VITT: vaccine-induced immune thrombotic thrombocytopenia
COVID-19のワクチンである, ChAdOx1 nCoV-19(AstraZeneca製, Vaxzveria®)投与後に血栓傾向を伴う血小板減少症を発症する例が報告され, VITTやVIPITと呼ばれている(vaccine-induced prothrombotic immune thrombocytopenia)
・頻度は1/25万程度とされ, 若年(20-29歳)では1.1/10万とやや上昇
・German Society of Thrombosis and Hematostasis(GTH)の知見では, 220万のAstraZenecaワクチンを接種し, 31例で脳静脈洞や脳静脈の血栓症, 四肢動脈血栓症, DVTなどが報告されている
・血栓症はワクチン接種後6-16日で生じ,
同時期に血小板減少を伴う例が19例, 死亡例が9例.
女性が29例, 20-63歳, 男性が2例, 36, 57歳
(Sci Prog. Apr-Jun 2021;104(2):368504211025927. doi: 10.1177/00368504211025927.)
VITT症例報告のReview
(Int J Lab Hematol 2021 Jun 17. doi: 10.1111/ijlh.13629.)
・報告例は主にAZとJJワクチン.
・女性が男性の3倍.
・年齢は18-77歳
・ワクチン接種後〜発症までは3-25日
・死亡率は39.2%
・血小板は5000〜12.7万, D-dimer値は1.1-142mg/L , Fibrinogen 0.3-5.7g/L
・HIT(ヘパリン誘発性血小板減少症)で認められるPF4抗体は高率で陽性となるが,
陽性となるのは ELISAでの検査のみで, LIAやCLIA, STiCでは陰性となる.
HITで産生される抗体と, 異なっている可能性がある
LIA: ラインブロット法, CLIA: 化学発光免疫測定法
・国内で可能なHIT抗体の評価は CLIAとラテックス凝集法であり, ELISAは基本困難 (検査キットの購入が必要)
VITT診断基準 案
(Sci Prog. Apr-Jun 2021;104(2):368504211025927. doi: 10.1177/00368504211025927.)
診療アルゴリズム
(Rev Med Virol. 2021 Jul 1;e2273. doi: 10.1002/rmv.2273.)
注意点
・DVTはSubclinicalに進行している症例がある
>> ワクチン接種後30日を超えて, 発見される症例もあり
・PF4抗体はELISAで評価する
・~5%は初診時PLTが正常範囲で, その後数日で急速に進行する
UKにおけるVITT症例を前向きに評価した報告 Definite 170, Probable 50例を解析
(N Engl J Med. 2021 Aug 11. doi: 10.1056/NEJMoa2109908.)
・診断基準
母集団データ
・頻度は ≥50歳で1/10万 <50歳で1/5万
・年齢は48歳[38-56]
・全患者が初回ワクチン接種後.
・接種〜発症までは14[10-16]日
・血小板は4.7万[2.8-7.6]
・PTやAPTTは正常範囲が多い
・血栓症の部位: 最も多いのは脳静脈 複数箇所あり
・170/220が生存, 49例が死亡, 1例が不明
・IVIGは72%で投与された. 初日に1g/kg.
・死亡リスク因子は,
脳静脈洞血栓症 OR 2.7[1.4-5.2]
基礎値からのPLT減少. 50%毎にOR 1.7[1.3-2.3]
D-dimer 10000FEU上昇毎にOR 1.2[1.0-1.3]
Fibrinogen減少. 50%毎にOR 1.7[1.1-2.5]
VITTの治療
・VITTではHIT同様, 抗凝固療法に加えて, IVIGを使用する.
・症例報告レベルではあるが, IVIGにより速やかなPLTの改善, D-dimerの低下, Fibrinogenの上昇が得られる >> 過凝固状態の改善が推測される
・血小板が速やかに上昇することで, 抗凝固療法も行いやすくなる利点も考えられる.
・IVIG前後にPF4抗体を評価した報告では, 抗体量は前後で変化なく, 中和しているわけではない.
・VITTに対するIVIGの投与量は, 1g/kgを2日間を進めているものが多い.
(10.1056/NEJMoa2107051)
ExpertによるVITTの治療指針では,
・治療の第一選択はIVIG: 1g/kgを2日間(合計2g/kg)
・ステロイドの効果は不明
・抗凝固療法: ヘパリン以外を用いる. DOAC, fondaparinux, danaparoid, アルガトロバン
・血漿交換: 難治性の重症例で考慮してもよい 著明な血栓症, PLT<3万がある場合, PF4抗体価が高いことが予測され, IVIGでは不十分な可能性がある. 血漿交換は毎日, 最大5日間行うことを考慮
・脳静脈洞血栓症を合併した患者は予後不良であり,
IVIGよりも血漿交換を考慮.
High-doseステロイドを考慮
神経ICUがある施設での管理を考慮
より抗凝固療法の強度を高めるために血小板輸血を考慮
外科手術が必要な場合, PLT >10万, Fibrinogen >1.5g/Lを維持
・血小板輸血による不利益については不明.
PLT<5万で処置が不要な二次性脳出血を起こした場合のリスク/ベネフィットは不明.
・ヘパリン投与によりVITTが増悪するかどうかは不明であり, 判明するまでは避けた方が無難
・Fibrinogenは>1.5g/Lを維持するように管理. Cryoprecipitateの投与で調節する
・明らかな血栓症がない血小板減少で, D-dimerが著明に上昇している場合, VITTに応じた血栓予防は考慮すべき
・IVIGでも血漿交換でも難治性の場合はRTXも考慮
(Guidance from the Expert Haematology Panel (EHP) on Covid-19 Vaccine-induced Immune Thrombocytopenia and Thrombosis (VITT) 28, May, 2021 Update)
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VITTは緊急を要する病態であり, 今の時期に血小板減少やDVT, 血栓症を呈した患者では必ずワクチン歴を評価し, VITTを念頭に診療する必要がある.
疑えばIVIGを急ぐ.
HIT自体にもIVIGは即効性が期待できる報告があり, VITTでもIVIGを中心とした治療となる
(CHEST 2017; 152(3):478-485)
問題は, PF4抗体がELISA法でのみ陽性となる点.
国内のコマーシャルベースではCLIAとラテックス凝集法のみであり, ELISAはできない.
臨床的に疑えば動くしかない.
今だけ迅速に結果がえられるELISA、できないだろうか?