脳梗塞急性期でのt−PA以外の抗凝固、血栓療法
脳梗塞タイプ | アテローム性 | 心原性塞栓 | ラクナ梗塞 |
オザグレル |
○
|
×
|
◎
|
アルガトロバン |
◎
|
○
|
×
|
オザグレル(キサンボン®, カタクロット®)
国内製品であり, 当然RCTなどEvidenceに乏しい
トロンボキサンA2の産生阻害 ⇒ 血小板凝集抑制
出血患者には禁忌となる
オザグレル 80mg DIV 2hr, 2回/day. 2wk
特にラクナ梗塞に効果が高いとされているが定かではない
アルガトロバン(スロンノン®, ノバスタン®)
発症48hr以内の脳梗塞急性期に適応(ラクナ除く)
抗トロンビン作用
アテローム血栓性脳梗塞ではなるべく早期に使用する
初期2日間; アルガトロバン 6A(60mg) 24hrでDIV
3日目~7日目; 10mg 3hrでDIV, 2回/day
アテローム性塞栓患者119名に対して, アルガトロバンを使用
(RCT, DB, 28Dフォロー)(Semin Thromb Haemost 1997;23:531-4)
(RCT, DB, 28Dフォロー)(Semin Thromb Haemost 1997;23:531-4)
28日目のADL, 神経機能をScore化し比較
脳出血は1/60 vs 2/59と差は無し
改善度 (人数) | 発症~投与開始までの時間 | |
<48hr | >48hr | |
Argatroban | 66.7%(30) | 41.4%(29) |
Placebo | 22.6%(31) | 25.0%(28) |
Difference P値 | P<0.01 | NS |
ARGIS-1 trial: NIHSS 5-22の発症12時間以内の脳梗塞171例のDB-RCT. Stroke. 2004;35: 1677-1682
Argatroban 100µg/kg bolus後, 3µg/kg/min vs 1µg/kg/min,
vs. Placebo群に割り付け, 5日間継続し, 脳出血リスクを評価.
vs. Placebo群に割り付け, 5日間継続し, 脳出血リスクを評価.
Argatroban群は, 前者ではaPTT 2.25倍, 後者では1.75倍となるように調節
*国内ではアルガトロバン 60mg/24hrを48h, その後 20mg/dを5日間.
(体重50kg換算で, 1µg/kg/min ⇒ 72mg/24hとなり, 明らかに高用量.)
アウトカム;
目標aPTTを達成する為に必要なArgatrobanの量は, 其々 2.7(0.9)µg/kg/h, 1.2(0.5)µg/kg/hであった.
脳出血リスクは3者で有意差無し. ただし, High-doseほど脳出血の頻度は高い傾向にある
90日後の神経所見の改善度は3者で有意差無し.
日本国内よりも遥かに高用量を使用しても神経学的に変わらないアルガトロバン.......
ヘパリン
ヘパリンが脳梗塞治療に有用であるとのエビデンスは無い
ヘパリンはDVT予防目的で使用される(5000IU 2-3回/day SQ)
DVT予防効果もUFHよりLMWHの方が効果が高い
1762名の急性脳梗塞後, 歩行困難の患者
発症48hr以内にEnoxaparin 40mg SC vs UFH 5000IU q12hr 10d (Open-label, RCT) (Stroke 2009;40:3532-40)
Outcome; 14日間のVTE Risk
Outcome | Enoxaparin | UFH | RR |
VTE | 10% | 18% | 0.57[0.44-0.76] |
PE | <1% | 1% | NS |
症候性VTE | <1% | 1% | NS |
症候性DVT | <1% | 1% | NS |
無症候性DVT | 10% | 17% | 0.57[0.43-0.75] |
VTE予防効果はNIHSS >14, =<14群でも同様に効果的.
出血RiskはUFHの方が若干多いか, 有意差無し
(NIHSS>14群で, Extracranial BleedingがUFH群で多い(p=0.04))
(NIHSS>14群で, Extracranial BleedingがUFH群で多い(p=0.04))
90日間のフォローでは, 両群の神経学的予後, 頭蓋内出血Risk, 脳梗塞再発Risk, 脳梗塞進展Riskに有意差無し
心原性梗塞後の抗凝固薬の開始タイミング
Nonvalvular Afによる心原性梗塞では, 急性期の梗塞再発Riskが0.1-1.3%/dと高い.しかしながら, 心原性塞栓後の早期抗凝固療法の開始については, いまだ一定した見解は無し.
7つのRCTsのMeta-analysis(n=4624) (Stroke 2007;38:423-30)
心原性脳梗塞後 <48hr抗凝固(UFH, LMWHなど)開始
vs その他の治療(Aspirin or Placebo)を比較したMeta-analysis
Outcome
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OR
| |
脳出血(7-14d)
|
2.89[1.19-7.01]
|
NNH 55
|
脳梗塞再発(7-14d)
|
0.68[0.44-1.06]
|
NNT 53
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死亡, 神経学的予後(7-14d)
|
1.01[0.82-1.24]
|
脳梗塞再発予防効果は有意差ないものの, 減らす傾向.
予後には関係しない.
Clinical trialのReview; (Cerebrovasc Dis 2008;25:289-96)
心原性塞栓後の早期(<3-30hr)ヘパリン開始では, Stroke再発率は低下する傾向があるものの, 頭蓋内出血Riskは上昇する. また, 14dでのOutcomeに有意差は無し
ただし, 発症後<3-6hrでの超早期でのヘパリンの導入は, 上記と同様, 梗塞再発Riskは低下し, 出血Riskは上昇するが, 長期予後(死亡, 神経所見)も改善するとの結果のため, 発症超早期(<3hr)ならば使用する価値があるかもしれない.
発症早期(<3-30hr)における抗凝固薬の開始のBenefit and Risk
Outcome
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比較
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OR
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脳出血
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抗凝固 vs Aspirin or Placebo
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2.89[1.19-7.01]
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抗凝固 vs Aspirin
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2.62[1.22-5.64]
| |
抗凝固 vs Placebo
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2.94[0.52-16.60]
| |
脳梗塞再発
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抗凝固 vs Aspirin or Placebo
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0.68[0.44-1.06]
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抗凝固 vs Aspirin
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0.92[0.57-1.48]
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抗凝固 vs Placebo
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0.59[0.30-1.17]
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早期のヘパリンの開始の利点を証明したStudyは無く, 発症後7-10dは投与を控えるべきとの指摘もあり.
抗凝固薬開始前には血圧のコントロールが必須.
広範囲(MCA領域の>1/3)梗塞例, コントロール不良のHT, 他に脳出血Risk Factorを認める場合は, さらに抗凝固薬開始を遅らせるべき
(Cardiovascular Drug Ther 2008;22:419-25)
5つの大規模Trials (急性期脳梗塞におけるASA vs 抗凝固療法)の患者群を解析し, 塞栓症再発のHigh-risk, 脳出血のrisk別に アウトカムを評価したMetaでも, 抗凝固療法の有意性は証明できず, どの患者群で投与すべきかという結論はでなかった.
Lancet Neurol 2013; 12: 539–45
塞栓リスクが高い群は同時に出血リスクも高い.
抗凝固療法の利点も欠点も出易いため, 急性期の治療は難しい.
Low-dose UFH(5000U sc q12hr)はDVT予防に有効であり, Riskがある患者では可能ならば行うのも良いが, Risk-benefitを考慮して決定すべき.