日月曜日

セフォペラゾン(ワイスタール®)の動態, 痙攣作用

高齢入院患者の朝からの意識障害.

閉塞性黄疸があり, 1週間前よりセフォペラゾン/スルバクタムが1g q12hで投与されていた.

また4日前にPTGBDが行われ, 胆道ドレナージが開始されていた. Bil値はピーク値7mg/dL程度.

徐々に低下はしているが, まだBilは高値が持続している.


このような患者が朝からの意識障害を認めた.

痛み刺激に反応せず。

バイタルサイン、神経診察では明らかな麻痺、異常は認めず。

ABG, アンモニアなど明らかな代謝異常も認めず。

頭部CT/MRIでも脳梗塞や脳出血所見は認められなかった.

目撃された痙攣発作もなし。

鎮静系の薬剤もなく、可能性があるとすればワイスタールによる脳症, 非痙攣性てんかんだが...

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セフォペラゾン/スルバクタム: ワイスタール®. 緑膿菌活性を有する第三世代セフェム+βラクタマーゼ阻害薬の合剤.

・胆汁排泄であり, 胆道感染症に好まれる

・体内では90%が蛋白と結合し, Vdは10-13L

・半減期は1.6-2.4h

・15-36%が尿中排泄され, 残りは胆汁内に排泄


 胆汁濃度は血中濃度の600%にも及ぶ.

・重度の肝障害や閉塞性黄疸では, 90%が腎排泄となる


 この場合, 血中半減期は2-4倍に延長する(4-7時間)

(Drvgs 22 (Suppl, 11: 35-45 (1980)



閉塞性黄疸ではセフォペラゾン/スルバクタムの半減期は延長する.
しかしながら, その分尿中から排泄するため, 著明な蓄積は生じにくいとされている.
よってあまり投与量の減量や調節は行われることは少ない.

てんかん誘発作用はどの程度あるのか?
これはあまり症例報告は見つけられず, ラットを用いた研究があった.

(Neuropharmacology 1989;28(4):359-365)
βラクタムのてんかん誘発作用
・ラットにβラクタムの誘導体を脳室内投与し, そのてんかん誘発作用を評価

・最もてんかん誘発作用が強かった薬剤はセファゾリン.

 ベンジルペニシリンや他の類化合物(セフトリアキソン, セフォペラゾン)もてんかん誘発作用があるが, その3倍強い作用を認めた
・セフォタキシム, セフォニシド, セフチゾキシムではてんかん兆候は認めず

Convulsant dose(CD50)

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可能性はあるように思う.
特に高齢者ではCr正常でも腎機能は低下しているため, さらに閉塞性黄疸, 胆汁排泄の薬剤では注意が必要.

過去の抗菌薬による脳症やNCSEのエントリーも参考

2021年9月16日木曜日

急性膵炎後の糖尿病

急性膵炎では, 膵外分泌機能の低下, インスリン抵抗性の上昇, インスリン分泌の低下などが生じ,  糖尿病を発症するリスクが上昇する.

膵炎後に発症する糖尿病を, Post-pancreatitis diabetes mellitus(PPDM)と呼ぶ.

・別名 3c型糖尿病(Type 3c DM). 続発性DMで最も多い.

・急性膵炎後に発症するもの(PPDM-A)が4/5, 
慢性膵炎に続発するもの(PPDM-C)が1/5

・Meta-analysisでは, 急性膵炎の23%, 慢性膵炎の30%でDMを発症


 インスリンが必要なDMは15%と17%

・Nationwide cohortにおける急性膵炎例 vs 対象群を比較した報告では,

 急性膵炎におけるDM発症HRはおよそ2倍程度.

 特に発症3ヶ月未満ではHR 5.90[3.37-10.34]と高く, 3ヶ月以降はHR 2.54[2.13-3.04]

 これらCohortでは, 重症膵炎症例と膵炎全体でDM発症リスクは同等

(Medicine 95(2):e2448)(Am J Gastroenterol. 2015 Dec;110(12):1698-706.)

