入院患者の血糖コントロールでは単なるSliding scaleのみでは後手後手であり,
基礎+追加分泌分を補うRABBIT protocol(Basal-bolus)がある
http://hospitalist-gim.blogspot.com/2014/02/rabbit-protocol.html
このBasal-bolusレジメのMetaでは, Sliding scale群と比較して,
血糖値は-17.94mg/dL[-23.37~-12.52]低くなるものの
軽度の低血糖リスクは上昇: <60mg/dL RR 4.21[1.61-11.02]
高度の低血糖リスクは有意差なし: <40mg/dL RR 3.72[0.63-22.05]
と低血糖リスク上昇が認められる.
(Diabetes Metab Res Rev. 2017 Jul;33(5): e2885)
実際, 急性期入院の血糖コントロールでは, よほど血糖コントロールが難しい患者以外はBasal-bolusレジメは行うことは少なく, 以下で説明するようなBasal-plusレジメやDPP-4併用を試すことが個人的に多い.
Basal-plusレジメ
・基礎+Sliding scaleを用いる方法
Basal Plus Trial: 入院した375例の2型DM患者を対象としたRCT
(Diabetes Care 36:2169–2174, 2013)
・患者は2型DMで内科, 外科に入院し, 血糖140−400mg/dLを満たす.
DMの治療は食事療法, 経口血糖降下薬, 低用量インスリン(≤0.4U/kg/d).
・入院後は投薬を中止し, 毎食前と眠前の4回血糖をチェック.
低用量インスリン使用中の患者はそのまま継続し, 血糖>140mg/dLならば母集団に組み込んだ.
・ステロイド投与中, 肝障害, Cre≥3.0mg/dL, DKA既往, 血糖>400mg/dLは除外.
上記患者群を以下の3群に割り付け
・Basal-bolus レジメ*: RABBIT protocolと同じ
・Basal plus レジメ**: 基礎Glargineを使用し, 追加分泌はGlulisineのSSI
・SSI: GlulisineのSSIのみ使用
*Basal-bolusレジメでは
・0.5U/kgのインスリン量の半分をGlargine, もう半分をGlulisineで補う
Glargineは1日1回, Glulisineは毎食前投与(各1/6量)
・食前血糖が>140mg/dLでは上記GlulisineにさらにSSIを追加して投与.
≥70歳, Cre≥2.0mg/dLでは0.3U/kgで計算
**Basal plusレジメでは
・0.25U/kgのGlargineを1日1回投与. GlulisineはSSIに則り使用.
≥70歳, Cre≥2.0mg/dLでは0.15U/kgで計算
目標血糖値は食前 100−140mg/dL
アウトカム
・Basal-bolus群とBasal plus群は同等の血糖コントロールを示す
・低血糖リスクも同等
DPP-4阻害薬+Basalレジメ
・基礎+DPP-4阻害薬を用いる方法
Sita-Hospital trial: 18-80歳の2型DMで, 栄養指導, 経口血糖降下薬または0.6U/kg未満のインスリンで管理されている患者群で, 内科, 外科入院となった群を対象.
(Lancet Diabetes Endocrinol. 2017 Feb;5(2):125-133.)
・入院時血糖は140-400mg/dLを対象とした
・除外項目は血糖≥400mg/dL, Ketosis, 1型DM, DM既往なし, 最近のDPP-4阻害薬やGLP-1作動薬での治療歴, 腸閉塞, 48時間以内に食事開始が困難と予測される群, ICU管理となる可能性がある群, AMI, 心臓外科手術, PSL >5mg/d使用, 肝疾患, eGFR<30, 妊婦, 精神疾患で同意が得られない.
上記患者群を
Sitagliptin(ジャヌビア) + Basal glargine(ランタス)投与群と
Basal-bolus群に割り付け, 最初の10日間の血糖コントロールを比較
母集団
アウトカム
・両群とも血糖コントロールは同等
・血糖コントロール, 治療失敗, 低血糖エピソードどれも有意差なし
インスリン使用量はDPP-4阻害薬併用群で少ない
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・急性疾患で入院したDM患者の血糖コントロールは, 一旦経口血糖降下薬を中断し, 基礎+追加分泌分のインスリンで管理することが正攻法ではあるが, これは結構手間がかかる.
・Basal-plusで基礎を補いつつSSIを併用する方法は個人的には楽で管理しやすい.
・さらにDPP-4阻害薬を併用すると血糖コントロールがさらにしやすくなる印象もある.
(ただしジャヌビア®は腎機能低下例には注意. また, Sita-Hospital trialは元々DPP-4阻害薬を使用している患者は除外されているので, 継続投与としての使用の結果ではないことにも注意が必要)