タクロリムスの投与において, 耐糖能障害が認められ
糖尿病を発症する/コントロール不良となることがある.
・元々は臓器移植後の免疫抑制薬としてタクロリムスが使用され,
その結果 移植後糖尿病のリスクが増加したことで判明.
・タクロリムスは血糖上昇に対するインスリンの追加分泌を抑制する作用が指摘されている(Am J Physiol Endocrinol Metab 288: E365–E371, 2005.)
・移植後にタクロリムス, シクロスポリンを使用した患者群における耐糖能を評価した報告では, 双方とも開始後早期からインスリンの分泌能, インスリン感受性の低下が認められている(J Am Soc Nephrol 13: 213–220, 2002)
どの程度のリスクとなるのだろうか?
DM発症のリスク, 頻度
1992-2002年に報告された移植後にCNIを使用し,
新規に糖尿病を発症した症例を評価したMeta-analysis. (American Journal of Transplantation 2004; 4: 583–595)
| CNI全体 | タクロリムス | シクロスポリン | OR |
新規発症DM | 13.4% | 16.6% | 9.8% |
|
IDDM |
| 10.4% | 4.5% | 2.4[1.7-3.4] |
多施設のOpen-label RCT.
腎移植後の患者を以下の3群に割り付け管理.
移植後糖尿病の発症リスクを比較した. (Kidney Int Rep (2018) 3, 1304–1315; https://doi.org/10.1016/j.ekir.2018.07.009)
| Tac/Cys | PSL | 他 |
Tac-SW | Tac 0.15mg/kg, トラフ 8-12ng/mL | 術中mPSL 0.5g iv PSL Day 1. 125mg, Day 2-3. 30mg, Day 4. 20mg, Day 5. 15mg, Day 6. 10mg, Day 7. 5mg で終了 | MMF 2g/d併用 Basiliximab |
Tac-SM | Tac 0.15mg/kg, トラフ 8-12ng/mL | 術中mPSL 0.5g iv PSL Day 1. 125mg, Day 2-7. 0.3mg/kg, Day 8-14. 0.2mg/kg, Day 15-21. 0.15mg/kg, Day 21-28. 0.1mg/kg, 以後5Mまで5mg/d, その後1Mで減量 | MMF 2g/d併用 Basiliximab |
CsA-SM | CsA 5mg/kg, C0 150-200ng/mLを維持 | Tac-SMと同様 | MMF 2g/d併用 Basiliximab |
・1年間の移植後DMの頻度は
Tac-SWで37.8%,
Tac-SMが25.7%,
CsA-SMが9.7%と
有意にTac-SWでDM発症率が高い.
・CsAと比較したRRは
RR 3.9[1.2-12.4](Tac-SW)
RR 2.7[0.8-8.9](Tac-SM)
・インスリンを必要とする症例は少ない
・12ヶ月で耐糖能障害が改善しているのは
免疫抑制の強度を弱めたため.
薬剤の減量により可逆的であること示唆される
移植以外の症例ではどうか?
RA患者におけるTacとDMリスク
896例のTac 3mg/dを使用して治療したRA患者の解析.
(Rheumatology 2004;43:992–999)
・治療期間中央値は359日
・糖尿病は9例で新規に発症し,
Tacに関連すると判断された症例は3例(0.3%)であった.
・糖尿病既往(+)患者群で, さらに血糖増悪を呈した報告は7例.
この内Tacに関連すると判断された症例は1例(0.1%)
日本国内のPost-marketing surveillance
RAに対してTacを使用した症例 3267例を評価
(Mod Rheumatol, 2014; 24(1): 8–16)
・糖尿病は1.5%で報告
・
Glycosylated hemoglobinの上昇が1.2%
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タクロリムスの使用により耐糖能障害が増悪するリスクがある.
移植患者におけるDM発症とタクロリムスの関連は強いが,
非移植患者(RA患者)におけるDM発症率は~1%強程度とそこまで多くはない.
元々血糖コントロールが悪い患者や, 高用量ステロイドを併用する患者では,
タクロリムスによる血糖コントロールの増悪は気にしておいたほうがよさそうではある.