ブルセラ症: Brucellosis
(Lancet Infect Dis. 2014 Jun;14(6):520-6.)
・Brucellosis(ブルセラ症)は人畜感染症で最も多い感染症.
・全国で毎年500000例の報告がある. 流行地域は地中海沿岸, 西ヨーロッパ, 中東, 南, 中央アメリカ, そしてアジアである.
・BrucellosisはBrucella sppによる感染症. GNRで細胞内感染菌
・B. melitensisは羊, ヤギ. B. abortusは牛. B. suisは豚より感染する.
これらに接触する職業で感染リスクは高い.
また, 接触せずとも, 低温殺菌がされていない乳製品より人へ感染する.
・B. abortus(牛から感染)ではB. melitensis(羊, ヤギ)よりも進行が緩徐
(モダンメディア 2021;67(9):359-367)(モダンメディア 2009;55(3):76-85)ブルセラ症は動物に感染する場合, 流産や不妊の原因となるが
人間に感染した場合はさまざまな症状を引き起こす.
急性の関節炎や筋肉痛, 不明熱, 肝障害など.
また細胞内感染菌であり, 再発もあり得る.
(International Journal of Infectious Diseases 14 (2010) e469–e478 )
国内では4類感染症であり, 全例届出が必要.
(モダンメディア 2021;67(9):359-367)(モダンメディア 2009;55(3):76-85)
・1999-2019年に45例が届出されており, 2014年に年間10例の届出が最多.
・感染経路が判明した43例中, 14例は家畜ブルセラ症(B. Melitensis, B. Abortus)であり,
29例はB. canis感染症であった.
・家畜ブルセラ症はほぼ全例が輸入症例.
B. canisはイヌに感染しており, 国内のイヌの3%がB canis感染歴を有するため, 国内発症のブルセラ症はほぼB. canisとなる.
・イヌに関連する職業, ブリーダーなどでは陽性率が高く, 無症候性感染者も多いと予測される. 繁殖施設における集団発生例もある.
Brucellosisは3つのパターンに分類: Acute, undulant, chronic.
(Lancet Infect Dis. 2014 Jun;14(6):520-6.)
・Acute Brucellosisでは原因不明の発熱, 悪寒, 発汗, 関節痛で発症.
・Undulant form(波状熱)では感染から2ヶ月後に発症し, 波状の発熱を呈する.
・Chronic fromでは周期的な背部痛, 関節痛, 発汗を認める全身症状と, 局所的な症状, 所見を認める. (化膿性脊椎炎, 肝炎, 精巣上体炎, 心内膜炎等)
心内膜炎は1-2%と稀だが, 死因の主な原因となる.
慢性期は感染から数年経過して発症する. (細胞内感染菌で増殖が遅いため)
Brucellosis 1028例の解析
(International Journal of Infectious Diseases 14 (2010) e469–e478)
・男性47.6%, 女性52.4%, 平均年齢は33.7±16.34歳. 3-81歳まで分布する.
・年齢分布
・急性例 61.6%, 亜急性例 21.6%, 慢性例 13.6%, 再発例 3.2%
・急性, 亜急性例では季節は春, 秋に多い傾向がある.
・症状, 所見頻度
・血液所見の頻度
・侵襲臓器の頻度
144例の解析;
(International Journal of Infectious Diseases (2007) 11, 52—57)
・関節炎は脊椎炎が最も多い. 次いで股関節, 仙腸関節, 膝関節と 下肢帯メインとなる.
Osteoarticular Brucellosis; Brucellosisによる骨関節症状
(World J Orthop 2019 February 18; 10(2): 54-62)
・Brucellosisで最も多い症状/障害の部位は骨関節であり, 10-85%
・関節では仙腸関節が~80%, 脊椎が~54%と軸関節が多い部位.
脊椎炎や脊椎椎間板炎となることが多く, 他に末梢関節炎, 骨髄炎, 椎間板炎, 滑膜炎, 腱鞘滑膜炎も認められるが, 比較的少ない.
