ブログ内検索

2014年12月25日木曜日

原発性アルドステロン症

原発性アルドステロン症 Primary aldosteronism
(長いですが重要な点は最後に書いていますのではじめに最後を読んでおくと理解しやすいかもしれません)

Secondary HTでは最も多い原因. HT患者の5-13%を占めると推測されている
 低K血症, 高血圧, 周期性四肢麻痺を呈するとされるが, 血清Kは正常値であることが殆どであり, 難治性の高血圧, 通常の高血圧とは異なる高血圧の家族歴がある場合に疑うことが大事
最初の検査は血清aldosterone/renin比(PAC/RPA)であり,
 高値ならばaldosterone抑制試験でaldosterone分泌亢進を確定する.

 Aldosterone分泌亢進状態ならば, 次は原因病変の特定を行う. (画像検査, 腎静脈採血)
(Nature Clinical Practice Nephrology 2006;2:198-208)

高血圧が重度なほど, Aldsteronismの頻度も高くなる
 Stage 1の高血圧(Joint National Committee 6)では1.99%, Stage 2では8.02%, Stage 3では13.2%, 難治性高血圧ではPrimary aldosteronismは17-20%認める.
Primary aldosteronismのtype
subtype
頻度(%)
Idiopathic hyperaldosteronism(IHA)
65%
Aldosterone-producing adenoma(APA)
30%
Primary unilateral adrenal hyperplasia
3%
Aldosterone-producing adrenocortical carcinoma
1%
Aldosterone-producing ovarian tumor
<1%
Familial hyperaldosteronism type I(glucocorticoid-remediable aldosteronism)
<1%
Familial hyperaldosteronism type II
(familial occurrence of aldosterone-producing adenoma and/or idiopathic hyperaldosteronism)

不明
 IHAはAPAと比較して高齢, 高血圧は軽症, 血清K正常であることが多い
 Familial HA type IはAD遺伝. CYP11B1, CYP11B2の異常が原因.

イタリアで新規に高血圧症と診断された1125例を評価(PAPY) (J Am Coll Cardiol 2006;48:2293–300) 
 新規に高血圧と診断され, 専門医紹介となった患者群を対象
 上記患者群において, 安静後ARRと, Captopril 50mg負荷後ARRを評価
 ARR ≥400 + CCT後ARR ≥300 ± LDFスコア≥50%を満たす
 126例をPrimary Aldosteronismと診断し, CT/MRI, AVSで局在診断を施行.
 PA126例中IHAは72(57.2%), Adenomaは54(42.8%)
本態性高血圧, 副腎腺腫(APA), IHA別の低K血症の頻度
高血圧の程度別のIHA, APAの頻度

原発性アルドステロン症のスクリーニングについて
 Surg Clin N Am 94 (2014) 643–656 
日本国内のガイドラインでは, 高血圧患者全例でスクリーニングを推奨
米国のガイドラインではリスク群でスクリーニング
 低Kを伴う高血圧(利尿薬も含む)
 降圧薬3剤使用してもsBP>140, dBP>90 (HT群の8-23%)
 中等度(160-179/100-109)(8%), 重度(>180/>110)(13%)の高血圧
 副腎のIncidentalomaと認める高血圧患者(1-10%).

スクリーニング方法: Aldsteron Renin Ratio(ARR)
ARR = PAC / PRA
 PAC: plasma aldsterone concentration
 PRA: plasma renin activity (ng/ml/h)
* PRAは単位は同じであるが, PACはng/dL, pg/mL, pmol/Lと様々な記載がある.
 pmol/Lは海外で多く, 国内ではng/dL, pg/mLが主となる.
 ARR: x (ng/dL)/(ng/mL/h) = 10x (pg/mL)/(ng/mL/h)で換算される.
 このブログでは(pg/mL)/(ng/mL/h)で統一する.

ARRは前日夜に絶食とし, 翌朝8-10時に採血を行いチェック.
ARR >200, PAC≥150pg/mLで原発性アルドステロン症を疑う.
ただし, Cutoffについては様々であり, Meta-analysisでは72-1000と差が大きく,
感度64-100%, 特異度87-100%とばらつきも大きい。
ARR >350で感度100%, 特異度92.3%との報告もある (World J Cardiol 2014 May 26; 6(5): 227-233 )

ARRは評価のタイミング, 内服薬剤, 塩分摂取量で異なるため, 注意が必要となる(後述).

