Residual Dizziness: 残存めまい症状.
外来でBPPVの患者さんで, Epley法やGufoni法などで耳石置換を行い対応.
その1週間後, まだ良くなりません, と外来に再受診.
しかしながらその際は誘発試験をしても眼振は認められず,
「あれ? 治ってんのになぁ、、」と思うことってそれなりにあります.
このような, 耳石置換を行い, 誘発試験にて眼振が認められなくなったのに, ふらつきやめまい感, QOLの低下などが認められる状態を残存めまい症状(Residual Dizziness: 以下RD)と呼びます.
RDのメタアナリシスでは(Eur Arch Otorhinolaryngol. 2022 Jul;279(7):3237-3256.)
・RDの頻度は43%[39-48]. 論文によっては6割強など半数以上で認められる報告も.
・RDの臨床的なリスク因子は,
年齢(MD 4.17[2.13-6.21])
女性 OR 1.28[1.11-1.47]
二次性BPPV OR 1.88[1.27-2.77]
BPPV〜治療までの期間が長い(MD 3.45[1.87-5.02])
DHIが高い(MD 10.88[5.96-15.80])
不安症状 OR 9.58[6.32-14.52]
骨粗鬆症 OR 4.40[2.17-8.96]
冬の発症 OR 7.27[2.38-22.24]
BPPV既往 OR 1.79[1.06-3.04] が挙げられる.
・つまり, 高齢者で, めまい〜治療までの期間が長く, ADLが障害され,
そして不安に思っており, 冬などで活動が低下している場合にRDの高リスク.
・持続期間は23.4±16.8日(範囲6-89日)とおよそ1ヶ月程度持続する(ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec. 2022;84(2):122-129.)
RDの対応は?
まず重要なのは, 日常生活の制限をせず, 積極的に動いてもらうこと.
・Shopping Exerciseと呼ばれる運動療法で11.5±4.6日(範囲6-32日)まで有意に短縮するとのRCTがある(ORL J Otorhinolaryngol Relat Spec. 2022;84(2):122-129.)
・このSEとは, スーパーで買い物をするように, 商品棚で商品を探しながら, 歩いてゆく, という運動. 実際このStudyでは広いスーパーで, いくつかの商品の値段をチェックしてもらう、という形で指導していた.
頭や目線の向きと, 歩行の向きが異なり, バランスを刺激する.
・他もリハビリ, めまい体操などはこのRDに有用に働き, 結果BPPVの症状の緩和をしていることが多い.
ベタヒスチン(メリスロン®)がRDの予防に有用.
・これ意味あんの? 選手権で上位に上がる薬剤メリスロン®.
この薬剤がRD症状の緩和に効果的であるとする報告がある.
100例のPC-BPPV患者を, Epley法+ベタヒスチン群 vs Epley法のみ割り付け, 比較したRCT
(Braz J Otorhinolaryngol. 2022 May-Jun;88(3):421-426.)
・1週間後の症状(VAS), DHIを比較した.
・アウトカム;
ベタヒスチン使用の有無で, 眼振の消失には有意差を認めない.
しかしながら, ベタヒスチンにより有意にVASは低下を認める. DHIも低下.
・ 自覚症状の緩和効果が期待できる.
PC-BPPVでEpley法を行なった117例を対象とし, ベタヒスチン vs Dimenhydrinate vs プラセボ群に割り付け比較したDB-RCT.
(Ann Otol Rhinol Laryngol. 2020 May;129(5):434-440.)
・投薬は1週間行なった.
・RDを認めた症例は88例.
・アウトカム;
ベタヒスチンの使用はRD(-)に関連 OR 3.18[1.18-8.59]
DimenhydrinateはOR 1.01[098-1.03] (ジメンヒドリナート: 酔い止め. H1阻害薬)と有意差なし.
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ということで, BPPVの後にRDが長く持続する症例が半数程度ある.
RDのために再度外来受診をしたり, 活動が低下してしまう人もいる.
対応としては, しっかり動くこと, 生活活動の制限をせずに動くことがリハビリとなる.
メリスロンはRDの予防に効果的な可能性があり, 起こりそうな患者さん(経過が長い人や不安が強い人, いままでもRDの病歴ある人, また動いてくれなさそうな人)には試す価値はある.