・急性膵炎発症後〜数ヶ月〜数年の単位でDMは発症するため, フォローにおいてDMの評価は重要.

(European Journal of Endocrinology (2021) 184, R137–R149)


PPDMのEtiologyは急性膵炎と慢性膵炎では異なる.

・急性膵炎ではInsulin resistanceが主,
再発, 慢性化すると
インスリン分泌機能が低下

・AP患者の22%が膵炎を繰り返し, 
再発を繰り返す患者の36%が慢性膵炎となる.

(European Journal of Endocrinology (2021) 184, R137–R149)


PPDM-Aの頻度を評価したMeta-analysis

2004年発表のmeta: 初回の急性膵炎を発症した成人症例で,
 退院後1ヶ月以上フォローした前向きStudyのMeta-analysis

(Gut 2014;63:818–831.)

・AP発症前にDMやPreDMがある症例, 膵切除症例は除外

・高血糖は37%[30-45], (15 studies)

・Prediabetesの頻度は全体で16%[9-24] (11 studies), Heterogeneityが高い


 重症膵炎に限定すると, 20%[13-29] (4 studies)

・DMの頻度は全体で23%[16-31] (20 studies), Heterogeneityが高い


 重症膵炎に限定すると, 30%[20-41] (10 studies).

・インスリンを要するDMは全体で15%[9-21]

 
重症膵炎では14%[9-21]

・膵炎後長期間にわたってDM発症は認められる.


2019年発表のMeta

(Front. Physiol. 10:637. doi: 10.3389/fphys.2019.00637)

・急性膵炎後のDM発症率は23%[16-31], 31 studies.
 

 インスリンを要する膵炎は15%[9-23]

・Etiology別では,


 アルコール性膵炎では28%[15-43]
 

 胆石性膵炎では12%[6-20]
 

 その他では24%[4-49]

・重症度別
 

 重症膵炎 39%[31-47] 壊死性膵炎 37%[24-51]
 

 軽症膵炎 14%[8-21] 非壊死性膵炎 11%[1-28]

・フォロー期間別


PPDMと2型DMとの違い

(European Journal of Endocrinology (2021) 184, R137–R149)

・予後はPPDMの方が悪い


・インスリンが必要となるリスクもPPDMの方が高い
.

 PPDM-Aでは5.2倍のリスク

・同様に, 2型DMと比べて, 血糖コントロールが難しい.

・血糖降下薬のStudyでは,
多くがPPDMが除外されている.


 従って2型DMと同様の
治療薬選択でよいのかどうかも
不明確である

・台湾のNationwide cohortでは, PPDMに対してメトフォルミンの使用は予後改善に関連する結果.

(Diabetes Care 2019;42:1675–1683)


よくわかってない点:

・急性膵炎における一過性の耐糖能障害患者のうち, どの程度の割合がそのまま持続するか?

 (これについてはデータが全然ない)

・急性膵炎後の糖尿病スクリーニング、フォローはどの程度の期間行うべきか?

 (大体1年間くらい行われていることが多いのが現状)

・PPDMではインスリン導入を早めるべきか, 2型DMと治療を変える必要があるか?

2021年9月13日月曜日

ウマをはじめとした家畜から感染する連鎖球菌: Streptococcus equi spp. zooepidemicus.

以前, 養豚場や屠殺場で勤務していた若い男性が心内膜炎になり,

その結果Streptcoccus suis(ブタ担毒)による感染症が判明した症例があった.

参考: http://hospitalist-gim.blogspot.com/2014/07/streptococcus-suis.html


今回, ウマとの接触が多い職業の患者で, Entry不明な敗血症を呈した症例があり,

ウマにもそのような感染症リスクがある細菌がいるのか? と思い調べてみると...

Streptococcus equi spp. zooepidemicusという連鎖球菌の報告が目についた.

