7ヶ月前に腹部大動脈破裂で腹部大動脈置換術を行っている.
術後経過は問題なかったが, 術後2週間後に撮られた腹部CTで既に少量の腹水を認めていた. そのまま退院し, 徐々に腹部膨隆が増悪. 腹水貯留も増悪したため, 精査目的に入院となった.
術後腹水であり, 乳び腹水か?と思われたが,
腹水検査では漿液性. TGもCholの上昇も無し. 細胞数も<250/µL, 単球90%.
腹水LDH上昇なく, Glu正常. TP 2.5g/dL, SAAG 1.1g/dL.
肝硬変無し. 脾腫なし. 門脈, 脾静脈, SMV狭窄, 閉塞も無し. 下肢浮腫無し. 腹水は大量に貯留しており, IVCも圧排するほど(Abdominal Compartment Syndromeに近い). 心不全も無し.
大動脈グラフト周囲には2-3cm程度の嚢胞性病変が残るのみ.
尿管損傷も否定的(腹水中Cre, BUNの上昇無し). さて原因は...?
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Perigraft seroma(PGS), Perigraft Serous Fluid Leakage
(J Vasc Surg 2011;54:637-43.)
Perigraft seroma (PGS); 血管グラフト周囲に生じる無菌性浸出液と血管壁で構成された嚢胞様構造物.
主に人口血管で生じる例が多く, 静脈グラフトでは1-2%程度のみ.
特に腋窩大腿動脈グラフトの様に皮下を通るグラフトでの報告が多い
特に腋窩大腿動脈グラフトの様に皮下を通るグラフトでの報告が多い
様々な要因が関連する. グラフト自体の問題, 軽度の炎症による漏出, グラフトに対する自己免疫機序での炎症等
AAAの置換術後でも報告例はあるが, 非常に稀とされる.
開腹AA置換術419例をReview.
111例が術後にCTを評価しており, その内18%(20)でPGSを認めた
(術後3M以降で, 3cm以上, CT値≤25HUを満たす構造で定義)
(術後3M以降で, 3cm以上, CT値≤25HUを満たす構造で定義)
111例中98例(88.3%)がPTFEを使用. 11.7%はDacron graft.
(PTFE: Polytetrafluoroethylene graft.)
PGS20例全例でPTFEを使用していた.
PGSの平均径は6.0cm[3.0-11.0], 内部のCT値は11.0HU[4.0-24.0]
AAA手術〜PGS検出まで平均51ヶ月[4-156]
AAA手術〜PGS検出まで平均51ヶ月[4-156]
PGSのリスクとなる因子は以下の通り
PGS 20例中4例でなんらかの介入を必要とした.
腫瘤拡大による症状, 主に腹痛を生じた例,
腫瘤が血管閉塞を来たし, 下肢虚血を呈した例,
PGSが破裂した例に対する対応.
腫瘤が血管閉塞を来たし, 下肢虚血を呈した例,
PGSが破裂した例に対する対応.
PGSの切除やドレナージ, 局所的にDacron graftに置き換え等.
PGSの内部はフィブリンが析出し, ゼリー状の物質で満たされる.
CT値は11-49HUの範囲となることが多い.
血液は50HU, CSF等の単純な液体は0-10HUであり, その間に入ることが多い.
血液は50HU, CSF等の単純な液体は0-10HUであり, その間に入ることが多い.
無症候であれば経過観察でよいが, 自然経過は未だ不明瞭.
徐々に拡大し, 破裂するリスクもある.
徐々に拡大し, 破裂するリスクもある.
末梢の血管グラフトで生じたPGSの肉眼, 組織像 (Ann Vasc Surg 2010; 24: 1005-1014)
PTFEグラフトに生理食塩水を注入し, 圧をかけると漏れるの図
Seromaを形成せず, Serous Fluid Leakのみ生じる例もある
59歳男性の腹部大動脈〜両側大腿動脈バイパス術後の患者.
(collagen-coated dacron graftを使用)
(collagen-coated dacron graftを使用)
術後浸出液は少なかったが, 術後4日後より腹部, 大腿, 膝窩の切開部から漿液性の排液が出現した. 排液の検査では漿液性.
発熱, 白血球上昇は認めず, 排液培養も陰性. 他検査問題無し.
腹部エコーではSeromaの形成も無し.
腹部エコーではSeromaの形成も無し.
術後4wkにoxytetracyclineをグラフト周囲組織に局注したが排液は続き, 8wkにドレナージ無しで退院となった経過. (Ann Thorac Cardiovasc Surg 2002; 8: 54–55)
PGSの対応:
決まった対応は無し.
ドレナージ, グラフトの置き換え, 抗血小板薬の中止, 経過観察等が選択肢となる.
ドレナージ, グラフトの置き換え, 抗血小板薬の中止, 経過観察等が選択肢となる.
アスピリンとシロスタゾールを中止し, 経過観察で改善した例も報告されている.
(Ann Vasc Dis Vol.2, No.1; 2009; pp44–46)
65%は自然に改善するとの報告もあり
(Ann Thorac Cardiovasc Surg 2002; 8: 54–55)
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この症例では漿液性腹水を呈する疾患が他に無く, 術後すぐからの腹水, 徐々に増悪している経過からSerous Fluid Leakageの可能性が高い.
ただし, 証明するのが難しい. そして治療も. 非常に悩ましいところ.
まずは抗血小板薬や抗凝固薬を中止することから始めたらどうだろうか.