免疫不全患者における発熱や肺炎, 消化管障害などではCMVの再活性化の可能性がある.
よく評価されるのはCMVアンチゲネミアや, CMV-PCR検査であるが,
CMVに起因する臓器障害が微妙な場合, どの程度上昇していれば有意と考えるべきなのだろうか?
これも参考: 自己免疫疾患におけるCMV再活性化のリスク
CMV-PCR定量と治療閾値
・幹細胞移植患者や臓器移植患者では, CMV-DNA PCRをフォローし, 陽性となった場合に早期に治療を行うPreemptive therapyは推奨されている.
しかしながら, そのカットオフ値は明確ではなく, フォローにて上昇傾向がある場合などの治療を検討することとなる.
・故に, 例えば免疫抑制療法を行っている患者群において, CMV-PCRが陽性である, またアンチゲネミアが陽性となった場合,
それを元に治療を行うべきかどうか,
またどの値をCutoffとして治療に踏み切るかは不明確である.
移植前にCMV seropositiveが確認された臓器移植患者(心臓, 肝臓, 腎臓)を対象としたProspective cohort study.
(Journal of Clinical Virology 56 (2013) 13–18)
・移植前にSeropositiveが確認 = CMV lower risk群という判断となる.
・2008-2009年に導入された患者群をDerivation cohortとし, CMV Preemptive therapyの最適なViral load cutoffを評価.
・さらに2010-2011年に導入された患者群において, Validationを行った.
・血液検査は移植後100日までは2週に1回, 100-180日は4週に1回施行
移植後1年間フォローされ, CMVによる臓器障害をフォローされた.
・Derivation cohortでは141例, Validation cohortでは252例を評価.
CMVの治療は以下の要領で行われた;
・Derivation: 2回以上連続してCMV-DNR 1000-3000 copies/mLを認める場合, またはCMVに起因する臓器障害を認めた場合に開始.
治療は21日以上, または2回連続してPCRが陰性化すれば終了.
・Validation: Derivationで規定されたCutoffが2回以上連続して上回る場合, またはCMVに起因する臓器障害を認めた場合に開始.
アウトカム
・Validationでは,
56.7%でPCRが陽性となり, このうち34.5%がValganciclovirを使用
10.7%(9例)がCMV diseaseと判断(胃炎, 腸炎が主) . CMVに起因した死亡例は無し.
CMV disease例のViral loadは, 6620 copies/mL [2755-115500]であった.
>> Preemptive therapyのカットオフは2600copies/mLで
感度89.9%[85.6-93.0], 特異度88.9%[56.5-98.0]
NPV 99.6%と, この値を下回れば, Preemptive therapy無しでもCMV diseaseを発症しない良い指標となると結論づけられた.
・Validation cohortにおいて, ≥2600copies/mLをCutoffとした結果,
252例中107例でCMV-PCR陽性.
このうち50.4%でValganciclovirを投与され, 7.6%(9例)でCMV diseaseと診断.
CMV disease例のViral loadは, 3620 copies/mL [1950-24700]
>> このCutoffにおける感度 91.8%[87.9-94.4], 特異度75.0%[40.9-92.9]
NPV 99.2%[97.2-99.8]とNPVは良好.
他の報告では,
骨髄移植を行った708例において, CMV網膜炎のリスク因子を評価した報告
(Ophthalmology 2012;119:1892–1898)
・708例中363例でCMV viremiaが認められた.
網膜炎を評価された270例中, 15例でCMV網膜炎を診断.
・網膜炎に関連する因子は Peak CMV DNA blood levelのみ(HR 25.0[3.0-210.8])
CMV DNA >7.64 x 104copies/mL (76400)は, 感度93.3%, 特異度68.6%でCMV網膜炎合併を示唆.
また, 長期間のviremiaもリスク因子となる.
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といった報告があり, PCRで評価する場合は2000-3000 copies/mL程度を指標として覚えておくとよいかもしれない.(数100 copies/mLで驚く必要はない)
アンチゲネミアとPCRの相関性はどのようなものだろうか?
CMV antigenemiaとPCRの相関性
腎移植, 肝移植後の患者群において, CMVのantigenemia(pp65)と血清PCR定量検査を評価
(Mikrobiyol Bul . 2016 Jan;50(1):44-52.)
・両者を48時間以内の時間差で評価した症例を抽出し, 後ろ向きに解析
・AntigenemiaとDNA双方陰性は47%, 双方陽性が17%
Antigenemia陰性, PCR陽性は78サンプルで認められたが,
その逆, Antigenemia陽性, PCR陰性は認められなかった.
・Antigenemiaは23[1-230]/200000WBC
PCRは12595[180-106311]copies/mL 両者の相関性は認められた(r=0.785)
・Antigenemia ≥1/200000WBCは, PCR ≥205copies/mLを示唆(Sn 92%, Sp 90%)
肝移植後患者33例において, 定量PCR, pp65 Agを評価
(Journal of Clinical Virology 33 (2005) 138–144)
・pp65 Ag ≥ 10/200000WBCは, CMV-PCR ≥1330 copies/mLに対する感度58.3%, 特異度98%
≥20/200000WBCは, 上記に対する感度87%, 特異度98%.
・つまり, pp65 Ag ≥10ならばCMV-PCR ≥1330copies/mLとなることを 強く示唆するものの,
<10でも否定は難しい(LR- 0.42).
骨髄移植, 臓器移植後の免疫不全患者における CMV-PCRとAntigenemiaを比較した報告.
(J. Med. Virol. 64:275 - 282, 2001.)
・検査はGanciclovirやFoscarnetによる治療がされていない164検体を用いて行われた.
・このうち47検体はPCR <400 copies/mL 且つAg陰性
4検体はAg弱陽性(1-10/200000WBC), PCR <400
51検体はPCR ≥400, Ag陰性
62検体はPCR ≥400, Ag陽性
・PCR<400ではAgはほぼ陰性と言える
Agが陽性では, PCR ≥400の可能性は高い (1-10では24/28)
・背景疾患とAgの値別のPCR定量結果
Agが高値ほどCMV-DNA量も多い傾向があるが, 相関性はそこまで強くない.
Agが陰性でもDNAは検出されることが多い.
AgとPCRはかなりばらつきが大きい.
・前述のPreemptive therapyのカットオフを2600 copies/mLとした場合,
Agが>10/200000WBCに値すると考えておく良いかもしれない.
ただし1-10やAg陰性例でもPCR >2600/mLとなる例があるため, Ag単独を指標とするのは無理がある. 経過での増悪傾向の評価も重要である.
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免疫不全患者におけるCMVの治療閾値としては, PCRは2000-3000 copies/mL程度を一つの指標として押さえておくと良いかもしれない.
アンチゲネミアはばらつきが大きい. 陰性でも否定はできないが, >10/200000WBC, 特に>20となるのは要注意と言えるかもしれない.