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2015年8月7日金曜日

妊婦の静脈血栓症

妊娠中は凝固機能が亢進する
 Protein Sの低下, Protein C抵抗性の増加
 Fibrinogen, Factor V, IX, X, VIIIの増加
 Thrombin産生増加, Thrombin-antithrombin複合体↑,
 Prothrombin Fragment 1, 2, Soluble fibrinの増加を認める.
 血管内皮障害 + 静脈環流うっ滞も認められており, Virchow’s triadの全てが障害 ⇒ VTEのリスクとなる
 他に嘔吐による脱水症や帝王切開, 体動の低下もリスク
(Lancet. 2010 Feb 6;375(9713):500-12.)

妊娠中のDVT, PEのリスクは 5-12/10000
 血栓症全体で考えると20/10000出産. 80%が静脈,20%が動脈系
 妊娠のVTEのRiskは7-10倍, 妊娠全期間でRiskは同等.
 産褥期(出産~6wk)でのVTE Riskは3-7/10000であり, 出産後も高Risk状態が持続する. 特に産後1-2wkで高Riskとなる
 さらに >35歳, 肥満, 経産婦, VTEの既往(再発率は15-25%), Thrombophiliaの既往(+), 家族歴(+)ではRisk増
 基礎疾患, 悪阻, 子癇, 4日以上の安静もRiskとなる
 帝王切開は通常分娩に比べてRiskが高い(OR 13.3[3.4-51.4])
(AFP 2008;77:1709-16, Lancet. 2010 Feb 6;375(9713):500-12.)

妊娠の時期、出産後の期間別VTEリスク(頻度/10万woman-yr)
Ann Intern Med 2005;143:697-706
妊娠中はVTEのみならず, Strokeにも注意
 妊娠中の再発性のStrokeの頻度は1.8%[0.5-7.5]
 産後6wkでは再発率が高く, 4.8%[0.6-35.9]
 妊娠女性, 産後女性において, Stroke既往がある場合, UFH, LMWHはStroke予防効果も期待できる可能性がある. (Crit Care Med 2010;38:S57-63)

出産前後のVTEリスク因子 (Lancet. 2010 Feb 6;375(9713):500-12.)
出産前後のVTE
OR
出産後のVTE
OR
Thrombophilia
51.8[38.7-69.2]
出血(外科手術無し)
4.1[2.3-7.3]
VTEの既往
24.8[17.1-36.0]
出血(外科手術有り)
12.1[3.9-36.9]
VTEの家族歴
3.9
感染(Vaginal)
20.2[6.4-63.5]
表在静脈血栓
10.0[1.3-78.1]
感染(Caesarean)
6.2[2.4-26.3]
BMI>25kg/m2
1.8[1.3-2.4]
IUGR
3.8[1.4-10.2]
出産前にImmobilisationあり
7.7[3.2-19.0]
Pre-eclampsia
3.1[1.8-5.3]
BMI>25 + Immobilisation
62.3[11.5-337.6]
Pre-eclampsia and IUGR
5.8[2.1-16.0]
他のPossible Risk
OR
緊急帝王切開
2.7[1.8-4.1]
Caesarean delivery
2.0[1.8-2.4]
出産前のVTE
OR
Caesarean delivery
1.3[0.7-2.2]
Assisted reproduction
4.3[2.0-9.4]
年齢
2.1[2.0-3.3]
喫煙
2.1[1.3-3.4]
年齢
0.8[0.6-1.1]


経産婦
1.1[0.9-1.4]


経産婦
1.7[1.2-2.4]



妊婦のDVT
 DVTは妊娠全期間を通じて, 等しく発症, PEは出産後に多い RR 15.0[5.1-43.9]
 妊婦のDVTでは左側、近位部のDVTが多い(CMAJ. 2010 Apr 20;182(7):657-60.):
  78-90%が左足, 72%がIliofemoral vein vs. 非妊婦では 55%が左足, 9%がIliofemoral vein
 左側 or 両側で82.2%[75.1-87.5]を占めるとされる
 骨盤内のDVTの割合も多く, 約11%を占める(非妊婦では1%程度)
 出産後DVTの64%が帝王切開後に発症する
(AFP 2008;77:1709-16)

