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2017年9月20日水曜日

気管軟化症, EDAC 再掲

COPDや喘息で挿管管理を行い, 状態も改善しSBTもパスしたものの・・・
抜管後に突如呼吸困難増悪, CO2貯留, 再挿管... という経験ありませんか?

そういう時には気管軟化症(Tracheobronchomalacia: TBM) やEDAC(Excessive Dynamic Airway Collapse)を考えます.

気管軟化症(Tracheobronchomalacia: TBM) , EDAC(Excessive Dynamic Airway Collapse)
(Respirology (2006) 11, 388–406)

TBM; Tracheobronchomalacia
・気管軟骨, その周辺の筋, 弾性線維の脆弱化
・気管狭窄を来たし, 気管分泌増加, 咳嗽, Wheeze, 再発性気管支炎, 肺炎を生じる病態.

EDAC; Excessive dynamic airway collapse
・気管軟骨に被われていない気管背側の弾性膜の脆弱化.
前後方向に気管支が圧排され, 狭窄を来す.
・COPDや肺気腫, 喘息, TBMに伴うことが報告されている

通常気管は吸気時に拡張する.
・胸腔内が陰圧になる事で, 気管壁は伸展される.
 その際気管壁の平滑筋は緊張し, 拮抗する
・呼気時は胸腔内が陽圧となり, 気管内腔は縮小する.
・ その際気管壁の平滑筋は気管壁を維持するが,
  機能不全があると軟骨の無い後壁が貫入する EDAC.
 気管軟骨が脆弱であれば, 軟骨部が貫入する TBM.

イメージ


TBM, EDACの頻度
(Respirology (2006) 11, 388–406)(Curr Opin Pulm Med 2009;15:113–119)

後天性TBMの頻度は気管支鏡施行例の4.5%
・COPDで気管支鏡した内の23%, 慢性気管支炎の44%.
日本国内における, 4283例の気管支鏡施行例では50-100%の狭窄出現したのは12.7%.
 その内 72%50-80yの高齢者であった.
 75-100%の高度狭窄例は3.1%

EDACの頻度は報告により様々
・咳嗽時に気管径が>50%縮小するのは3wk以上の慢性咳嗽で気管支鏡を施行した群の14.1%
他の原因は, 喘息58.9%, 後鼻漏 57.6%, GERD 41.1%, 気管拡張症 17.9%
(CHEST 1999; 116:279–284)

COPD100例のProspectiveの評価ではEDAC20%で認められた.
・母集団の年齢 65±7, FEV1 64±22%
・EDACの有無で呼吸機能, 自覚症状に差は認めなかった.
(Chest 2012;142:1539-1544)

喫煙歴(過去, 現在)がある45-80歳の患者8820例の評価ではCTで評価したEDAC, TBM(ECAC)5%で認められた.
(JAMA. 2016;315(5):498-505. )
・COPD合併群では5.9%, 非合併群では4.3%COPDでは有意にリスクが上昇(AD 1.6%[0.9-2.7])
・GOLD stageが高いほど高リスクとなる
 GOLD 1(4.8%), 
 GOLD 2(5.6%), 
 GOLD 3(6.6%), 
 GOLD 4(7.2%)
・他には高齢者, 女性, 肥満がリスク因子

喘息患者におけるTBM, EDACの頻度
(Multidisciplinary Respiratory Medicine 2013, 8:32 )
・202例の喫煙歴(-)の喘息患者で気管支鏡を施行.
閉塞性肺疾患(-)62例をコントロールとして評価
TBM, EDACの頻度
TBM, EDACは重症喘息ほど多く認める.


TBM, EDACの原因
(Respirology (2006) 11, 388–406)
TBMは小児期発症する先天性のタイプと中年〜高齢者で発症する続発性のタイプがある.
・小児期では元々気管が細いため再発性の咳嗽, 呼吸困難, 呼吸器感染症を来すが気管が広くなり, 組織が強固となる学童期には消失.
続発性はTBM, EDAC双方あり, 中高年で多く, COPDや喘息挿管による刺激, 気管切開後に生じる事が有名.
長期間の人工呼吸器管理(PEEP)も原因となり得る.

