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2016年2月24日水曜日

Gastroparesis (UpDate)

Gastroparesis
(Medscape J Med 2008;10:16)

古典的には, 「機械的閉塞が無いにも関わらず, 胃排泄の遅延を来す病態」をGastroparesisと呼ぶ.
・糖尿病, 術後, 特発性が大多数を占める原因であるが, 他にも様々な原因が考えられる.
・膠原病では強皮症の消化管症状として有名.
・神経変性疾患ではPD以外にDLB, MSA等自律神経障害を伴う疾患で多い.
原因
頻度
原因
頻度
Idiopathic
35.6%
Parkinson
7.5%
(Postviral)
8.2%
膠原病
4.8%
糖尿病性
28.8%
小腸のPseudo-obstruction
4.1%
術後性
13%
その他
6.2%
・平均発症年齢は34yr. 82%が女性であった.
・米国では全人口の4%を占めるとされる.
・症状は軽度, 間欠的な悪心, 少量の食物摂取での満腹感, 嘔吐など.

補足) 胃の蠕動 (Southern Medical Journal 2007;100:281-6)
胃の蠕動運動は3回/min, 十二指腸は11-12/min
 胃壁のIterstitial cell of CajalによりPaceが形成されている.
 健常成人では胃内容物は90-120minで完全に排泄される.

最近の考え方としては, 
胃排泄障害の程度と症状, QOL障害の関連性は乏しく「胃の排泄遅延」による症状とする定義は考え直す必要があるかもしれない.
・具体的には, 「胃の神経筋機能の異常」による悪心, 嘔吐, 易満腹感, 上腹部痛, 違和感を呈する病態と考えるべき
機能性胃腸症(Functional dyspepsia)とオーバーラップしている.
 特に Postprandial distress syndromeが類似しているか
(Gastroenterol Clin N Am 44 (2015) 1–7 )

Gastroparesisのパターンとしては,
 胃の調節力の異常
 胃蠕動運動の障害に伴うもの
 幽門部の攣縮, 括約不全によるもの
 十二指腸の運動障害
 自律神経障害
 臓器の過敏症 といった機序がある
・症状に応じて, サブタイプで分類することもある

Gastroparesisの臨床症状
悪心, 嘔吐, 早期の満腹感が最も多い症状
・悪心 92-93%, 嘔吐 84-86%, 早期の満腹感 60-68%, 腹部膨満 75%
・腹痛も多く, 46-89%で認められる. 
・腹痛の性状としては以下の通り
腹痛の性状
%

%
限局性
76%
夜間の腹痛
80%
上腹部
36%
食事により増悪
60%
持続痛
28%
食事により軽快
15%
Burning, Vague, Crampy
64%


食欲減退には繋がらず, Gastroparesisの患者は肥満者が多い.
・DM患者では, 食事通過性が亢進, 減弱するため,  血糖コントロールが難しくなることもある

Gastroparesisの主要な症状
 Gastroparesis 393例を評価し, 最も重大な症状の頻度を評価
(Neurogastroenterol Motil. 2013 May ; 25(5): 427–e301.)

Gastroparesisによる腹痛の部位
(68例のGastroparesis(特発性 50例, DM性 18例)中, 腹痛は90%で認められた. 悪心は96%.)
(CLINICAL GASTROENTEROLOGY AND HEPATOLOGY 2010;8:676–681)

Gastroparesisの原疾患 糖尿病性のGastroparesis
基礎疾患で最も多いのはDM.
・DM患者の18%が消化器症状を訴える.
・長期のType 1 DM患者では27-58%で胃内容排泄遅延を認める.
・Type 2では30%程度.
・自律神経障害, 末梢神経障害, 心血管イベントとの相関がある.
・Intersitial cells of Cajal(ICCs)は平滑筋, 神経に連絡しており, 胃の蠕動運動に関連する. 
・DM患者ではICCsの減少を認めることが報告されている
・血糖値にも関連し, >270mg/dLでは胃からの液体排泄が遅延する
・血糖の改善とともにGastroparesisの改善を認めることもある

特発性Gastroparesis
患者の90%が女性で, 若年〜中年が殆どを占める.
・明らかな原因, Triggerがなく, 徐々に発症することが多い.
・一部では, Viral infection後に発症するものもある.
・Postinfectious idiopathic gastroparesisは予後良好で, 数年の経過で改善, 消失することが殆ど.
・Tetanus, Anthrax, Hepatitisワクチン後の発症もある
・ICCsの異常ではなく, 胃の筋症が原因とされる.
・一部では好酸球浸潤を認め, 炎症が関与している可能性も示唆.