妊婦のDVTの予測: LEFt
DVTが疑われた194名の妊婦の検査前確率を予測 (Ann Intern Med 2009;151:85-92)
 母集団のDVT罹患率は8.8%(US, 他画像検査で診断)
 Well’s criteria, 他6項目のDVT予測能を評価したところ, 3項目が有意差を持ってRisk因子となった.
LEFt
OR
Left leg symptoms
44.28[3.22-609.69]
>=2cm calf cercumference difference
26.89[6.10-118.54]
First trimester
53.43[7.12-401.02]
LEFtによるDVT Risk評価
LEFt
DVT(+)
DVT(-)
Sn(%)
Sp(%)
LR(+)
LR(-)
0
0
89
100[81-100]
50[43-58]
2.0[1.7-2.3]
0[0-0]
>=1
17
88




 LEFtが全て陰性ならばDVTはほぼ否定可能と評価可能.
 DVTを示唆する所見としては他にRedness, Warmthがある.

妊婦のDVTの検査, 診断
非侵襲的な検査としては下肢静脈エコーとD−dimer.
 ただし, 妊娠そのものがD−dimer上昇させるため, D−dimerは偽陽性が多い点に注意.
 陰性ならば除外は可能(感度100%、特異度60%).
⚪︎ 検査前確率が低い(LEFt 0点)ならばD−dimerやエコーにて除外する.
⚪︎ 検査前確率が高い(LEFt≥1点)ならばエコーで陰性でも可能性は残す.
 疑わしければエコーが陰性でも治療を考慮する.
 また、フォローが必要.
 PEの疑いならばリスク-ベネフィットを考慮して、CT血管造影やVQ scanを考慮する.

CTやVQ scanの放射線暴露について
 CTやVQ scanは胎児奇形, 悪性腫瘍Riskが問題となる
 胎児奇形に関する被爆量の関係は不明確であるが, マウスでは50-250mGy, 哺乳類では250-500mGy以上の暴露で奇形Riskが上昇すると言われている.
 ヒトではStudyが無いが, 100mGy以上の被爆がRiskとなり得る.
 悪性腫瘍Riskに関しては, 10mGyの被爆により,  出生児が20歳までに悪性腫瘍に罹患する確率が0.03-0.04%上昇するとされる
 胸部XP, VQ scan, CT血管造影の胎児被爆推定量は以下の通り
検査
mGy
検査
mGy
胸部XP
<0.1
CT angiography
0.1
VQ scan
0.5
CT venography
0.05
 極力避けたほうが良いが, 1度程度のCTやVQ scanの評価はそこまで胎児奇形や悪性腫瘍のリスクにはならない可能性が高い.
 報告ではVQ scanはCTAよりも被爆量が少ないという報告もある.
 リスク-ベネフィットを考慮してこれらの適応を考える.
 ちなみにMR血管造影も肺塞栓の評価には有用であり, そちらを考慮するのもアリ.
(N Engl J Med 2015;373:540-7.)(Lancet. 2010 Feb 6;375(9713):500-12.)

妊婦のVTEの治療
 Warfarinは胎盤通過性あり, ヘパリン(UFH, LMWH)は通過性無し
 NOACも胎盤通過性があるため避ける.

 器官形成期(4-8wk)のWarfarin使用にて, 15-56%で流産を合併. 30%で胎児奇形を生じる.
 妊娠後期ではWarfarinの胎盤通過により, 胎児出血を生じる.
 また, 14%で神経異常を生じ, 4%で精神発達障害を合併.

妊娠中の抗凝固療法
 Warfarinは妊娠中は禁忌, 授乳中はOK
 ヘパリン(UFH, LMWH)が第一選択 ⇒ 副作用が少なく, 胎児への影響も少ない
 治療期間は原則6M以上, 出産後も授乳していれば継続.

