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2021年9月21日火曜日

Hypertrophic osteoarthropathy (HOA)

HOAは四肢遠位部の皮膚や骨組織に異常な増殖を生じる病態

・主な臨床的な特徴としては,
指先の特異的な球状の変化: バチ指

 管状骨の骨膜増殖, 滑液の貯留があげられる.

・肺癌やチアノーゼ性心疾患, 肝硬変などの内科疾患に続発して生じることが多い(9割以上)が, 特に原因のない原発性HOA(1割未満)もある

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 34 (2020) 101507)

(RadioGraphics 2017; 37:157–175)

原発性HOA: 遺伝素因によるHOA. 全体の3-5%

・33-73%で家族歴が陽性で, 男女比が7-9:1と男性に多い

・肥大性胃腸症や頭蓋縫合不全, Fe-Metal escutcheonを持つ男性などとの
関連性が報告されている

・原発性では広範囲の皮膚肥厚を伴うことが多く, 
顔の輪郭が不整となったり, 皮膚の隆起を生じることがある

・また, 多汗症や脂漏性皮膚炎, ざ瘡といった腺分泌障害も伴いやすい

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 34 (2020) 101507)(RadioGraphics 2017; 37:157–175)


二次性HOA: 全体の95-97%

・二次性, 続発性HOAはさらに全身型と局所型に分類する

・90%が悪性腫瘍と関係があるとされている

・局所型は一部のみ, または1〜2肢に限定しているもので,
 動脈瘤など局所的な内皮障害に由来する


 また, 動脈管開存症で肺高血圧が合併している場合, HOAはチアノーゼとなった手足に限局する.
 動脈グラフト感染や動静脈瘻の場合も局所的に生じ得る

(RadioGraphics 2017; 37:157–175)

機序と
解剖からの
HOAの原因


HOAの機序

・心不全や肺血管の異常により血小板が凝集し,
 巨核球が末梢で活性化し,
 内皮のVEGFの発現を促す

・VEGFの局所的な発現が増加すると間葉系の増殖が誘導される

(Acta Clin Belg. 2016 Jun;71(3):123-30.)


HOAの症状

・無症候性〜指先の疼痛, 骨痛などある


 疼痛は下肢の方が多い.

身体所見ではバチ指が最も多い.


・四肢の筋組織が薄い部位では肥厚した骨組織を触れることもある

・骨膜の増殖は圧痛を伴うこともある

・関節腫大は大関節で多く, 膝や手関節でよく認められる

・関節液は炎症性ではなく, 細胞数は<500/mm3程度.


 骨膜病変に対する交感神経の反応である可能性が高い

・HOAでは左右, 全身性に認められることが多い.


 局所の血流障害ではその部位のみ認められることはある

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 34 (2020) 101507)


(Acta Clin Belg. 2016 Jun;71(3):123-30.)

HOAの診断

・臨床所見と画像所見の組み合わせが重要.


 バチ指の存在と管状骨の骨膜症の画像所見.

・悪性腫瘍患者では, 有痛性関節症がバチ指に先行して生じることがあり,


 その場合反応性関節炎と判断されていることがあり, 注意が必要

HOA診断に重要なポイントは,


 痛みが関節だけではなく, 隣接する骨も疼痛がある


 リウマトイド因子が通常陰性


 滑液が非炎症性である点

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 34 (2020) 101507)


HOAの画像所見

骨膜症: 

・管状骨の軸に沿って出現し, 初期では骨端部は保たれる
 

 原発性HOAでは骨端部も含む骨端症(骨端線を超える)が多く認められる

骨膜症で意識すべきポイントは3つ


 罹患骨の数


 骨の中の罹患部位


 骨膜周囲の房(毛羽立ち)

・軽症では罹患部位は少なく, 通常 脛骨と腓骨が多い. 

 骨膜は骨幹部に限定され, 線状の単層構造を示す.

・中等症では骨膜症は骨端に及び, 層状や多層状に見える

・進行するとさらに範囲は拡大し, 骨膜症は不整に毛羽立つように見える.

・重症度は原発性, 続発性に関わらず, 罹患期間に応じて決まるとされる

(RadioGraphics 2017; 37:157–175)


関節病変

・関節腔の狭小化, びらん, 関節周囲の骨量減少を伴わない滑液包を認める

・HOAの多くが初期では関節炎を主訴とするため, 
関節のみではなく, 周囲の骨膜症を見落とさないことが重要

画像の例 (RadioGraphics 2017; 37:157–175)

・原発性HOAの症例. 両側性の骨膜症

・25歳の肺膿瘍による続発性HOA
両側性の脛骨, 腓骨の骨膜症を認める

・気管支源性癌の58歳男性
. 手足の腫脹を主訴に受診
基節骨, 中節骨に骨膜症を認める

 足では中足骨の骨膜症が認められる

MRIでは, T1強調画像で低〜当信号, T2強調画像で低信号を示す
・骨膜反応は単純な骨膜の隆起や, 未熟な骨膜と成熟した骨膜のオニオンスキン状に描出されることもある(T1WIで低, 中信号が交互に出現)
・STIRやT2強調画像など流体に敏感なシークエンスでは, 高信号強度に囲まれた, 骨膜の隆起を示す微細な低信号線が認められる.

 肥厚した骨膜の造影も認められる
・後期では, 靭帯や腱, 骨間膜に骨膜が増殖する所見もある


HOAの鑑別で重要な疾患

・甲状腺尖端症: バセドウ病の一部で手足の小節骨で骨膜増殖を呈する.
 

 外眼筋や前頭葉粘液水腫との併発が多い

・POEMS症候群: 皮膚の肥厚, バチ指などHOAに類似する所見を認めうる

・ボリコナゾール骨膜炎: 非対称性で鎖骨, 肋骨, 肩甲骨, 寛骨臼, 手などに骨膜炎を生じることがある.

(Best Practice & Research Clinical Rheumatology 34 (2020) 101507)(RadioGraphics 2017; 37:157–175 )


HOAの診療フロー

(Acta Clin Belg. 2016 Jun;71(3):123-30.)


HOAの治療

・無症候性ならば治療は不要. 背景疾患の検索と対応が基本

・疼痛を伴う場合はNSAIDを使用する.

・骨折性骨痛を伴うHOA患者において, ビスホスフォネートの静脈注射が有効とする報告が増えている


 破骨細胞による骨吸収を抑制するだけではなく, VEGF阻害作用が関係している可能性がある.

・背景疾患が明らかな場合, 肺腫瘍の切除や心奇形の治療, 感染性心内膜炎の治療により, HOAが劇的に改善することもある