Primary aldosteronism 61例(腺腫26例, IHA 35例), 本態性高血圧症96例でARRを評価. (Journal of Hypertension 2006, 24:737–745)
 ARRは原発性アルドステロン症で1154±130, 本態性高血圧で205±21,
 アルドステロン産生腺腫で1420±210, 特発性アルドステロン症で958±153.
 本態性高血圧でもARR 200(pg/mL / ng/dml/h)程度にはなる.
 座位におけるARR >400で, 感度100%, 特異度84.4%でPAを示唆する.

40歳未満の高血圧発症, 低Kを合併する高血圧, 降圧薬3剤使用でもコントロール困難, スピロノラクトンが効果的な高血圧のいずれかを満たす338例 Archives of Cardiovascular Disease (2012) 105, 623—630 
 ARRにて原発性アルドステロン症をスクリーニング.
 画像, 検査にて25例(8.2%)がアルドステロン産生腺腫と診断され13例が組織的に証明.
 IHAは34例で認められた.
アルドステロン産生腺腫(組織的に証明)を示唆するARRは
 臥位時ARR >320で感度/特異度92%で腺腫を示唆する
 臥位時、立位時どちらかでARR>320ならば感度100%, 特異度72%
CTと血液検査で診断されたAPA 25例では,
 ARR>320で感度72%, 特異度92%でAPAを診断.
このStudyではIHAではなく, APAに限定してARRを評価している.

ARR評価時の注意点
ARR評価時は時間と塩分負荷を注意
45例のアルドステロン症と17例の本態性高血圧患者において, 安静後の9時採血, 4時間活動後の13時採血, また, 別の日に生理食塩水負荷前の10時, 4時間で2LのNSを負荷した後の採血で, アルドステロン, レニン活性を評価. (J Clin Endocrinol Metab 90: 72–78, 2005)
 上記条件において, 原発性アルドステロン症に対するCutoff, 感度, 特異度を評価.
原発性アルドステロン症を評価するのに最適なカットオフは,
午後と生理食塩水負荷後には低下する. そして午後の評価では特異度が低下.

降圧薬とARR
降圧薬とNSAID、利尿薬はARR結果に影響する.
抗アルドステロン薬は検査の6週間前に, ベータ阻害薬, ARB, ACE阻害薬は2週間前に中止する.
α阻害薬(ドキサゾシン、テラゾシン)は影響が少ないため, 中止時の降圧薬として適切

(J Clin Endocrinol Metab 93: 3266–3281, 2008) 

原発性アルドステロン症の確定検査について: Confirmatory test
スクリーニングで疑い濃厚となれば確定検査を行うことをガイドラインでは推奨.
日本国内のガイドラインでは, Endocrine Journal 2011, 58 (9), 711-721 
Captopril challenge test, Furosemide uplight test, Saline infusion testの3つから選択.
CCT(captopril challenge test): 
 仰臥位でCaptopril 50mgを内服し, Baseline, 60, 90minでARRを評価. ARR>200で診断.
FUT(Furosemide uplight test): 
 30分安静臥位後に採血しPRAを評価. その後40mgのFurosemideをIVし, 上体挙上. 挙上後2hでPRAを評価し, PRA<2ng/mg hで診断.
SIT(saline infusion test): 
 30分安静臥位後にPACを評価. その後2LのNSを4hでDIV. DIV後再度PACを評価する. 負荷後PAC>60pg/mLで陽性.

様々なConfirmatory testがあるものの, Prospective validationがなく, またAldosteronismのgold standardも不明瞭である点が問題.
 米国や日本のガイドラインではConfirmatory testを推奨はしているが, ARRスクリーニングで高値であれば, Confirmatory testを飛ばして局在診断を行う施設もある.
 またアウトカムを副腎腺腫(副腎静脈採血, シンチ, 手術治療)として, 手術適応を決めるためのConfirmatory testとして感度, 特異度を評価している報告もある.

日本国内におけるConfirmatory testの評価 (J Clin Endocrinol Metab 97: 1688–1694, 2012)
 高血圧でARR(PAC [pg/mL] / PRA [ng/mL]) >200を満たす120例でCCT, FUT, SITを評価したRetrospective study.
 上記のうち57例で3つの試験を施行(Group B)
 また57例で副腎静脈採血, 副腎シンチ, 手術にてPrimary aldsteronismが確定された(Group C).
検査
Group A
Group B
Group C
CCT
86%
88%
96%
FUT
87%
88%
94%
SIT
63%
60%
60%
ARR >200を満たす群では86%で確定検査が陽性となる.
 組織や副腎静脈採血, シンチで確定された例では96%がCCTで陽性.
 SITでの感度は低い.
Group C(PA確定例)において,
 CCT ARR>990は感度55.3%, 特異度94.4%,
 CTT ARR>1720は感度44.7%, 特異度100%で片側性のAdenomaを示唆する.