S. equi ssp. zooepidemicusはC群溶連菌の1つであり,
 動物, 特に馬の感染症として多く報告されている.

・ウマ以外にも牛, 羊, ヤギ, ブタ, 犬, ネコでも報告あり

・S. pyogenesと80%の配列相同性があり, 多くの病原因子が共通.

・人畜共通感染症として, ヒトに感染する例もあり,


 主にウマと接触が多い職業や,


 非殺菌の動物加工品の摂取が感染リスクとなる. 
(チーズや乳腺炎の牛から搾乳されたミルクを非殺菌で飲むなど)
 

・そのような食事を介したアウトブレイクも報告あり

・ウマにおける感染症は多く, 軽症であるが,
 ヒトに感染した場合はしばしば重篤化する

・感染症の報告例では皮膚軟部組織感染症, 呼吸器感染症, 
髄膜炎やTSS, 心内膜炎, 動脈感染症, 壊死性筋炎, 化膿性関節炎の報告もある

 2018年のLiterature Reviewでは, 心内膜炎17例, 化膿性関節炎16例をReviewしている.(Case Reports in Infectious Diseases Volume 2018, Article ID 3265701,)

・溶連菌感染後糸球体腎炎やリウマチ熱の原因にもなり得る
(A群溶連菌に似ているため)

(Eur J Clin Microbiol Infect Dis (2010) 29:1459–1463)(Emerg Infect Dis. 2013 Jul;19(7):1041-8.)


S. equi spp. zooepidemicusによる敗血症症例のReivew

(Journal of Infection 1990;21:241-250)

・香港における11例と, Letrature reviewによる34例

・心内膜炎や動脈瘤, 髄膜炎, 蜂窩織炎などがあり, 
死亡率は18-24%


S. equi ssp. zooepidemicusによる髄膜炎の報告

(Eur J Clin Microbiol Infect Dis (2010) 29:1459–1463)

・20例の解析では, 年齢中央値は67歳[13-83]

・背景疾患がある患者は38%のみ

・動物との接触歴, 加工品の摂取歴がある患者が19例.


 最も多い動物がウマであった(9/20)

 
他に犬や牛も報告されている.
 

 加工品は非加熱の乳製品が多い.

・死亡率は24%. 後遺症として難聴が多い


アウトブレイクの報告

ブラジルMonte Santoにおいて, 2012年12月〜2013年2月に報告された175例のS. equi ssp zooepidemicusによる溶連菌感染後糸球体腎炎症例を評価した報告.

・このアウトブレイクでは, 一部のミルクと, そのミルクを使用したアイスクリームの摂取がリスク因子となった.


 ミルク: OR 4.16[1.55-11.18]
アイスクリーム: OR 3.09[1.39-6.86]

(Epidemiol Serv Saude. Apr-Jun 2017;26(2):405-412.)

・このアウトブレイクにて検出された菌体では,
SzPタンパク質の可変領域の同じ配列(SzPHV5)が増幅された. (J Clin Microbiol 56:e00845-18.)


2003年にフィンランドにおいて,
ヤギのチーズからアウトブレイクを呈した報告もある

・7例感染し, 6例が敗血症, 1例が化膿性関節炎

(BMC Infectious Diseases2006, 6:36 doi:10.1186/1471-2334-6-36)

2021年9月7日火曜日

高齢者における血圧の目標値は?

 以前, といっても2015年に書いたのはコチラ

高血圧の血圧目標値は?

当時SPRINT trialが発表され, 

それまでは目標血圧は130~140程度でよいのではないか, 

それ以上 下げると腎障害のリスクや, 高齢者では転倒や失神が増えるのでは,

とされていたところ,

このStudyにより, しっかりと下げることが血管アウトカムの改善につながる, というセンセーショナルな話題が広がった記憶がある.

それでも, やはり下げすぎることの不安もあり, 大きくは流れは変わっていないように思える.

可能ならばIntensiveに下げよう, という感じで.

そもそも薬剤が多い, 副作用リスクが高い高齢者では正直血圧をIntensiveに管理するのは難しいことが多い現状もある.

