長年 下部尿路症状にて治療を受けている中年〜高齢女性.
間質性膀胱炎の診断がされている.
この度, 免疫グロブリンの上昇などを認めて紹介.
Dry eyeやDry mouth症状を認め, 多クローン性IgGの上昇もあり.
ANAは>640倍, Homogeneous.
抗SS-A抗体陽性.
ということで, シェーグレン症候群による間質性膀胱炎なのだろう, という話.
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間質性膀胱炎: Painful Bladder Syndrome/ Interstitial cystitis
慢性の骨盤痛, 頻尿, 尿症状を来す疾患
(BMJ 2009;339:b2707)(Arch Gynecol Obstet (2007) 275:223–229)
・女性に多く, 男女比は1:5
・米国では,
医師の診断したPBS 女性 197/100,000, 男性41/100,000
膀胱鏡を施行して診断したのは 99, 19/100,000,
膀胱鏡, 膀胱拡張させて診断したのは 45, 8/100,000と, その殆どが臨床診断となっている.
・年間発症率は女性で21/100,000, 男性 4/100,000.
・感染や, 他器質的所見を認めない膀胱の疼痛, 頻尿症状を認める.
・大きく2 typeに分類され,
Classic; 炎症性の膀胱壁変化が原因(Hunner-type)
Non-classic; 膀胱鏡所見はNegativeだが, 症状を認める(最多)
・蓄尿されると症状が増悪することが多く, 昼夜頻尿を認める
Hunner lesions/ulcerは膀胱鏡において, 膀胱壁に白色の潰瘍や傷があり, その周囲に赤色の粘膜, 放射状の小血管を認める所見
PBSの原因は未だ不明のまま
・感染症説; PBS/IC患者群ではUTIの既往が有意に多いとされるが, 実際に培養で証明されたUTIでは無い点, PCRや組織的に感染が証明できていない点から関連は低いとされる.
ただし, 抗生剤はPBS/ICの治療薬として効果が期待できるのも確か.
・膀胱上皮の障害説; glycosaminoglycan(GAG)層の障害により, 膀胱壁内へ尿が流入し, 炎症を惹起する説.
・免疫異常説; PBS/IC患者ではSLE, SSc, 線維筋痛症, Sjogren症候群が多い. 膀胱壁や上皮への抗体産生による慢性炎症が原因とする説.
・神経原性の炎症説; 膀胱にある感覚神経末端における, 肥満細胞を介する炎症惹起説. 慢性の内臓痛がPBSの主体と考える.
PBS/ICでは特に特徴的な組織所見は無し.
PBS/ICの診断基準
(Clin J Am Soc Nephrol 4: 1844–1857, 2009.)
通常のPBS/ICの治療
・症状緩和としてアミトリプチリンや, 重度の場合はオピオイドも使用される.
・シクロスポリンは75%で臨床的改善が得られるとの報告もある
・非薬剤治療として認知行動療法や神経根刺激療法など.
(J Urol. 2015 May;193(5):1545-53.)
ここからがメイン
自己免疫疾患と間質性膀胱炎
(Joint Bone Spine. 2015 Jul;82(4):245-50.)(Clin Rheumatol. 2014 Aug;33(8):1189-93.)
自己免疫性疾患にICが合併する報告もある
・SS 46例中14%でICや下部尿路症状を合併する報告(SLEでは9%, 健常Controlでも9%)
・また, SSの5%でICが合併, Controlでは0.3%
pSSに合併するICでは, muscarinic M3受容体抗体の関連が指摘されている.
・M3受容体は膀胱の排尿筋細胞にも存在し, コリン作動性の膀胱収縮に関連する受容体
(Nat Clin Pract Urol. 2007 Sep;4(9):484-91.)
PBS/IC患者における他疾患の合併率
・自己免疫性疾患では, IBD, SLE, RA, pSSは関連性がありそう.
(Nat Clin Pract Urol. 2007 Sep;4(9):484-91.)
台湾におけるNational cohort
(PLoS ONE 14(11): e0225455.)
・2001-2010年に新規に診断されたpSS症例と同時期の年齢, 性別を合わせたControl群を抽出し, 過活動性膀胱, Bladder pain syndrome/ICの頻度を比較.
・pSS cohortはN=11526, Control群は115260例を導入
pSSにおけるOAB, BPS/ICの頻度は其々42, 5/10000pt-y
OAB HR 1.68, BPS/IC HR 2.34と有意に上昇する結果
・また,
pSS罹患期間が長いほど,
<65歳,
女性例,
Dry mouthやDry eyeの治療を行なっている群ほどリスクは上昇する
pSSに合併したPBS/ICの治療
pSSと合併するICの症例報告では, PSL 20mg~0.5mg/kgの投与で症状は軽快~改善
・減量に伴い再燃する経過となる.
・ステロイド以外にはシクロホスファミド, アザチオプリン, タクロリムス, シクロスポリンの併用の報告あり.
(Joint Bone Spine. 2015 Jul;82(4):245-50.)(Mod Rheumatol. 2016;26(3):445-9.)
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患者のQOLを著しく下げるPBS/IC.
その背景にはpSSや自己免疫性疾患があるかもしれない
この場合はステロイドや免疫抑制薬による症状の改善も期待できる可能性がある.