台湾において, アルドステロン症が疑われた高血圧患者152例を対象としたProspective study. (Clinica Chimica Acta 411 (2010) 657–663 )
 疑い例は 以下のいずれかを満たす高血圧症.
 年齢<35y,
 降圧薬開始後もコントロール不良,
 高血圧緊急症を併発,
 低K, 代謝性アルカローシスもしくはARR>300を満たす
 副腎Incidentaloma + HT + 低K血症
 上記患者群よりCKD, 肝障害, 悪性腫瘍, 心不全, 甲状腺機能亢進症を除外した118例においてCaptopril負荷試験を行った.
 原発性アルドステロン症と診断されたのが51例, 本態性高血圧症と診断されたのが63例であった.
カプトリル負荷試験による
原発性アルドステロン症 vs 本態性高血圧の比較
PA vs EH
Cutoff
感度
特異度
ARR(PRA) (pg/ml) / (ng/ml/h)
305
79.2%
86.4%
ARR(ARC) (pmol/ng)
35.5
75.0%
86.4%
アルドステロン産生腫瘍 vs 本態性高血圧の比較
腺腫 vs EH
Cutoff
感度
特異度
ARR(PRA) (pg/ml) / (ng/ml/h)
669
71.4%
91.0%
ARR(ARC) (pmol/ng)
39.6
77.1%
88.1%
局在の検査 Nature Clinical Practice Nephrology 2006;2:198-208
最初はCTでの画像評価だが, 信頼性は低い.
 とくに副腎周辺は2-3mmスライスで切ってもらうのが良い
 一般的に腹部CTで副腎にMassを認めるのは6%程度だが, その大半が良性, 非機能性.
 また, 37.8%でCT, MRIとAVSの結果が不一致.
腺腫の大多数は若年で生じる
 腺腫は辺縁整でHypodenseに写る.
 高齢者の副腎腫瘍は非機能的腺腫が多い.
 >70yrでは7%で非機能腺腫が認められる.
 >40yrのPrimary aldosteronism患者で, CTにて片側性の副腎腫瘍を認めても, それが原因によるものとは通常考えなくて良い.

CTでは<1cmの腫瘤に対する感度は25%程度
Mass>4cmで, Mixed denseならば悪性腫瘍も考慮に
 Massの大きさとPAC値に関連性は無し.
若年で中枢血管障害がある患者では, 18%にGRAが関与
 GRA; glucocorticoid-remediable aldosteronism, Familial type I
 Primary aldosteronismの家族歴(+)で<40yrでStroke(+)ならば, GRAの精査を行う必要がある.

49例の原発性アルドステロン症患者でシンチグラムを施行 Nuclear Medicine Communications, 2003, 24, 683±688
 Norcholesterol scintigraphy(NCS). 
 75Se-6-β-selenomethyl-norcholesterolを使用したシンチ
 デキサメサゾン 4mg/dを7日前〜6日後まで行い, ACTH分泌を抑制する.
 スピロノラクトンは4-5wk, 他のRAA系に関与する薬剤は5-6d前に中止
CT, MRI, シンチの感度は,
 CTで85%, MRIで74.1%, シンチでは85.4%の感度であった.

CT, MRI, AVS(Adrenal vein sampling)の3つの検査にて部位精査を行った38 Study(n=950)のMetaでは, (Ann Intern Med 2009;151:329-337)
 37.8%の症例でCT/MRIとAVSの結果が不一致
一致とは,
 CT/MRIで片側に腫大(+) ⇒ 同側のAVS陽性
 CT/MRIで両側副腎Size同等 ⇒ 両側AVS陰性
もしもCT/MRIのみで部位診断を行った場合, 
 14.6%で不十分な副腎摘出を施行し(AVSで両側陽性なのに片側のみ)
 19.1%で副腎摘出を中止(AVSでは片側陽性だが, 摘出しない)
 3.9%で健側の副腎を摘出する(AVSは反対側で陽性) ということになり得る.

