関節炎診療において, しばしば足関節炎には注意している.
サルコイドーシスやヘモクロマトーシス, 感染に伴う関節炎, 反応性関節炎や脊椎関節炎といった一風変わった疾患が足関節を有意に発症するから.
というわけで調べてみよう
足関節の構造と注意点
・足関節は膝や股関節とは性質が異なる.
歩行時の足関節の可動域は比較的小さく, 最大30度程度. 階段を降りる時には56度程度まで増加 する.
軟骨は膝軟骨と比較してプロテオグリカンと硫酸化グリコサミノグリカンの含有量が多く, 緻密で硬い.
・また, 足関節はHindfootと足関節に分けて考える.
Hindfoot: 足関節は脛腓骨と距骨で 構成される足関節と, 距骨と踵骨で構成されるHindfootに 別れる.
足関節炎, 足関節痛を考える場合, どちらに原因があるかを意識することは重要
足関節炎は足関節の受動的な屈曲, 進展で疼痛が出現し, Hindfootの炎症では内反, 外反で疼痛が誘発される.
またMRIやUSも有用である.
Hindfootの疼痛は周囲の組織や皮膚疾患で 生じうる. 軟部組織の腫脹から, 関節腫脹に類似した所見にもなる.
変形性関節症
(Rheumatology 2021;60:23–33)
・膝と異なり, 足関節のOAの有病率は低く, 多くは外傷から生じる(70-78%)
股関節や膝関節では一次性が65%, 82%, 外傷性が8%, 12.5%
・運動時の負荷は膝や股関節よりも足関節にかかる方が強いにもかかわらず, OAのリスクは少ない. 荷重の大半が距骨ドームにかかる, 負担面積が大きい, 可動域が狭い, 硬さや密度の差で弾力性が高いことなどが関連している.
・関節炎から二次性に足関節OAを生じる場合, その原因疾患として挙げられるものは
RA, ヘモクロマトーシス, 血友病, 無血管性壊死, 感染性関節炎後.
特に遺伝性ヘモクロマトーシスでは多く, 32-61%で合併する
血友病では繰り返す関節出血が原因となり, 足関節は膝関節と同様, 侵されやすい関節である.
足関節の炎症性関節炎: 単関節炎
発症16週未満の単関節炎患者347例を解析.
(Arthritis Care & Research Vol. 72, No. 5, May 2020, pp 705–710)
・膝が49.3%と最多. 足関節は16.7%と2番目に多い部位.
・後にRAを診断されるのは手指関節, 手関節, 肩関節.
足関節例ではほぼRAは無し. 非CIRDが多い.
非CIRDには自然に改善, 痛風, OAが含まれる.
韓国における171例の単関節炎の解析
(International Journal of Rheumatic Diseases 2014; 17: 502–510)
・膝関節が24%, 手関節が22.8%, 足関節が18.7%と多い
・手関節はRAに関連: OR 10.2[2.7-39.0]
足関節はPeripheral-SpAに関連: OR 3.0[1.1-8.2] 大関節も関連あり: OR 12.1[1.5-97]
大関節は他にBDに関連: OR 12.5[1.5-102]
足関節の炎症性関節炎: 少数/多関節炎
発症3カ月以内の1箇所以上の滑膜炎症例を対象としたCohort
(Clinical and Experimental Rheumatology 2014; 32: 533-538.)
・このうち初診時に足関節の滑膜炎を認めた例が103例
・足関節炎と最終診断 分類不能関節炎が多い.
次に多いのはサルコイドーシス, 血清陰性関節炎.
・両側性の足関節炎は急性サルコイド関節症の可能性を上げる(RR 10.2[1.1-90.9])・足関節炎でRF, ACPA陰性例ではよりSpAに分類される(RR 6.2[1.6-23.9])
RAにおける足関節炎の頻度は,
(Rheumatology 2021;60:23–33)
・発症早期のRAにおける足関節炎は5-25%前後での報告が多い. 特に片側性が多く報告されている.
・晩期における足関節炎は37-65%であり, 長期経過したRAではそれなりに認められる
・しかしながら少数関節炎や単関節炎において, 足関節炎を認める場合はRAよりもサルコイドーシスやSpAの可能性をあげる報告が多い.