妊娠中のLMWHの使用
 LMWHが好ましいが, 国内のLMWHはVTE治療に対して保険適応はない.
 LMWHは腎排泄が亢進し, 半減期が短縮するため, 2回/day SQが推奨 (NEJM 2008;359:2025-33)
LMWH
<50kg
50-69kg
70-90kg
>90kg
Enoxaparin(クレキサン®)
40mg bid
60mg bid
80mg bid
100mg bid
Dalteparin(フラグミン®)
5000U bid
6000U bid
8000U bid
10000U bid
Tinzaparin
175U/kg once daily
Enoxaparin(クレキサン®) 1mg = 100IUで計算。
 国内のクレキサン®は2000IU製剤であり, つまり20mgとなる.
 従って皮下注する場合は1回あたり2−3本必要となる計算.
Dalteparinは2500, 3000, 4000, 5000単位製剤があるが, 皮下注製剤はなく, 静脈投与のみ.

Antifactor-Xa濃度の評価
 LMWHの長期使用による蓄積効果が示唆されており, 開始時は1回/wkでAntifactor-Xa濃度を測定, 目標値(目標値は 0.5-1.1U/mL 3-6hr post dose)に達成したあとは1回/moで測定すべきとの記載あるが, 最近は定期的なAntifactor−Xa濃度の測定はアウトカムとの関連が不明であり、測定を推奨されないとしている。(N Engl J Med 2015;373:540-7.)(AFP 2008;77:1709-16)
 肥満が重度, 腎障害が強い場合のみ, 抗Xa因子活性を評価 (長期使用による蓄積効果もあり, 1回/mo評価も推奨される) 

出産時の抗凝固療法
 分娩開始時に中止する, 
 事前に分かっていれば, LMWH, UFHは24hr前に中止
 High Risk(人工弁, VTE)では, 分娩開始時に中止
 UFHならば出産4-6hr前の中止でも可
 硬膜外麻酔はLMWH中止後12-24hrは施行しない(最低でも4時間は空ける)

出産後の抗凝固療法
 出産後>12hrでLMWHを再開する
 予防的LMWH投与ならば, 硬膜外麻酔抜去後>12hrで開始(最低でも4h以上は空ける)
 脊髄麻酔後は24hrは開始してはならない(最低でも4h以上空ける)
 LMWH, Warfarinを併用し, 3mは継続する
 中止後もDVT Riskを再評価すべき

Warfarinは少ないながら母乳中への排泄もあるため, 授乳中もLMWHを持続した方が良い.

妊婦のVTEの予防
予防の適応 (AFP 2008;77:1709-16)
DVT/PE既往
Thrombophilia
開始時期
終了時期
(+),[血栓症のリスク(+)]
(-)
Controversial
産後6wk
(+),[血栓症のリスク(-)]
(-)
直に開始
産後6wk
(+)
(+)
直に開始
産後6wk
(-)
(+) ATIII欠損, FVL(Homo)
直に開始
産後6wk
(+) 抗リン脂質抗体症候群
直に開始
Aspirin ± LMWH
産後6-8wk
(+) Pro C, S欠損
直に開始
産後6wk
(+) FVL, P G20210A(Hetero)
Riskがあれば開始*
産後4-6wk
* 家族歴, 入院, 下肢固定, 基礎疾患などリスクなければ予防の必要なし

予防投与
LMWH
<50kg
50-90kg
>90kg
Very High Risk
Enoxaparin(クレキサン®)
20mg/d
40mg/d
40mg bid
0.5-1.0mg/kg bid
Dalteparin(フラグミン®)
2500U/d
5000U/d
5000U bid
50-100U/kg bid
UFH
1st Trimester 5000IU SQ bid
2nd Trimester 7500IU SQ bid
3rd Trimester 10000IU SQ bid

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LMWHが使用できないならば入院して予防も治療もするしかない現状。
LMWHが使えたとしてもクレキサン®を何本も打たないといけないという現状。
困ったものですね。

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