血球貪食症候群: Hemophagocytic lymphohistiocytosis (HLH)はNK細胞や細胞傷害性T細胞の消失や機能異常により免疫抑制機能が低下, その結果多臓器障害, マクロファージ活性化・増殖が生じ(Macrophage activation syndrome), 網内系での血球貪食が増加する病態.
原発性と二次性があり,
原発性では先天性(家族性HLH), 免疫欠乏性(先天性免疫不全症候群に合併)があり,
二次性では感染症(ウイルス感染, 敗血症), 悪性腫瘍(主にリンパ腫), 自己免疫/炎症性(SLEやAOSDが有名)が原因としてある.
参考(いくつか古いですが)
感染症関連のHLHで最も多い原因がEBV感染症.
また, このEBVによるHLH特に予後が悪いため, 迅速な対応が重要となる.
EBVに伴うHLH 133例の解析(成人, 若年症例)
(HEMATOLOGY 2018, VOL. 23, NO. 10, 810–816)
・北京の単一病院において, 2009-2016年にEBV-HLHと診断された≥14歳の患者群を抽出し, 評価
・EBV-HLHはHLH-2004基準を満たし, さらにEBV-DNAが末梢血, 組織より陽性となった患者で定義.
アウトカム:
・HLH患者でEBV感染を認めた例が177例.
このうち133例でEBV-HLHと診断された.
・リンパ腫関連が35例, 3例が遺伝性HLHと診断.
・男性例が92例, 女性42例, 中央年齢は26歳[14-77]
HLH-2004に含まれる臨床所見の陽性率と血液検査・肝腫大を伴う頻度は半数以下と少ない. 脾腫の頻度は高い.
EBV-PCRが陽性のHLHでも, 悪性リンパ腫を背景としている可能性はある.
この報告では35/177が悪性リンパ腫であった.
反対に, Non-Hodgkin B cell lymphomaによるHLH症例31例の解析では, 46.15%でEBV viremiaが認められたという報告がある(Clin Lymphoma Myeloma Leuk. 2021 Feb;21(2):e198-e205)
ウイルス性HLHにおいて, EBV vs non-EBV症例の比較;
(J. Med. Virol. 88:541–549, 2016.
)・EBV-HLHは基本的に小児例で多いが, 成人や高齢者でも生じ得る(主に再活性化) ・LDHやフェリチン, CRPといったマーカーはより高値となる.
EBV-HLHの治療
・EBV-HLHでは, 初期治療はデキサメサゾン, エトポシド, シクロスポリンを用いる: HLH-94/04
・エトポシドはトポイソメラーゼII活性を阻害し, DNA合成を阻害し, 細胞死を誘発する薬剤.
HLH-94/04プロトコール (Blood. 2011;118(17):4577-4584)
・初期治療として, エトポシド 150mg/m2, 週2回を2wk, 以後1wk毎に投与(~8wk)
9wk以後は2wk毎とし, 改善まで継続
・デキサメサゾン 10mg/m2を2wk, 5を2wk, 2.5を2wk, 1.25を1wk
(パルスは10mg/m2を3日間使用)
・CSA: シクロスポリン. トラフ 200µg/Lを目標.
HLH-94では9wk~で開始するが, HLH-2004では, CSAは初期治療より併用で開始する.
・髄注治療: MTX 12-15mg/m2の髄腔内投与 (中枢症状や持続性のCSF所見異常を認める場合に併用する)
HLH-94/04はEBV-HLHに限った治療ではなく, 先天性HLHも含む治療レジメ.
・自己免疫性疾患に由来するHLHは原疾患の治療が優先される.
・悪性リンパ腫などの悪性腫瘍関連でも原疾患に対する治療が優先. それに加えてエトポシドを使用することも考慮する.
特にEBV-HLHでは早期のエトポシド治療は重要な可能性が高い;
EBV-HLH 133例の治療とその反応性:
(HEMATOLOGY 2018, VOL. 23, NO. 10, 810–816)
・HLH-94, L-DEPはエトポシドを使用,
その他では非使用例.
非使用例ではCRはなく, PR, NRのみ.
・L-DEP; Liposomal doxorubicin, Etoposide, HD-DEX,
PEG-asparagase
・HLH-94レジメ治療は112/133,
L-DEPは6例,
その他は15例
日本国内の若年成人のEBV-HLH症例 11例と
Literatureより9例を解析
(Med Pediatr Oncol 2003;41:103–109)
・診断から4wk以内にエトポシドを使用した例(7例)と,
それ以降に使用, 使用しなかった症例を比較すると,
有意に早期使用例で予後は良好
Beijing Friendship Hosp.の血液内科に2017年に受診したEBV-HLH症例93例の解析.
(British Journal of Haematology, 2019, 186, 717–723)
・初期治療として, エトポシドを含む治療を行った群(Group 1) 52例と, エトポシドを使用しなかった群(Group 2) 41例を比較
・母集団は年齢制限をせず, HLH-04の基準を用いて診断.
EBV-DNA >500 copies/mLを認め, さらに悪性腫瘍や原発性HLHを除外した群を対象.
・エトポシドはHLH-94ではHLH 150mg/m2, L-DEPでは100mg/m2を用いた.
・上記を満たす患者93例のうち, 54例が男性, 39例が女性
年齢は26歳[1-70], 成人症例(>18y)が58例, 小児が35例.
初期治療にエトポシドを用いた群では
有意に生存率が良好.
年齢別の評価 Fig3: <18歳, Fig 4: ≥18歳
・成人例のEBV-HLHの方が予後が不良.
成人例も小児例でも,
初期治療(4wk以内)にエトポシドを用いるのは
予後の改善につながる可能性がある
成人の二次性HLH全体を対象とした報告では, エトポシドによる予後改善効果は認められず
成人の二次性HLHに対するEtoposide
(Acta Haematol. 2021;144(5):560-568.)
・2009-2020年に診断した成人の二次性HLH 90例を解析.
このうち47%でEtoposideを使用, 53例では背景疾患の治療のみ.
・Etoposide使用例では, 150mg/m2が33%, 112.5mg/m2が5%, 100mg/m2が5%, 75mg/m2が48%, 50mg/m2が10%
減量の理由としては腎障害 59%, 肝障害14%, 双方 28%
・HLHの原因は血液腫瘍がおよそ半数, リウマチ性疾患が1-2割,
敗血症 2-3割など.
エトポシドはOSの改善には影響しない結果.
PFRやCFRにも影響はしない.
・血液悪性腫瘍群での比較でも死亡リスクは有意差なし
・EBVのみではなく, 二次性HLH全体に対する
エトポシドの予後改善効果は乏しい.