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今回, 高齢者における血圧目標値を比較した中国からの大規模RCTが発表された.

(DOI: 10.1056/NEJMoa2111437)

STEP: 高齢者における血圧の目標値を評価したRCT

中国におけるRCT. 60-80歳の高血圧患者を対象とし,
目標血圧sBP 110-120台mmHg vs 130-140台mmHgに割り付け心血管イベントリスクを比較.

・患者は60-80歳の高血圧患者で, 3回のスクリーニング受診でsBP 140-190mmHgを認めた患者, または降圧薬を開始する予定がある患者群を対象とした.

・脳卒中の既往がある患者は除外


母集団

・年齢は60台が主

・腎障害は2%台

・DM合併が2割弱
HLは1/3程度
心血管疾患は6%強

・FRS≥15%は2/3


両群の血圧の変化



アウトカム

・フォロー中央期間は3.34%

・心血管イベント(脳卒中含む)は3.5% vs 4.6%で, 有意にIntensive treatment群で低い結果.

・アウトカム詳細別でみると, Stroke, ACS, 非代償性心不全のリスク低下が認められる.


合併症, 腎臓アウトカム

・低血圧(sBP<110)リスクはIntensiveで上昇するが, フラつきは差を認めない. 

 骨折や失神の頻度も低く, 有意差なし

・腎障害リスクの上昇も認めない

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・高齢のアジア人を対象としたRCTでも, Intensiveに降圧治療を行うことで血管アウトカムの改善が得られる結果であり, それによる合併症や腎機能障害リスクは認めないという結果.

・ただし高齢といっても, その大半が60歳台であり, 一般内科の立場からはまだまだ若い部類

・元気な人では年齢にかかわらず, やはり一度は120台を目指してしっかり降圧を試す, というのは大事なこと.

 その結果Polypharmacyや合併症があるならば, 再考するのがよいか

2021年9月6日月曜日

ITPに対するMMFの併用

結果が考えさせられるものでした.

ITP: 自己免疫性血小板減少症はしばしば診療する疾患の1つ.

基本的にはステロイドで治療し, 難治性や再燃を繰り返す場合はトロンボポエチンR作動薬や, 免疫抑制療法, 脾摘を考慮します.


今回, 初回治療からMMFを併用する方法を評価したRCTが発表.

(N Engl J Med 2021;385:885-95.)

FLIGHT: ITPに対するGC + MMFの併用療法

ITPと診断され, PLT<3万で治療が必要と判断された成人症例を対象としたopen-label RCT.

・授乳婦, 妊婦, HBV, HCV, HIV, CVID, MMFやGC禁忌症例は除外.

・上記患者群をGC単独群 vs GC+MMF併用群に割り付け比較した.

・GCはPSL 1mg/kgを4日間, その後2wk毎に減量; 
40mg→20mg→10mg→5mg→5mg隔日→中止


 また, DEX 40mgを4日間のPulseも許容

・MMFは500mg bidを開始し, 750mg, 1g bidまで2wk毎に増量

 
6ヶ月後にPLT>10万を達成できた症例では, 毎月250mgずつ減量
PLT>3万を維持できる最小量で継続する.


母集団

・初期のPLTは7000前後


アウトカム

・2年間の治療失敗率(PLT<3万)は,
 MMF群で22% vs GC単独群で44%, HR 0.41[0.21-0.80]

 と有意にMMF併用群で治療成績は良好.


・PLT>10万維持できているのは91.5% vs 63.9%

・開始後2wkにおける
PLT反応率は両者で同等

・出血性合併症は両者で同等


しかしながら, QOLは有意にMMF使用群で低い結果.

・疾患自体の不安は
両群で差はなかった

・薬剤を使用し続ける
ことに対する
QOLの低下があるか

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・MMF併用群のほうが明らかに治療成績は良好であるものの,

 QOLはMMF併用群の方が低い結果.

・副作用頻度は両者ともに変わらない.