その他の原因
Postsurgical; Vagotomy, 潰瘍に対するドレナージ, 悪性腫瘍術後の5%でGastroparesisを合併する
 Roux-en-Y法ではRoux stasis syndromeと呼ばれる
全体の25-30%が非DM, 非術後, 非IdiopathicなGastroparesis
 Gastric dysmotility; GI tractの全体, 広範囲の運動障害
 GERDの57%に胃排泄能の低下を認める.
 非閉塞性の膵癌の60%, 他の悪性腫瘍の数%でGastric stasisを認める
 他に, 放射線療法後, 萎縮性胃炎, 腹腔動脈閉塞, Crohn’s diseaseでGastroparesis様の症状を認める.

他の原因
Chronic intestinal pseudo-obstruction
Sclerodermaの40-67%でGastroparesisを認めるが, SLEや皮膚筋炎では少ない.
Amyloidosisも原因となる
慢性の便秘, IBS, Idiopathic megarectumでは19-64%でGastric Stasis(+)
Parkinson病は原因の7%を占める. 病気自体による機序,  使用する薬剤の副作用によるものの2つの原因が考えられる
CNS疾患; Stroke, 多系統萎縮, GBS, MSなど様々な原因.
肝疾患, 慢性腎不全も原因となり得る.
原因となる薬剤 (Southern Medical Journal 2007;100:281-6)
Opioid analgesics
抗コリン薬
TCA
Ca-ch阻害薬
Progesterone
Aluminum hydroxide antacids
Adrenergic-R agonists
Alcohol
タバコ, ニコチン
特発性と糖尿病性の比較:
特発性 254例, 糖尿病性 137例の症状頻度を比較
(CLINICAL GASTROENTEROLOGY AND HEPATOLOGY 2011;9:1056–1064 )
年齢, 性別, BMIの分布
特発性もDM性も女性で多い.
・年齢分布は2型DMでやや高齢発症が多い傾向.

発症年齢と症状の持続期間.
・感染症状が前駆症状として認められたのが10-20%程度
・特発性, DM性で変わらない

症状の頻度 

・特発性では腹痛が他より多く, DM性では嘔吐が多い

症状のOnset, 経過

・急性発症が約半数. 
・経過は慢性経過, 慢性増悪,  慢性経過で急性増悪を繰り返すパターンが1/3ずつ

Gastroparesisの診断 (Southern Medical Journal 2007;100:281-6)
Gold standardは固形食のシンチグラフィ
 99MTc sulfur colloid-labeled egg sandwichを用いて, 胃の通過性をシンチグラフィで評価.
 摂食後2,4hで評価し, 排泄性を診る.
2時間で60%以上, もしくは4時間で10%以上残存していれば胃の排出障害があると判断される
・4時間で11-20%の残存があれば軽症, 21-35%では中等症, 36-50%では重症, >50%では最重症と判断.

・正常でも排出までの時間は様々であるため, 短時間の評価だけでは不十分.
・また排出の遅延の程度と症状の相関性は弱い
・偽陰性が2-4割で認められる.
(Gastroenterol Clin N Am 44 (2015) 1–7)

Breath test
 nonradioactive isotope 13Cを摂取→十二指腸で吸収され, 13CO2となって呼気より排泄される.
Electrogastrography(EGG)
 心窩部に電極をセットし, Dysthythmia, Amplitudeを評価する方法

Gastroparesisの治療
胃排泄を亢進させる薬剤
薬剤
機序
Doseing
Metoclopramide
Dopamine D2-R antagonist
-5HT4-R facilitaion of acetylcholine release from enteric nerves
-5HT3-R antagonist
5-20mg qid
Erythromycin
Motilin-R agonist
50-250mg qid
Domperidone
Peripheral dopamine D2-R antagonist
10-30mg qid
Bethanechol
Muscarinic-R agonist
25mg qid
Pyridostigmine
Acetylcholinesterase inhibitor
30-60mg tid
Metoclopramideは胃排泄亢進に有用だが, 30%が副作用で中断. Dystonia, プロラクチン分泌, 倦怠感等.
 DomperidoneはBBBを通過しないため, 中枢性の副作用が少ないが, 心原性の突然死のリスクが高くなるとの報告があり, 推奨されない.

Evidenceは無いが, 他の制吐剤も効果が期待されている.
 症状の緩和に関与する可能性があるが, 原因にもなり得る為注意
Drug
胃排泄への効果
Dopamine antagonist
Prochlorperazine, thiethylperazine
様々
Muscarinic antagonists
Scopolamine
遅延させる
Histamine H1 antagonists
Dimenhydrinate, meclizine
遅延させる
Serotonin 5-HT3 antagonists
Ondansetron, granisetron
様々
Neurokinin NK1 antagonists
Aprepitant
遅延させる
Cannabinoids
Dronabinol
遅延させる
Tricyclic antidepressants
Amitriptyline, nortriptyline
遅延させる
Other antidepressants
Mirtazapine
Benzodiazepines
Lorazepam
Corticosteroids
Prednisone
生姜は弱い5-HT3 antagonistであり, 効果があるとされる.
他には上部内視鏡検査による幽門括約筋へのボツリヌス毒素注射, ペースメーカーの留置, 外科手術等も治療の選択肢として入る.