胃を亜全摘した後から, アルコールが滅法弱くなったという患者さんや,
いつもと同じ量を飲んでいたのに, 酩酊が強く救急搬送されるような患者さんもいます.
救急と単純酩酊(酔っ払い)は切っても切れない縁がありますが,
飲酒量だけではなく, 胃の運動が吸収速度に関連するという知識があると, ちょっとアセスメントも変わりますでしょうか?
エタノールは胃から緩徐に吸収され, 小腸から急速に吸収される.
・胃の排出速度が速いほど, アルコール吸収速度は速くなり, 胃の排出速度が遅いほど, 吸収は遅いため, ピーク濃度は低下する.
・したがって, アルコール急性中毒を考える場合, 飲酒量のみではなく, 胃蠕動も考慮した方が良い.
(Can Med Assoc J. 1981 Feb 1;124(3):267-77, 297.)
16例のボランティアに0.225g/kgのEt-OHを経口, 経静脈投与し, 血中Et-OH濃度を評価.
(Gut 1998;43:612-619)
・また, 上記患者群において,
Metoclopramide(MCP) 10mg IVを併用した場合,
N-butylscopolamine(NBS) 20mg IVを併用した場合で, 血中濃度を比較.
・MCPでは胃排出速度が亢進し, NBSでは低下する.
胃蠕動運動, 胃排泄速度はエコーにより評価した.
胃の排出速度
血中濃度の比較
左: 経口投与, 右: 経静脈投与
・Et-OH経口投与において,
MCP併用時(胃排出速度亢進)はEt-OH濃度は高く,
NBS併用時(胃排出速度低下)はEt-OH濃度ピークが低い.
それぞれで比較すると
・MCPを併用すると, 経口と静注で血中濃度, ピークまでの時間は同じとなる.
・胃排出速度が速い場合, 飲酒はEt-OHを静注しているようなもの.
胃排出速度が上昇する胃全摘や亜全摘も同様に血中濃度上昇に関与する.
(Postgraduate Medical Journal 1973;49:27-28)
Control: 11例の健常人
Partial gastrectomy(Billroth II): 8例
Truncal vagotomy + pyloroplasty: 6例
Coeliac syndrome: 7例 での評価
Partial gastrectomy(Billroth II): 8例
Truncal vagotomy + pyloroplasty: 6例
Coeliac syndrome: 7例 での評価
喫煙も関連
喫煙は胃排出時間を遅延させ, アルコール血中ピーク濃度を低下させる.
(BMJ 1991;302:20-23)
・20-35本/dの喫煙歴のある8例のボランティアで評価.
・喫煙の有無と胃排出速度(50%減少までの時間)
・喫煙時と非喫煙時のEt-OH血中濃度
胃排出速度と血中濃度は反比例する
-------------------------
お腹の動きが良いほど, アルコールの血中濃度は上昇.
空腹時に飲酒すると酔いが回りやすいというのもそれが原因.
飲む量はいつも通りなのに〜とか言っている患者さんや,
腹部手術歴がある患者さんではこういう要素にも着目を。