・一過性に改善する可能性が一定数期待できる疾患で, 且つ初期にガッツリと免疫抑制を行う必要性が低い疾患に関しては, 

 その後のQOLを考慮すると, 長期間使用する薬剤を併用するよりは, まずは短期的ステロイドで診て, その後の経過でこれら薬剤の併用を決める, というマネージメントはやはり合理的といえるか.

2021年9月4日土曜日

痛風発作中の尿酸降下薬開始は 発作期間に影響するか?

尿酸降下薬の副作用として, 痛風発作を誘発するということが指摘されており

昔から薬剤を開始するときは急性痛風発作が改善した後に行うと言われてきた.

しかしながら, それがホントに有用かどうかは実際わからなかった.

近年評価した報告がいくつか発表されている. 


急性発作時にFebuxostatを開始したSingle-blind RCT 

(Rheumatology 2021;60:4199–4204)

・急性痛風発作 72h以内の患者群を対象とし,


 Placebo vs Febuxostat(40mg/d)に割り付け, 改善までの期間を比較.

・双方ともDiclofenac 150mg/dを7日間使用し,


 その後はOpen labelで寛解を達成した患者全例でFebuxostat 40mg + Diclofenac 75mg/dをDay 8-28に使用. 


 寛解まではDiclofenac 150mgを使用.

・除外項目は, 二次性の痛風(CKD, 血液疾患など), CHF既往, 抗凝固薬使用, 消化管潰瘍がある, eGFR<50mL/min, AST/ALT >1.25ULN, 3ヶ月以内のステロイド, コルヒチン, アロプリノール, 尿酸排泄薬使用, 化学葉療法, 免疫抑制療法の既往がある患者は除外


母集団

アウトカム

・寛解までの期間は双方とも6-7日前後で同等

・1週間以内に改善するのは7-8割.

関節痛, 腫脹, 圧痛, 発赤の経過

・これも双方で特に差はない

・炎症マーカーの変化も有意差なし


痛風発作を来した57名を対象としAllopurinol vs Placeboで比較したDB-RCT.


(The American Journal of Medicine (2012) 125, 1126-1134)

・初診時にallopurinol 300mg/d vs Placeboに割り付け, 10日間継続.


 11日目〜は両群でallopurinolを開始し, 継続.

・両群でNSAID 10日間投与による治療と, 
Colchicine 0.6mg 2T/2 90日間投与による発症予防は行われている.

・痛風発作の疼痛, 頻度, 炎症反応を比較.


アウトカム

・両群ともESR, 疼痛の程度は有意差無し.
 痛風発作再発率も両群で同等.

・Allopurinol使用群の方がよりUAは低下する.

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急性発作時ではないが, Febuxostat開始方法別で発作頻度を比較した報告

FORTUNE-1 trial: 日本国内からのopen-label RCT.
 過去1年以内に痛風発作があり, UA>7.0mg/dL, 1ヶ月以内の尿酸降下薬を使用していない患者群を対象.

(Ann Rheum Dis 2018;77:270–276.)

A: フェブキノスタット 10mgより開始し, 4wk毎に10, 20, 40mgへ増量する群


B: 40mgで開始 +コルヒチン0.5mg併用群


C: 40mgで開始群 に割付け, 痛風発作発症率を比較.


アウトカム

・12ヶ月以内の痛風発作発症リスク(NSAID, ステロイド投与が必要となる発作で定義)は有意にGroup A, Bで低い結果.

発作回数

A) 最初の12wkの発作回数


B) その後12wkでの発作回数

UAの変動

UA≤6.0mg/dL達成は
A群で最も遅い

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・痛風急性発作でNSAID±コルヒチン治療とともに尿酸降下薬を開始しても, その発作の改善遅延に影響することはない.

 適応がある患者では, 早期に導入する方がその後の外来フォロー回数やUA低下速度も早い.

・新規に尿酸降下薬を使用する患者では 

 少量から増量する方法 or 中等量以上をコルヒチンと併用する方法ならば発作リスクを減らせる

 中等量以上単独で開始する方法では, 発作リスクが上昇する.