AVSをReference standardとした場合, CT/MRIの感度は68.8%のみであり, CT/MRIのみで部位診断を行うのはRiskが伴う.
かならず手術治療する際にはAVSが必要となる.

米国, 本邦のガイドラインでは, (J Clin Endocrinol Metab 93: 3266–3281, 2008) 
 Primary aldosteronism診断後は副腎CTにて腫瘍を評価.
 外科手術を希望する場合はAVSを行い, 片側性であれば手術を考慮
 両側性の場合, 手術を希望しない場合は薬剤治療を行う.

原発性アルドステロン症の治療
原因により異なり, 片側性の副腎腺腫ならば手術治療が1st lineとなり,
両側性の副腎過形成ならば薬剤治療となる.

外科切除は腹腔鏡下で行う.
 手術切除にて30-60%で降圧薬無しで血圧が正常化.
 80−95%で血圧コントロールが改善する.
手術治療で血圧改善が見込める因子は,
 ≤2種類の降圧薬使用
 高血圧の期間が≤6y
 女性
 BMI 25以上
 上記4項目を満たせば75%で手術治療で改善が見込め, ≤1項目では27%のみ. (Ann Surg 2008;247: 511–518) 

片側性の腺腫ならば外科治療の方が対費用効果が良い
両側性の過形成の場合は,
 外科治療で改善が見込めるのが<20%のみと低い.
 従って, 両側性の過形成では薬物治療が推奨される

薬物治療 Nature Clinical Practice Nephrology 2006;2:198-208
 IHA, APA, unilateral hyperplasia患者で手術適応が無い場合, Mineralocorticoid-R antagonistを用いる.
 → Spironolactone, Eplerenone.
 Spironolactoneはandrogen, progesterone-Rにも親和性を持つため, 女性化乳房, 性機能不全を来すことがあり, Eplerenoneが推奨される. (女性化乳房は50mg/d内服間じゃの6.9%, 150mg/dでは52%であり)
 Eplerenone(セララ®25-100mg)は上記受容体への親和性が少なく, 50mg bid 8wk投与で有意に血圧低下を達成可能(T1/2はやや短め).
 EplerenoneはSpironolactoneの50-75%の力価を有する.

Amiloride
 Mineralocorticoid-R antagonistに代替する薬剤であり, K保持効果を示す.
 やはりSpironolactoneに併用することが推奨されている, 補佐的な薬剤にすぎない.

GRAはACTH依存性Aldosterone分泌亢進のため,
 GlucocorticoidによるACTH抑制が治療となり得る.
 Cushing症候群予防のため, 必要最低限を用いるべきである.

両側性の副腎過形成に対するスピロノラクトンは, PAを寛解に持ち込める可能性がある.
特発性のアルドステロン症 15例で3-24年スピロノラクトンを投与しその後中断しフォローしたところ, 12例でPRRが正常であった. J Endocrinol Invest 28:236–240 
Munich PA registryよりMineralocorticoid receptor antagonistで治療されているIHA 37例をフォロー. Clinical Endocrinology (2012) 76, 473–477 
 MR antagonist治療期間は5.8±0.7年.
 1/37(2.7%)がPRR正常化, 高血圧改善
 1/37(2.7%)がPRR正常化, 高血圧持続していた.
片側性副腎腺腫でも寛解を認めた症例報告が本邦よりあり (J Clin Endocrinol Metab 97: 1109–1113, 2012) 

原発性アルドステロン症診療のアルゴリズム
World J Cardiol 2014 May 26; 6(5): 227-233 

原発性アルドステロン症の診療で重要な点は,
片側性の副腎腺腫ならば手術適応となるという点である.

アルドステロン症自体の診断ならば早朝ARRのみでも十分可能であり,
早朝ARR 200−400程度の微妙な症例でConfirmatory testを考慮すれば良い.

早朝ARRにおいて>400ならばConfirmatory testの意義は乏しいと言える.

局在診断では手術適応となりえるかどうか、患者の手術希望があるかどうかで検査を決定する。
部位診断にはCTやMRI、シンチがあるが、決定的なものはAVSである。画像検査では<1cmの小さな結節はわからないことが多い。
画像にて明らかな腫瘤がなくても、患者が手術希望があるならばAVSで評価する意義はある。AVSは施設により感度が異なるため、可能な施設への紹介、専門医への紹介が必要。

手術希望がない場合やAVSで両側性の過形成と診断された場合はスピロノラクトンやエプレレノンを試しつつコントロールする.

と私は思います。ガイドラインからはややずれますけども。