高齢者の筋肉内血腫や皮下出血など出血が顕著な症例.
PTやAPTTは正常で血小板減少や機能には異常はない...
PT, APTTが正常な凝固障害として想起するのが後天性VWDと後天性第XIII因子欠損症である
出血時間が伸びる場合はVWDを疑うものの, 今回は正常であったという程で考える
ということでお勉強です
後天性XIII因子欠損症 (Transfus Apher Sci . 2018 Dec;57(6):724-730.)
・第XIII因子はα, γフィブリン鎖を結合することで, 凝血塊を安定化させる作用を示す.
欠乏により出血や創傷治癒の遅延の原因となる.
・第XIII因子欠損症ではAPTT, PT, 血小板数や機能は正常であり, 原因が不明な出血傾向がある患者において, 後天性vWDと共に想起することは重要
・症状は無症候性〜重度な出血まで様々
出血部位は筋肉内出血や皮下出血が7割を占める.
他に頭蓋内出血が13-18%, 腹腔内や後腹膜出血も認められる.
日本国内より免疫性第XIII因子欠損症(後述) 93例をまとめた報告
(Blood Rev . 2017 Jan;31(1):37-45.)
・患者の平均年齢は65.8±18.1歳, 中央年齢70歳であり, 高齢者ほど頻度は増加する.
また男性例が51例, 女性例が42例と若干男性例が多かった.
・出血部位は筋肉内出血が68%, 皮下出血が60%と多い.
頭蓋内出血が11%, 腹腔内・後腹膜出血が19%で認められた.
術後の出血も16%で報告された.
後天性第XIII因子欠損症の機序は免疫性, 非免疫性に分類される.
・免疫性では第XIII因子の中和作用を持つインヒビターと, 第XIII因子のクリアランスを亢進させる非中和型の抗体がある.
・非免疫性では産生の低下, また消費の亢進が挙げられる.
・それぞれの機序と背景疾患は以下.
機序 | 病態の特徴 | 関連する背景疾患 | |
免疫性 | 第XIII因子の阻害, 代謝の促進 | 第XIII因子活性の高度低下(<10%) 第XIII因子抗体の存在* クロスミキシング試験による第XIII因子活性評価が鑑別に有用. | SLE, 関節リウマチ 47%は背景疾患が不明な特発性. |
非免疫性 | 消費の亢進 | 第XIII因子活性の軽度低下(20-70%) | 外科手術, |
産生の低下 | 肝疾患 |
*コマーシャルベースには測定困難. 中和抗体ではBethesdaアッセイ, 非中和抗体ではBindingアッセイを用いる.
(Transfus Apher Sci . 2018 Dec;57(6):724-730.)(Haemophilia . 2021 May;27(3):454-462.)(Blood Rev . 2017 Jan;31(1):37-45.)
・基本的に免疫性第XIII因子欠損の方が第XIII因子活性は低下(<10%, 平均8.5±8.2%)し, 出血も重度となる.
非免疫性では活性は20-70%程度と軽度の低下となり, 出血症状も軽度であることが多い.
第XIII因子活性が低いほど, 重度の出血に関連する.
・検査は第XIII因子活性と第XIII因子抗原の評価を行う.
免疫性第XIII因子欠損症の診断基準は以下の通り.
可能性あり | 1. 主に高齢者における最近発症した出血症状 2. 先天性の第XIII因子欠損や他の凝固因子障害の家族歴を認めない 3. 過去の外科手術や侵襲的処置, 外傷で出血症状を認めていない 4. 抗凝固療法や抗血小板薬の過剰使用がなく, 薬剤では出血が説明できない 5. 第XIII因子活性や抗原が<50%と低下している. |
準確診 | 上記1-5を満たし, さらに第XIII因子インヒビターが認められる(クロスミキシング試験の2時間値で再度活性が低下することで証明) |
確診 | 上記1-5を満たし, さらに抗XIII因子抗体が証明される |
(Thromb Haemost . 2016 Sep 27;116(4):772-774.)
・出血症状があり, 第XIII因子活性(±抗原)の低下が認められれば後天性第XIII因子欠損症を考慮する.
・さらにクロスミキシング試験にてインヒビターが証明されれば免疫性第XIII因子欠損症と診断する.
・抗第XIII因子抗体が証明できれば確定診断となるものの, コマーシャルベースでは検査はできない.
免疫性と非免疫性の鑑別では, クロスミキシング試験における残存第XIII因子活性の評価が有用(Haemophilia . 2021 May;27(3):454-462. )
・免疫性, 非免疫性の後天性第XIII因子欠損症患者において, 第XIII因子抗原, 活性を評価, 比較した報告では, 免疫性の方がより抗原, 活性共に低値であるがその値には重なりも多く認められた(A)(B).
・クロスミキシング試験後に再度第XIII因子活性を評価した「残存第XIII因子活性」では免疫性群で活性低下が持続する一方, 非免疫性群では活性は軽度改善を認め, その差は明確となった(D).
後天性第XIII因子欠損症の治療
・出血を安定させるために, 第XIII因子製剤を投与する.
乾燥濃縮人血液凝固第XIII因子(ブロガミンP®)が使用可能である.
すぐに手配ができない場合は新鮮凍結血漿を用いる.
・非免疫性では第XIII因子活性を>10%に維持するように投与を行う.
また侵襲検査や外科手術時には>50%を目標に投与を行う.
治療可能な背景疾患への対応も重要である.
トラネキサム酸を併用することで, 出血リスクを低下させる報告もある.
・免疫性第XIII因子欠損症ではさらに免疫抑制療法が推奨される.
ステロイドやカルシニューリン阻害薬, シクロホスファミドが用いられる.
適応外使用となるがリツキシマブも効果的である.
また免疫グロブリン静注療法も効果が期待できる. 背景疾患への治療も重要である.
・免疫性第XIII因子欠損症の長期予後は不明確ではあるが, 50-68%の患者で免疫抑制療法が終了できたとの報告もあり.
把握しておくと良いと思う.