・RAを考慮する場合は他の所見やACPA, RFを加味して考える必要がある. Seronegativeでは他疾患を除外することが重要.
Ax-SpAにおける足関節炎
・足関節は最も多い罹患関節であり, 39.5%で認められる. 次いで股関節, 膝関節が続く.
・足関節はHLA-B27陽性例(45.2% vs 18.8%), 若年発症例で多い(63.6% vs 35.2%)
乾癬性関節炎における足関節炎
・足関節炎は10.3%であり, 追跡調査で26.4%に増加
他の報告では30-39%程度で認められる.
炎症性腸疾患に伴うSpA
・足関節炎は関節炎を合併するIBDにおいて, UC例の29-34%, CD例の42-54%で認められる.
感染性関節炎における足関節炎
・細菌感染症では膝関節が最多でおよそ半数.
次いで股関節であり, 2割程度. 足関節は1割前後で認められる.
・ウイルス感染症では, HBV, HCV, チクングニア, HIV感染症において, 足関節炎を呈する報告がある.
チクングニア感染では足関節が87%と多く, 手関節についで多い部位. 初発症状として足関節炎は1-3割程度で報告される.
HIV感染症による関節炎も足関節や膝関節で多い.
・結核性関節炎は足関節はほぼ報告されていない(1-4%)程度
結晶性関節炎
・痛風は第一MTPで多いが, どの関節でも生じる. 足関節は多く, 慢性痛風患者では, 50%で認められる報告がある. 第一MTP, 膝関節に次いで/同等に多い部位.
・偽痛風は膝と手関節で多く, 足関節はOA有病率の低さからか多くはない.
354例の痛風患者の解析では,
(Ann Rheum Dis. 1970 Sep;29(5):461-8.)
・1st MTP関節が76%と最も多く, 次いで足関節が50%, 膝関節が32%, 指が25%.
肘, 手関節が10%ずつ.
・恒久的な関節への障害が残存した症例は17%であった.
106例の痛風患者の罹患関節は,
(Br J Rheumatol. 1995 Sep;34(9):843-6.)
・1st MTP関節が58.5%, 足関節が60.4%, 膝関節が51.9%と多い
他は中足根関節 29%, 手関節 25.4%, 肘関節 13.2%, 肩関節 5.2%, 指 6.6%
以下は主にHindfootが主な障害部位となるもの
サルコイドーシス
・急性サルコイド関節炎は, 結節性紅斑, 両側肺門リンパ節腫大, 移動性多発関節炎の3徴を伴うLogfren症候群として発症することが多い.
・足関節の関節炎はほぼ例外なく報告されているが, 実はこれはHindfootの深部皮下浮腫, または腱鞘炎による症状/所見であり, 足関節自体には異常がないことがわかっている.
・エコーやMRIによる評価では滑膜の肥厚を伴わない軽度の足関節液貯留を認める例があり, さらに血流の増加は5.6-7.5%程度のみ.
・慢性サルコイド関節炎はLogfren症候群よりも頻度は低く, また足関節に多く発症すると言われている.
・実際慢性と急性が混在した報告が多いため, 関節炎かHindfootの炎症かは不明確であるが, いくつかの症例報告では足関節炎が示されている.
肥大性骨関節症
・HOAはバチ指, 長管骨の骨膜反応, 四肢の疼痛を3徴候とし, 時に大関節の非炎症性関節液貯留を伴う病態.
・Hindfootを含む複数のケース報告があり, ReAや他の炎症性関節炎に類似した足関節液貯留を伴う例もある.
後脛骨筋腱の機能障害
・Hindfootの腫脹や疼痛の一般的な原因であり, 40歳以上の女性に多い 腱に沿った内課の後方, 下方にびまん性の腫脹と圧痛を示す.
・慢性例ではHindfootのvalgus変形と扁平足を伴う.
アプローチ (Rheumatology 2021;60:23–33)
・足関節炎を診た場合,・発症早期例ならば滑膜炎なのか, Hindfootの障害なのかを判別し,
滑膜炎ならばSpAや痛風, 感染など考慮.
Hindfootならばサルコイドーシス, HPOAなど考慮する.
・晩期では滑膜炎有意か、OA有意かを判別し,
滑膜炎ならばRAやSpA
OAでは関節内出血, ヘモクロマトーシスなどによる二次性OAを鑑別する.