他の後天性の原因
・胸部の閉鎖性外傷長期間の喫煙, COPD, 肺気腫, 喘息, 慢性炎症
 悪性腫瘍; 肺癌や甲状腺癌による気管支壁破壊
 機械的因子; 胸部手術など.
 慢性的な気管圧迫; 胸骨下甲状腺腫, 胸腺腫, 動脈瘤
 先天性気管支拡張; Mounier-Kuhn syndrome
 先天性の気管弾性線維の欠如, muscularis mucosa消失
 Ehlers-Danlos syndrome 
 甲状腺疾患; 腺腫による慢性の圧迫.
 Endobronchial electrosurgery

(Clin Chest Med 34 (2013) 527–555)


TBM, EDACの診断
繰り返す呼吸苦, 呼吸感染症, Wheeze, 抜管失敗例などで疑う.
・Wheezeは全体の51%, 喘息様発作は17%でのみ認める.
通常喘息の治療であるステロイドや
・気管拡張薬吸入の効果は乏しい.
血痰は認め得るが, 3.5%のみ.
非喫煙者の慢性咳嗽のうち, 最多の14.1%を占める原因.

TBMEDACでは進行する高CO2血症呼吸不全を呈することもあり, その場合挿管となる
・しかしながら挿管患者で上記を診断するのは難しい.
 挿管チューブがステントの役割を担う点,
 PEEPが気管支虚脱をマスクする可能性がある点.
上記例で改善し, 抜管した直後にWheeze, 呼吸苦出現し再挿管となる例も多い.
  繰り返す抜管失敗もTBM, EDACを疑うヒント.

画像所見
・呼気, 吸気時の画像評価で気管支径の変化を追う方法Cine fluoroscopyによる評価, 気管支鏡による評価が有用
・吸気-呼気の気管左右径の変化値が上気道で18%以上, 中気道で28%以上ならばTBMの可能性は89-100%, 上記(-)ではTBM0-5%のみ.

吸気, 呼気CTによる評価
(Journal of Computer Assisted Tomography 2001;25(3):394–399)
・23名のControl, 10名のTBM(EDAC)患者で吸気, 呼気CTを評価

気管前後径(cm)

吸気時
呼気時
%変化
TBM
Upper airway
1.6[0.9-2.5]
1.0[0.1-1.6]
39%[16-92]

Middle airway
1.9[0.6-2.4]
0.8[0.3-1.5]
53.5%[18-63]
Control
Upper airway
2.0[1.3-2.4]
1.8[-9~14.2]
11.2%[-6~37]

Middle airway
1.9[1.4-2.3]
1.6[1.2-2.0]
12.7%[-19~33]
気管左右径(cm)

吸気時
呼気時
%変化
TBM
Upper airway
2.6[1.7-4.7]
2.4[1.7-3.4]
3.9%[-5~15]

Middle airway
2.3[1.3-3.4]
1.1[0.9-2.5]
9.9%[-4~24]
Control
Upper airway
1.9[1.6-2.4]
1.8[1.3-2.1]
4.4%[-9~14]

Middle airway
1.9[1.4-2.3]
1.8[1.4-2.2]
4.4%[-26~28]
気管断面積(cm2)

吸気時
呼気時
%変化
TBM
Upper airway
4.3[1.7-9.2]
1.9[0.8-3.7]
50%[27-80]

Middle airway
3.3[1.4-5.2]
2.0[0.4-4.5]
44%[14-69]
Control
Upper airway
2.7[1.9-3.9]
2.4[1.5-3.3]
12%[-1.5~33]

Middle airway
2.6[1.9-3.9]
2.2[1.5-3.3]
14%[4-33]

気管断面積の変化率で評価する場合,
・上気道で>18%の変化はSn96%, Sp91%TBMを示唆
・大動脈弓レベルで>28%の変化はSn99%, Sp97%.

気管前後径の変化率で評価する場合,
・上気道で>28%の変化はSn87%, Sp92%TBMを示唆
・大動脈弓レベルで>30%の変化はSn84%, Sp78%.

カットオフはStudyにより様々.
・健常人のCT評価でも, 呼気時に50%虚脱する例が70-80%で認められる報告もある.
一般人のボランティアの評価では吸気, 呼気時の主気管支虚脱率は54%.
 右主気管支 67, 左主気管支 61%との報告もあり.
従って, 画像のみで評価するのではなく動的に評価することも重要.
 また症状がある場合に限り評価すべきと言える
(Clin Chest Med 34 (2013) 527–555)

気管支鏡所見
・直視下で気管内の動きが観察できるため診断のGold Standardとなる. 狭窄の程度, タイプも分かる
(Respir Care 2007;52(6):752–754)

TBM, EDACの治療
・気管拡張薬, CPAP, 気管内ステント, 外科手術が試される.
(Respirology (2006) 11, 388–406)

治療のアルゴリズム

(Disease-a-Month 63 (2017) 287–302)