そうではない環境では, 夜間の心筋梗塞疑い症例の扱いに困ることもあるかと思う.
明らかにST上昇があるSTEMIで, CK-MBも上昇していて・・・ということならば困ることなくすぐにオンコールを呼ぶか, 転院を考慮しますが, 問題はnon-STEMIで, CPKの上昇もなく, 他の心電図もあまり有意な所見もなく...
そして頼りのトロポニン値が正常〜ごく軽度の上昇程度の場合. これは困る.
そのような時に1時間、2時間、3時間後のトロポニン値を評価する方法が有用かもしれない.
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トロポニンにはC, T, Iの3種類認められる.
・Troponin Cは心筋, 骨格筋で同一. TとIは心筋と骨格筋で異なり, 心筋特異性Trop T, Iは心筋梗塞の診断に有用.
・心筋梗塞早期ではTroponin Iのほうがより高感度, 数日〜7日ではTroponin Tの方が高感度と言われている.
・また, Trop Tは溶血でも上昇する可能性がある.
トロポニンはその時のみ評価ではなく, 1時間後, 2時間後の変動をみることで, non-STEMIのルールイン/アウトに有用というデータが幾つかある
(国内で可能な検査は高感度トロポニンTであり, ここではTrop Tのデータを載せる)
高感度Trop Tの経時的フォローによるnon-STEMIの評価
胸痛でERを受診した872例を対象とし, 0hと1h後の高感度Trop Tを評価したprospective study. (Arch Intern Med. 2012;172(16):1211-1218.)
・436例でderivationを行い, ルールイン/アウト アルゴリズムを作成
・さらに436例でvalidationを施行.
・STEMIや透析患者は除外.
母集団
来院時のTrop T値の分布
ルールイン/アウトの基準と感度, 特異度
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基準
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Derivation
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Validation
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ルールアウト
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0h値 <12ng/L
且つ 1h値Δ<3ng/L |
感度 100%
NPV 100% |
感度 100%
NPV 100% |
判定保留
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上下以外
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AMIは8%
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ルールイン
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0h ≥52ng/L
もしくは1h値Δ≥5ng/L |
特異度 92%
PPV 69% |
特異度 97%
PPV 84% |
ERでAMIを疑われた患者群を対象とし, 0h, 2h後の高感度Trop TをフォローしたProspective study (The American Journal of Medicine (2015) 128, 369-379 )
・STEMIは除外.
・1148例でDerivationを施行し, 517例でValidationを施行.
Derivation cohortの結果よりルールイン/アウトのためのアルゴリズムを作成.
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基準
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Derivation
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Validation
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ルールアウト
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0h, 2hでのTrop T<14ng/L
且つΔ<4 |
感度 99.5%
NPV: 99.9% |
感度 96%
NPV 99.5% |
判定保留
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上下以外
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AMIは15%
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AMIは15%
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ルールイン
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0h, 2hでのTrop T≥53
もしくはΔ≥10 |
特異度 96%
PPV 78% |
特異度 99%
PPV 85% |
AMIが疑われる306例を対象とし, 0h, 3hにおける高感度Trop Tを評価したprospective cohort (JAMDA 14 (2013) 409-416 )
・306例中NSTEMIは38例(12%)
・0hと3hにおけるTrop Tの値, 変動値のカットオフと感度, 特異度
ルールイン/アウト アリゴリズム
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基準
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Derivation
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Validation
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ルールアウト
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0h値 <23ng/L
且つ 3hΔ<3ng/L |
感度 100%
NPV: 100% |
感度 100%
NPV: 100% |
判定保留
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上下以外
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AMIは1%
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ルールイン
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0h ≥108ng/L
もしくは3hΔ≥7ng/L |
特異度 86%
PPV 41% |
特異度 88%
PPV 54% |
・前もって決めていたカットオフは,
hs-cTnTが<12ng/L 且つ 1h後の変動が<3ng/Lならばルールアウト
hs-cTnTが≥52ng/L または 1h後の変動が≥5ng/Lならばルールイン
それ以外は経過観察とした.
・最終的にACSと診断されたのは16.6%.
hs-cTnTの判断基準において,
ルールアウトされたのが63.4%. NPV 99.1%[98.2-99.7], Sn 96.7%[93.4-98.7]
ルールインされたのが14.4%. PPV 77.2%[70.4-83.0], Sp 96.1%[94.7-97.2]
経過観察群が22.2%. このうちACSは22.5%であった
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AMIかどうか迷う症例: 胸痛でERを受診したものの, ECG変化が乏しく, トロポニンも正常〜軽度上昇程度, エコーでも明らかな壁運動低下がない症例など.
でも否定しきれないという患者では, その後1~3hで再度トロポニン評価するとよい.
上記ルールアウト基準を満たせば, NPVは90%後半であり, 否定しやすい.
一方で判定保留ではnon-STEMIである可能性は1-20%程度あり, 要注意
ルールイン基準を満たした場合, non-STEMIの可能性は50%以上.
迷う症例ではフォローすることが重要といえる.