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2017年9月13日水曜日

急性ポルフィリン症(おもにAIP)

参考
(Lancet 2010;375:924-37)(N Engl J Med 2017;377:862-72.)
(British Journal of Haematology, 2017, 176, 527–538 )

ポルフィリン症(Porphyria)はヘム合成経路の酵素障害, 欠損による疾患.
合成酵素は8つあり, ポルフィリン症も8つ.


欠損する酵素に代謝される物質が増加し尿中や胆汁へ排泄される

Porphyriaは急性発作を来すAcute Porphyriaと皮膚症状を呈するCutaneous Porphyriaに大きく分類
・Acute Porphyria(急性ポルフィリン症)はALA Dehydratase欠損, Acute Intermittent Porphyria(AIP), Hereditary coproporphyria, Variegate Porphyriaの4つ. 特に前者2つは皮膚症状は認めない. 
・Cutaneous Porphyriaは肝臓や骨髄で日光反応性のPorphyrinが産生, 蓄積し, 日光暴露部に皮疹や水疱を生じることが多い
・多いのはAcute intermittent porphyria, Porphyria cutanea tarda, Protoporphyria.

各Porphyriaの遺伝型, 関連遺伝子, 酵素, 急性発作・皮膚症状の頻度



Acute Intermittent Porphyria
・HEME合成の3つめの酵素: porphobilinogen deaminaseの欠損で生じる病態
常染色体優性遺伝で, 西欧諸国ではキャリアが1/2000程度.
ただし急性発作はリスクがある患者の10%未満でしか生じない
 遺伝以外に環境因子や遺伝子の修飾が関連していることを示唆

急性発作の80-90%が出産可能年齢の女性で生じる
・初潮以前や閉経後で生じるのは稀

AIPの典型的な経過
・健康な女性が数日持続する倦怠感や集中力低下を自覚しその後徐々に腹痛が増悪, 悪心・嘔吐, 軽度な神経症状(脱力, 感覚異常, 情緒不安定)が出現する.
・腹痛以外に背部痛や大腿部痛のこともある. また, 便秘や交換神経症状も多い症状
鎮痛薬は効果なし〜わずかに効果ある程度
・過去にも同様のエピソードでERを受診しており, 原因がわからない.
バイタルは軽度の頻脈, 血圧上昇程度.
・血液検査では軽度の肝酵素上昇, Na血症のみ. 低NaはSIADHパターンで, 40%程度で認める.
“Porphyria”purple urineの意味であるがAIPで蓄積するDelta aminolevulinic acid, porphobilinogen は無色であり, AIPでの尿色は正常となる.
 室温で光に暴露させると, 徐々に褐色へと変化する
・急性発作の際に20%で痙攣発作あり
・若い女性の痙攣, 腹痛, Na血症は急性Porphyrinを強く疑うきっかけとなる

Acute attackは通常1-2wk以上は持続しない
致命的な神経障害を来たす場合もあり
Acute attackの間にPorphyrinogenicを使用した場合に合併
・運動神経障害が主
 早期では四肢の疼痛が多い症状(筋肉痛)
 近位筋の萎縮が徐々に出現し, 特に上肢筋で多い.
麻痺は少ないが, 起こる場合は局所のみ.
呼吸筋麻痺, 球麻痺を来たす場合もある.

徐々に改善を認めるが, 症状残存する場合も多い
・錐体路症状, 小脳失調, 一過性失明など
CSF所見は正常

急性発作の誘因
・薬剤の使用は発作のリスクとなる
 Cytochrome P450を消費することで, 肝臓のHemeの需用量を増加させALAS1を誘導する.
 よく知られているのが経口避妊薬, 抗菌薬(EM, ST合剤, リファンピシン), 抗けいれん薬(フェニトインなど), 麻酔薬(バルビツレート)
女性ホルモンも関与しており, それが女性でAIPが多い理由の1
・炭水化物摂取の制限も誘因となる
・アルコールの大量飲酒, ストレス, 感染症, 喫煙もリスク因子.


米国の急性ポルフィリン症108例の解析
(The American Journal of Medicine (2014) 127, 1233-1241)
90例がAcute intermittent porphyria,  9例がHereditary coproporphyria, 9例がVariegate porphyria.

AIPの発作時の症状, 所見
・腹痛が74%, 他には悪心嘔吐が73%と多い.
・倦怠感や脱力, 便秘, 抑うつ症状が5-6割.
・下痢も3割で認める.

AIPでは精神症状を呈し, しばしば精神疾患患者に紛れている
(Isr J Psychiatry Relat Sci 2006;43:52-56 )
・抗精神病薬がAIPの発作誘発因子となる可能性もある.
精神症状としては, 統合失調症様, せん妄, 抑うつ症状, 幻覚など呈する
・精神疾患の入院患者3876例でAIPを評価した報告では210/100000AIPであった報告もある.(Am J Psychiatry. 1985 Dec;142(12):1430-6.)
一般人口では1-2/100000であり, 明らかに多い頻度

急性ポルフィリン症の診断
尿中Porphobilinogen1st Step
・血中ALAは診断に必須ではないが, 陽性ならば手助けとなる(鉛中毒, ALA dehydratase porphyriaとの鑑別に役立つかも)
・Acute porphyria(AIP, HC, VP)全てで尿中Porphobilinogen, 血中ALA上昇を認める.
尿中Porphyrinは偽陽性が多く, 診断に有用ではない非特異的Coproporphyrinuriaが多い.
・尿中Porphobilinogen>10ULNならば迅速に治療を開始すべき.

急性ポルフィリン症のタイプの判断
・血漿Fluorescence emission spectroscopyが推奨される
 624-628nmPeakがあれば, Variegate porphyriaと診断可能.
 AIP, HCではPeak620nmとなるため, 分類不可能.
他に便中Porphyrin濃度, Coproporphyrin分画が診断に有用.
 HCでは, 便中Coproporphyrin isomer III/ Isomer I >2.0
尿中, 血中, 便中のPorphyrin濃度検査は寛解期は正常値をとるため, 発作時の測定が必須となる.
寛解期におけるFluorescence emission spectroscopy>15yrの患者におけるVP診断のSn 60%, Sp 100%.

AIPの急性期治療
・急性期では対症療法が基本となる
 輸液による糖の補給(10%TZ+0.45%NaClの補充)
 Porphyriaのリスクとなる薬剤のチェックも重要

急性期に使用する可能性がある薬剤で, AIPの発作リスクとなる可能性があるもの