 UA降下速度を考慮すると, もっともよいのは中等量+コルヒチン併用.

 

2021年9月2日木曜日

GCAでTCZを投与した後のPET所見の経過

GCAではトシリズマブ(TCZ)が効果的であるが,

その後のPET/CTによる血管の取り込み所見は, 臨床所見と乖離することがある.

(臨床的に改善しているが, 取り込みは残存しているなど.)


どのような長期経過となるのか?


TCZ開始後のPET/CTの経過

(Rheumatology 2021;60:4384–4389)

・GCAでTCZを開始した25例を前向きにフォロー.

・開始前後, フォローでPET/CTを評価し, PETVAS*を評価した


*PETVASとは?

・PETVASは動脈の取り込みを評価し, 合計したもの; 


 大動脈4区画: 上行, 弓部, 胸部, 腹部


 分岐動脈5本: 腕頭A, 左右頸A, 左右鎖骨下A の合計9区画で, 


 >肝臓 3pt, =肝臓 2pt, <肝臓 1pt, 取り込みなし0ptで評価. 

 合計 0-27pt

・GCA 30例, TAK 26例, 比較対象群 59例(高脂血症35例, LVV mimic 17例, 健常人7例)における評価では,


 活動性の血管炎では有意にPETVASは高値となり(21.5 vs 12.2)


 さらに長期間(~15M)のフォローにおいて, 
PETVAS ≥20は感度68%[50-83], 特異度71%[58-82]で再燃を示唆する.


 PETVAS ≥20群の臨床的再燃率は45%(vs 11%)

 また, TAKよりもGCAの方が高値となりやすい

(Arthritis Rheumatol. 2018 March ; 70(3): 439–449.)


TCZ開始後のPETVASの経過:

・TCZ開始後, 6ヶ月でPETVAS<20となり, その後2年間は徐々に低下する経過となる

 
TCZ中止した6例中5例でその後PETVASは増悪


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GCAに対するTCZでは, 早期にPETVAS<20にはなりそうなものの,

その後数年かけて徐々にPETVASは低下する経過となる.

その間PETで取り込みがあってもよい ということ

その症状は, 潜在性甲状腺機能低下症なのか?

(The American Journal of Medicine (2021) 134:11151126)

臨床上よく遭遇するSubclinical Hypothyroid.

不定愁訴でも認められることがあるが, その症状は果たしてSubclinical hypoのせいと言っていいのか?

デンマークにおける3つのCohortより, 8903例を評価.

・このうちSubclinical hypothyroidは376例であり,


 Euthyroidの7619例と甲状腺関連症状を比較


 (疲労感や皮膚乾燥, 気分変動, 便秘, 動悸, 呼吸苦, 嚥下困難, 脱毛・・・など)

・Subclinical hypo, Overt Hypoの定義

 顕性甲状腺機能低下症(Overt hypo): TSH>3.6mU/L, fT4<9.8pmol/L

 潜在性甲状腺機能低下症(Subclinical hypo): TSH >3.6で顕性甲状腺機能を満たさない

 甲状腺機能正常(Euthyroid): TSH 0.4-3.6


アウトカム

各種症状はSubclinical hypoとEuthyroidで差は認めず.


年齢別の評価


・若い人ほど倦怠感や
気分変動が多い
(甲状腺に関係なく)

・高齢者では呼吸苦が若干増

TSH別の比較

・Euthyroid, Subclinical hypoの範疇では,
TSHの値別でも症状の頻度は変わらない. 

併存症の有無が
症状に関連する

・Subclinical hypoも
Euthyroidも同じ

各要素と症状への関連

・女性は倦怠感が多く,

 ≤60歳は倦怠感, 気分変動, 落ち着かなさに関連する

 肥満や喫煙は呼吸苦に関連

 併存症(+)は各種症状との関連がある.


症状と背景疾患のリスク


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さまざまな症状をSubclinical hypoが原因としてはいけない, という戒め.