・脊椎病変は局所, びまん性双方ある. 硬膜下膿瘍は稀な合併症だが, 神経予後に大きく関わるため重要
・流行地域に住んでいる患者で化膿性関節炎を考慮した場合, 必ずBrucellosisを念頭に置く必要がある.
Spinal brucellosis: 2-54%で認められ, 最も多い骨関節病変
・腰痛や坐骨神経痛を認める頻度が高く, しばしば腰椎症と誤診され, 手術治療がなされる症例もあるため, 流行地域で, リスクがある職業に就いている人が腰痛や坐骨神経痛を認めた場合, Brucellosisを考慮し, 血清学的検査やMRI評価を行うべきという意見もある.
・腰椎病変が最も多く, 椎体炎や脊椎椎間板炎 ± 椎間板炎となる
脊椎炎は>40歳の男性で多く, 腰椎 60%, 仙骨 19%, 頚椎 12%で多い
・局所感染とびまん性感染があり, 局所型では椎体前面に限局するが, びまん型では椎体全体に及ぶ.
・硬膜外膿瘍, 傍脊椎膿瘍, 腸腰筋膿瘍などへの進展リスクがある
脊椎椎間板炎は脊椎と椎間板の双方で炎症を生じる.
・血行性の撒布により生じ, Brucellosisのなかで最も重症の病態の1つ
腰椎 60-69%, 胸椎 19%, 頚椎 6-12%の頻度
・連続性, 非連続性の多巣性の病変となり, 病変部位の評価には骨シンチグラフィーが有用
椎間板炎は椎間板のみの炎症
・椎間板ヘルニアや坐骨神経痛が認められるため, 流行地域でのこれら疾患の鑑別としてBrucellaは重要となる.
仙腸関節炎はBrucellosisの骨関節病変で最も多いものの1つ
・局所合併症の患者の80%で認められ, 特に成人例で多い
・化膿性や反応性関節炎, 慢性関節炎のような病態となる.
・腰痛を呈する患者が多いが, 24%は無症候性.
四肢関節炎は14-26%とやや頻度は低下.
・肩関節, 手関節, 肘, 指節間関節, 胸鎖関節など. 直接菌が浸潤する敗血症タイプと, 反応性関節炎のタイプがある
・脊椎関節炎となる症例もあり
中国におけるブルセラ症2041例の解析
(PLoS One. 2018 Nov 26;13(11):e0205500.)
・急性例(発症<8wk)は74%(1520) 関節痛は60%, 関節圧痛 8%, 関節腫脹 2%
亜急性(2-12ヶ月)は22%(446) 関節痛は70%, 関節圧痛 10%, 関節腫脹 3%
慢性(>12ヶ月)は4%(74) 関節痛は79%, 関節圧痛 16%, 関節腫脹 7%
・関節病変は末梢関節が半数以上と多い.
Brucella endarteritis(ブルセラ心内膜炎)
(Lancet Infect Dis 2014; 14: 520–526)
・Brucellosisによる心血管障害は主に心内膜炎だが, 動脈炎や皮膚血管炎, 静脈血栓症も来す.
・細菌が直接血管内皮細胞へ感染し, 炎症を惹起させる.
末梢や脳血管の動脈瘤を形成する.
・34例のBrucella endarteritisの報告があり, その解析では 平均年齢は42.9歳, 男性80%
B. melitensisによるものが62.5%, B. abortus 16.7%, B. suis 16.7%, B. canis 4.0%であった.
・血清学検査で陽性が92%
PCRで陽性が80%.
血液培養は68%で陽性 組織培養は71%で陽性
・血管炎の症状, 所見頻度
Brucellosisの検査
・Brucellosisの検査は血清検査が重要.
急性感染症では, IgMが出現し, その後IgGやIgAが出現.
・IgMとIgGの総量を評価するのが標準凝集試験(SAT)であるライト試験
IgGを測定するのが2-ME試験.
流行地ではSAT ≥1:160, 2-ME ≥ 1:80が診断に有用
・ELISAは感度や特異度が劣る. PCRは可能であれば有用な検査となる